みんないっしょのむいかめそのにー!
はるかな昔、神話の時代に神獣という存在があった……。それは───────
「あ、そーゆーの別にいいんで」
「えーなんでよー、今いいとこだったじゃんー」
説明を遮ってサラッと終わらせると、モティさんが唇を尖らせ拗ねたみたいな顔で文句を垂れた。
そんなに説明したかったんかは知らんけど、今そういうの聞いてるヒマないんで。
「伝説ってくらいなんだから神に仕えてた獣かなんかで、神がなんかやって獣が人の形ンなってそれが獣人の祖だったとかなんか、そんな感じの神話なんでしょどーせ」
「おお、やっぱりご存知なんですねぇ! さすがは伝説の種族」
いや、アンタがさっき獣人の祖って言ったんじゃん。そっからちょっと予測しただけだわ。
「え、ユーリャさん神様なの?」
「すごいですねぇ」
「いや、なんでドラゴさんらまで褒めてんの?」
意味わからんことせんでいいから。
「え? なんかつい」
「あと多分文字切るところ『神・獣人』じゃなくて『神獣・人』だと思うっすよモティさんの感じからすると」
「えっ、ユーリャさん『猫・獣人』なのに?」
「あと読み方も変ですよね。ねこじゅうじん、なんだから、そこは、かみじゅうじん、とかになるのが普通なのでは?」
「いや知らんよそこらへんは」
文句言う相手間違ってるからそれ。あと、しんじゅう、じゃなくて、かみじゅう、は変だろ。
「紛らわしいからそこんとこ統一しといてほしい」
「だからそれアタシに言われても困るんすわ」
後でみんなでワタナベさんを軽く絞ったらいいよ。物理でも。キュッと。どうせノーダメだろうし。
「ところで、その神獣人というヤツだったら、何かあるんですか?」
「え? 知らない!」
「……は?」
ハーツさんの素朴な疑問には、モティさんからとっても良い笑顔での元気な答えが返ってきた。
いや、知らんのかーい。
「だってさー、比較的有名なハイエルフとか龍人とかそういうのですらほとんど情報が無いんだから、マニアック……もとい、マイナーな神獣人なんてもう全然分かんないよ」
「え、待って、今の言い直した意味あった?」
「さらに酷くなっただけのような……」
「めっちゃ珍しいってことみたいだしいいんじゃない?」
ん? まてまて、なにがいいのかさっぱりなんですけどドラゴさん?
とはいえ、ドラゴさんは多分本気でそう思っているからこそそう言ったわけで、ツッコミを入れても不思議そうな顔をされるだけだろう。うん、なんも意味ねェな、きっと。
よし、なかったことにしよう。
改めてモティさんに向き直って、そもそもの疑問を口に出した。
「ていうか、さっきの金貨、二人から貰ったとか思わないのアンタ」
「えー? それにしてはめちゃくちゃ動揺してたからさー」
「動揺……?」
「うん、耳としっぽ」
明るく指をさされて、つい自分のそれらを両手で引っ掴んだ。
おのれまたかこのおおおお!!
なんなんすかまじで!
この耳としっぽどうしたら大人しくなるんすか!
