みんないっしょのむいかめそのきゅうー!
クレイヤーさんと別れ、移住許可証を村長さんに預かってて貰うことにしたあと、まずは元領主館があったらしい敷地に向かうことになった。
村長さんから地図を預かったものの、一応立会人として付いてきて貰っている。
道中魔物や獣が一切出て来ないから不思議に思っていたら、村の薬草の加工品『魔獣避け香』を使っているのだとか。
そんな便利な物あるならもっと色々たくさん使えばいいのにと言ったら、貴重な薬草を使っているので本来なら貴族とかしか使えないくらいの代物だから難しいとの返答があった。
なるほど、そりゃたしかに難しいわな。
そんなこんなでサクッと辿り着いたその場所には、廃墟とまでは言えない程度の普通に使えそうな建物が堂々と鎮座していた。
閉鎖されてたからか道も含めて草も木もモッサモサに生えていたが、まあそれは後で何とかするとして。
「修理して使うとかも出来そうだが、どうするんだい?」
「うーん、大丈夫っすよ。こっちで色々なんとかします」
完全に廃墟だったらぶっ壊したらいいだけなんだろうけど、まあいいか。なんとかするやろ。ワタナベさんが。
「そうかい? 人手が必要なら呼んどくれ。いつでも手を貸すよ」
「ありがと村長さん、でも大丈夫っす。なんとかなります」
「……冒険者のアンタらからすると、足手まといかもしれないね。分かったよ。でも、気を付けるんだよ」
「はーい! 村長さんありがとー!」
「ありがとうございました」
なんか色々と誤解されたような気もするが、気にしないことにして村長さんを見送り、そして村長さんの姿が見えなくなった辺りで建物へと向き直る。
「さて、と。ワタナベさーん」
『はい! わたくしの出番ですね!』
呼んだ瞬間、無駄にキラキラと輝きながら登場したワタナベさんに若干の苛立ちを感じる。なんだろう。シバきたい。
頑張って衝動と戦っているとハーツさんが周囲を見回しながら口を開いた。
「この場合、整地とかすべきなんでしょうか」
『出来れば整地して欲しいですが、まずは建物が邪魔なので収納しちゃいましょう』
「うわぁ、出来るんだ……」
明るく言い放ったワタナベさんに、正直ドン引きである。
『誰が持ちます? 一応、使える部分とゴミを選別して収納出来ますが』
ワタナベさんの言葉から察するに、ワタナベさんが色々頑張ってゴミとか見極める作業をしてくれるらしい。
つまりアタシらはただ収納すればいいだけか。なるほどありがたい。
そうと分かればやることはひとつか。
「所持品に余裕があるひとー!」
小学校の先生のような呼びかけをすると、顔を見合わせた二人が自分たちの所持品欄を確認し始めた。
一分もせず、元気よく手が上がる。
「はーい!」
「じゃあドラゴさんで」
アタシの所持品欄、肉とか肉とか骨とか肉とか皮とかでピチピチのピチ子なンすわ。
……自分で言っといてなんだけど、ピチ子って誰。
一人でそんな意味不明なこと考えてたら、ワタナベさんが張り切って声を上げた。
『かしこまりました! いきますよー!』
どーん、とか、ばーん、とか、一切音もなく、スンッと建物が消えていって、なんていうか、うん、なにこれ。こわっ。
「………………やっぱ神ってチートだな……」
『創造神ではありますが、もう全部剥奪されちゃってますので、これでも弱体化してるんですよ?』
「弱体化してこれか……」
アタシらも相当チートだとァ思うが、それ以上にやべーのがめっちゃ近くに居たよ……。
『それよりユーリャさん、さっさと整地しちゃいましょう』
「はいはい」
促されたのをいいことに何も考えなかったことにして、装備品欄からハープを選んで装備する。もちろん、一番攻撃力の低い初期装備のやつだ。
初期装備なので何かの木で出来ているし弦もそんなにいい物じゃないが、見た目がシンプルイズベストな良さげハープなのでずっと保存していたものである。
単純に売却不可装備だったのもあるけど、ものすげェ頑張って吟遊詩人になってから初めて装備出来る物なので、もはや記念品と言っても過言ではない。
「どうするの?」
「まぁ、見てて」
ドラゴさんとハーツさんの不思議そうな視線を感じつつ、土地の中央付近まで歩く。
『あ、出来れば地中まで届くようにしておいて欲しいです』
「えええ、それってつまりクレーターにならないように一定の音を同じだけ地面にぶつけろってこと?」
『大丈夫です! 出来ますから!』
「いや、出来るんだろうけど地味にめんどいな……」
『よろしくお願いします!』
「チッ……しゃーねェな……」
えーと、音は遠くに行くほど小さくなるから、遠くは大きく、近くは小さく……、だああめんどくせェ!
