みんないっしょのむいかめそのじゅーいち!
三人がほくほくしながら一階へ向かうと、真っ先にハーツさんが風呂場への扉を開けた。
そして視界に飛び込んで来たのは三人が並んで着替えられるくらいの広々とした脱衣所兼洗面所だ。
高級ホテルのような雰囲気の脱衣場に洗面台があって、ドラゴさんから、ふわー、という気の抜けた声が漏れる。
大きな鏡があるので、朝や夜はここまで来て歯磨きしたりすればいいってことだろう。
ていうか、黒が多い大理石みたいな石が洗面台に使われていて、めっちゃシブい。なにこれカッコイイ。壁が茶色いからか全体的にシックな感じになってて、イケオジが住んでたらテンション上がる仕上がりになっている。
……これ絶対ワタナベさんの趣味だろ。
そんなことを思ったりしつつ、細けーことァ全部放置して服を脱ぐ。
「よっこいしょおー」
気の抜けた声を発しつつ上着を脱いだら、ちょっと困った事態が発生していた。
「……畳み方分からんねこの服」
そうなのである。
黒タンクトップとズボンなドラゴさんはともかく、白いコートを着ているハーツさんも、マントやらなんやらを装備しているアタシも、若干ファンタジーな服ゆえに畳み方が分からなかったのである。
え、でも畳まないと変なシワつくよねこういうの。なんか嫌なンすけどそれ。
『そういう時こそ所持品に!』
ワタナベさんの一言にハッとする。その手があったか。
「なるほど」
「マジで便利ね所持品欄」
三人が脱いだ上着をひょいひょいと収納する。が、便利ではある反面違和感がすごい。
脱いだはずの服が無いと妙にソワソワしてしまった。なにこれ。
所持品欄に脱いだ服があるのを確認してなんとか気を落ち着けながら、脱いでいく。
「えっ、下着がパンツだけってこんな楽なん?」
「服脱いだらあとパンツだけって洗濯物も少ないね?」
下着姿での会話である。
ていうか、みんなボクサーパンツなのな。ドラゴさんが黒でハーツさんは青、アタシは緑と色は違うけど型は同じボクサーパンツだ。ゲームじゃ下着とかまで設定出来なくて、謎の白いパンツ履いてたけど、なるほど、ボクサーパンツはアリだな。
そしてブーメランパンツとかTバックとかふんどしとかそういうのじゃなくてよかった。そんなん絶対わろてまう。
ふと、ハーツさんが何かに気付いた。
「うっわぁ、なんですかこの胸筋」
わかる。
いい感じの筋肉だよね。
だがしかし見るところは他にもある。
「いや腹筋もでしょ」
「わたしのお腹の腹筋そんなにガッツリ腹筋! って線入ってない気がして」
「エルフなんだしそんなモンじゃね?」
むしろガチムチのエルフとかあんま見ないよね。線が細いイメージ強いというか。
「健康的な男性の腹筋て感じでそんなに鍛えられてないですね」
「アタシの腹もだいたいそんな感じっすけど」
「……ユーリャさんの場合、褐色肌に差し込んだ陰影のせいかめっちゃ筋肉あるように見えますね」
「え、マジ?」
「マジ」
マジかぁ。
鏡で確認すると、たしかに光の当たり方で筋肉が増えたり減ったりしてる気がした。マジかぁ。
「ねぇねぇ見て見て自分脇腹に謎のナナメ線入ってる!」
楽しそうなドラゴさんの声でそっちを見たら、なんかすげェのが目に飛び込んで来て変な声が出た。
「ヒャァー、ドラゴさんのウエストがめちゃくちゃ細く見えるなにこれ」
「実際は体格が一番大きいから一番ウエスト太いはずなんですけどね……」
「これが逆三角の法則……」
三人の中で一番筋肉がある上に、肌が絵の具被ったみたいな物理的な白だからもう人外感しかない。なにこのひと。
「うーん、脇腹の下のここんとこに黒いウロコ入って来てるからそのせいで余計にそう見えてんじゃないの?」
「なるほど? 黒って引き締め色っすもんね」
納得しかけたものの、ハーツさんが冷静にアタシらを見比べながら呟いた。
「……いや、ユーリャさんと同じくらいじゃないです? ドラゴさんのウエスト」
「は? ふざけてンの?」
「えへへ?」
「種族差にしてもどうなってンすか骨格」
「さあ?」
真顔で首を傾げるドラゴさんである。わろとる場合か。
「むしろユーリャさんこそそのしっぽどうなってんの?」
「知らんよ尾骶骨から生えてんじゃね」
「なんで動くん?」
「知らん」
猫のしっぽみたいになってんじゃね知らんけど。
「そういやこのウロコどこまで……うわっ……」
脇腹のウロコの行き先というか生え先が気になったらしいドラゴさんがパンツの中を確認してしまったその時、誰も聞いたことないくらいにドン引きした声が発された。
「え、なに、急にどうしたんですかドラゴさん」
「すげェ声出てたね今」
あまりの声にビックリしたハーツさんが慌てたように歩み寄る。
そして、そんなドラゴさんの口からとんでもないセリフが飛び出した。
「…………この白ナマコでっかい…………!」
「唐突な下ネタやめてください」
さすがのハーツさんも真顔である。
「え、だってこれ、でっっっかいよ!?」
「そんな溜めながら言うほど?」
二度見した挙句ものすっげェ嫌そうに顔を歪めるドラゴさんだが、そんなひでェ顔するくらいなら見なきゃ良かったのに。
「や、だって、ほらドラゴさん、体格クソデカじゃないですか。そりゃそこもクソデカに決まってますよ」
「ハーツさん?」
しみじみ言ってるけど、下ネタ嫌なんじゃなかったん?