「不思議だよねー、困ったら耳がぺしょってなったり、しっぽが若干ケバ立ったり」
「うるせえ」
ドラゴさんちょっと黙っててくれるかな。
「ま、これで三人がガルーツ金貨持ってる理由はなんとなく分かったよ」
「それ分かったって言っていいの」
「ダメな気がしますね。惰性ですかね?」
若干適当な雰囲気のモティさんの言葉には、ドラゴさんの素朴な疑問とハーツさんの結論みたいなツッコミが入った。
やっぱダメだよなぁ。あとハーツさんって意外と毒舌だよね。
「実際、この一枚だけしか今は見せられてないからね。これ以上の数を持ってこられたら大問題なんだけど、この程度なら遺跡やダンジョンで本当にまれに手に入ることもあるし、エルフはだいたい持ってるからねー」
「はぇー」
裏に向けたり表に向けたり、色々な角度から金貨を眺めながら、モティさんが笑った。
なるほどなぁ。でもまあ、たしかにそれもそうだ。よかったー、一枚だけにしといて。
とりあえず今後はアイテムからなるべく出さないように気をつけようと思う。
「で、どうする? 換金する?」
「したら詐欺師とかに目ェ付けられたりとかしません?」
「しないしない。そこは信用してよ。モティの目の届くところでそんなことさせないから」
質問したら軽く断言されてしまったけど、なんというか、目は真剣だった。つーかこの人、全然素を出さねェからどういう人なのか分かりにくい。
眼鏡キャラって腹黒いのが定番だけど、この人もそんな感じなんだろうか。あれ、どうしよう。なんかそうにしか見えなくなってきた。
いや、まて、早まるな。落ち着け自分。えーとえーと。
ぐちゃぐちゃになりそうな思考を必死に整理整頓して、今後の方針を捻り出す。
「……わかりました。んじゃあ分割で月々一千万ガルーツずつか、五百万ガルーツずつください。無理そうならその半分でも可っす」
一気に貰ったらそれはそれで後が大変な気がするから、分割でお願いしたいっすわ。
「えっ、まじ? 助かるぅ〜。じゃあ詳しい鑑定を終えて金額が確定してから、月々に二百五十万ずつ口座に入れていくね。さすがに支部だからあんまり大金動かせなくてさぁ。あ、代表口座はユーリャさんでいい?」
「むしろアタシでないと管理出来なさそうなんでよろしくお願いします」
「はーい」
めっちゃすげー大金が動いたはずなのにどうしてこの人こんなに軽いんだろう。あ、なんか今後面倒ごとを任されたりとかしそうな予感……。
まあ、借りを作ったってことになるんだから仕方ないか。
モティさんはというと、金貨を丁寧に布で包んで小さいオルゴールみたいな豪華な小箱に入れてから、引き出しから出した一枚の書類に羽根ペンで何か書き込みつつ、ふと何かに気づいたみたいにこっちを見た。
「あっ、そうだ、一応の確認なんだけど、君たちステータスってどうなってる?」
ん?
「…………ステータス?」
「特にコネとかそういうのはありませんが」
「違うよ、きっと学歴とかのほうだよ」
なんで今そんな話になったんすかね。
「うん、ごめんね。説明が足りてなかったね。冒険者のススメの23ページに冒険者章の機能説明があったと思うんだけど三人とも読んでないねコレ」
「いやぁ、忙しくて……」
「大丈夫、そういう人も居るから気にしなくていいよ。えーと、冒険者章を定着させるのに魔力を通したと思うんだけど」
読むヒマなかったなぁ。気づいた時にはもう今だったよ。そんなこともしましたね。一昨日だったけど。
「あぁ、そういえばたしかに」
「もう遠い昔の気分だよ」
「ドラゴさんの場合昨日だけどな」
全然遠くねーんだなこれが。
「で、同じように魔力を通して、その時に、呪文というか鍵になる言葉を唱えたら見れるんだよね。自分についての詳細情報が」
あー、なるほど、ステータスってそういうやつ。
『ハイ皆さん! ステータスオープンです! 声を揃えて言ってみてください! そして出来るだけカッコイイポーズお願いします! それをブロマイドにしますので!』
なんか目の前にそんなこと言いつつハアハアしてた光る小さい不審者が現れたので、それを横にパーンとハタいたら、横のドラゴさんがそれを下から上にパーンとハタいて打ち上げ、それをハーツさんがバレーさながらのスパイクで地面に叩き落とした。
「え、なに三人とも、どうしたのいきなり」
「あ、なんか虫がいたので」
「飛んで来たからつい打ち上げちゃった」
「なんか飛んでたから叩いちゃいました」
戸惑うモティさんにまったく悪びれず堂々と言い放つと、ドラゴさんとハーツさんも普通に同調してくれた。さすがである。
『ひどい……』
床でピクピクしつつ小さいのがなんか言ってたけど、ガン無視したのだった。
親知らず抜歯による負傷と多忙で全然何も出来ませんでした。またゆっくり書いていきます。(白目)