テキトーにしよ。なんとかなるやろ。
「あーあ~あーあ〜あー」
ポロン、とハープを爪弾いて声を発する。
なんも考えずに声を出した気がするのに、なぜだかさっき考えた通りに上手く広がって、円形の広い土地が出来上がった。
……なんか知らんが、やったぜ。
「おぉ……平らっていうか石も草も粉々……これ、後からめっちゃ雑草生えない?」
『上から色々重ねますので大丈夫です! いきますよー、どーん!』
ドラゴさんの疑問に明るくハイテンションで答えながら、流れ作業みたいにサラッと家を出すワタナベさんに、三人とも目が点になった。
え。ちょ。
色々と言いたいことはあったが、それよりも目の前に現れた見覚えのありすぎる建物に視線が吸い寄せられる。
二階建、ただし屋根裏部屋がありそうな大きな建物である。外観はどちらかというとシンプルだ。白い石を土台に黒い板壁を使ったファンタジー中世ヨーロッパ風。
ついさっきまであった領主館が廃墟に見えるくらいには立派な建物だ。
金属で出来た枠が嵌め込まれたガラス窓が重厚感を、そして雨避けとして二階正面に設置された立派なベランダがセレブ感を演出している。
屋根は焦げ茶色で、ひょっこりと白い煙突が顔を出すかのように設置されていた。
なんかめっちゃテンション上がるんですけど!
「おおおお……! ギルドハウスだ!」
「門も、塀もちゃんと再現されてる!」
ハーツさんも興奮気味に見回している。
たしかに、白い石が土台で黒い金属で出来た柵が刺さった塀も、両開きの門までとてもキレイに再現されていた。マジでゲームで見たままである。現実だとこんな感じなんだなーと思っていたら、一番はしゃぎそうなドラゴさんが呆然と口を開いた。
「え、ちょ……まって」
「どしたんドラゴさん」
まるでこの世の終わりみたいな絶望感と悲壮感を出すドラゴさんにこっちまで妙な焦りを感じてしまう。一体何が起きたンすかね……?
「庭が、何も無い……」
呟かれた言葉で改めて気付く。
「あれ、ほんとだ」
「たしかになにもありませんね?」
そういや、ドラゴさんがハウスの内装とか庭とか色々やってたはずなのに、なんでだろ。
とか思ってたらドラゴさんが焦った顔で走り出した。
「まさか……!」
「あっ、ドラゴさん待って!」
バタバタと門を開け、そのまま玄関を開けたドラゴさんは、絶望した顔でその場に崩れ落ちた。
「な、なんで……!?」
何があったのかと続いてハウスの中に入る。
すると目に入って来たのは大きな空間というか、吹き抜けのエントランスだ。
正面奥には二階に上がるための大きな階段があり、突き当りから左右に階段が伸びている。貴族とかならこの正面の壁にタペストリーとか飾るんだろう。
白い石と黒い壁、そして焦げ茶色した木が暖かさを醸し出してくれている。
吹き抜けなので二階の扉はエントランスからもよく見える。階段の木柵がそのまま廊下と空中を遮る壁の役割をしてくれていた。
大きなシャンデリアがありそうなハウスだが、飾ってある明かりは大きな光る石をそのまま天井に差し込んで金属で固定したみたいなシンプルなものだ。
ここまでで何が問題なのかというと“何も無かった”。
そう、この“何も無い”のが原因なのだ。
ワタナベさんがすまなさそうに呟く。
『すみません、さすがに重力に逆らった配置までは再現出来なくて……』
つまりは、そういうことである。
「あー……、そういやドラゴさん、ゲームのバグを利用して内装とか家具とか調度品浮かせたりしまくってたもんね」
「めっちゃ頑張ってたのにぃぃぃぃぃぃぃぃ……!!」
ドラゴさん、異世界に来てから初の、全力の落ち込みであった。
しかたないね。