「海のナマコでもこんな大きさ見たことないよ……」
「言わんくていい」
そういう情報いらんから。
「体格といえば……そうなると一番小さいのはユーリャさんになりますね?」
「テメーらが無駄に体格クソデカ設定にしてただけだろこっちは標準よりデカいですぅ!」
勝手に小さいとか言うんじゃねェ。心外だわ。
……いや、何の話これ?
『ご馳走様です……』
「うるせェ黙ってろ」
何がご馳走様だ火炎放射器で焼くぞお前。
そんな一悶着がありつつも、なんとか腰にタオルを巻いて入浴開始となった。
ワタナベさんが露天風呂“風”と言った通り、入って正面の壁一面に大きな窓があって、その向こうに外の景色、に見立てた竹林のような景色が見えていた。外じゃなくて中庭のような物を風呂場の敷地内に作った感じだろうか。
外から丸見えにするのもアレだし、まぁこれはこれでアリだな。
で、肝心の浴槽だが、壁に面した木製の四角い浴槽の角にめり込ませるように設置されたゴツゴツした大きな岩の、てっぺんあたりからお湯がだばーとしてるという掛け流しタイプである。旅館とかでよくあるやつやね。
ファンタジー世界なのになぜか和風っぽいし、循環させてるからかヒノキの香りがすごい。
こういうの趣味じゃない女子だったらどうすんだとか思いはしたが、三人とも喜んでるし結果オーライか。
洗面器でばっしゃばっしゃとお湯を被り、腰のタオルで体を擦って洗う。
ここしばらくの汚れでか、若干タオルが茶色くなって三人が地味にショックを受けたりしつつ、なるべく早急に石鹸とかシャンプーとか作ろうという話になった。
「洗顔石鹸も欲しいですね」
「そーなると化粧水とかもいるくない?」
「あー、たしかにー」
湯船に浸かってまったりしつつ、そんな会話で息を吐く。
石鹸で洗うと顔面パリパリしてくるもんね。
「色々作るものあるなぁ……えーと、シャンプー、リンス、コンディショナー、洗顔石鹸にボディーソープ、入浴剤も欲しいし、えーと化粧水に乳液でしょ、あ、顔パックとかも欲しいなぁ」
「え、そんなんしてるおっさんになるけどいいの?」
指折り数えて今後作る予定の物を確認するドラゴさんだが、それ女の子が必要なモンでしょ、おっさんに必要なん?
「おっさんだろうがなんだろうが、肌は綺麗な方がいいでしょ」
「紛うことなき正論」
ぐうの音も出ねェわ。
「ほんじゃ作ったら量産しといてー」
「わかったー」
村の薬草とかとコラボ展開させりゃ一儲けできそうだしね。夢が広がるぅー。
つってもすでにブランド品の石鹸はあったから、上手くやんねーとすぐポシャる気がするなァ。ほんならまずは情報収集か。
「お風呂出たらご飯食べましょう」
「そーね」
「わーい、何作ろーかなー」
まだ色々足りねェからがんばるかー。テキトーに。
そんな感じでまったりと、ギルドハウスでの生活が開始されたのだった。
更新速度を上げたいので頑張っております。
明日無理かもしれんけど頑張ります( ᐛ )(良かったら応援よろしくお願いします)




