みんないっしょのむいかめー!
次の日。
案の定モティさんに呼び出された三人は現在、支部長室にて床に正座させられていた。
色々と言いたいことはあるが、今回の件に関しては何も言えないので、目の前で仁王立ちしているモティさんの出方を伺うしかない。
長い沈黙のあと、モティさんはわざとらしく持っていた新聞を開き、わざとらしく音読を始めた。
「……へぇー……『音楽の奇跡! 新星のごとく登場した三人組の吟遊詩人による路上公演にて、様々な奇跡が多発していた事が発覚した。彼らは聞いたこともない音楽と多彩な歌声で観客を魅了し、最後の曲が終わると同時に姿を消したことでも話題となっていたが、彼らの曲を聞いた者の病気や怪我が完治している事から更に話題となった』……ふーん?」
うおおおお昨日のやつ新聞になってるー!
変な汗が止まらない。
にこにこ笑顔だけど、雰囲気が怖いモティさんを恐る恐る見上げる。
「あ、あの」
「言い訳、ある?」
アッハイ。
「路銀が欲しかったので歌っただけだったんです」
それ以外は特に理由無いです。アタシゃどっちかってったら被害者だよ。
あんなことになるなんて微塵も思っちゃいなかったんだ……!
完全に、外で遊んでたら不慮の事故でボールが飛んでって他人の家に入ってったので謝罪ついでに取りに行ったら全力で怒られてしまった小学生の気分である。
しかも他の子は逃げた感じの。
今どき外でボール遊びするようなそんな小学生いねーけどな。
「ねーねー、ユーリャさん、なんで自分ら怒られてんの?」
「大騒ぎになったからだよ!」
「そーなん?」
のんきか!
いやむしろなぜこの状況を理解してないのか分からんが、ドラゴさんは天然だからな。どーせ昨日のアレだって、わぁすごーい! くらいにしか思ってなかっただろ絶対。しゃーねぇ。ドラゴさんはドラゴさんだからな。
「ハーツさんも反省くらい……あダメだコイツ腹減って飯のことしか考えてねェ!!」
「白米が食べたいですねぇ」
まったりと窓の外の方を眺めるハーツさん。
どこ見てんだよ!
いきなりボケ気味のおじいちゃんみたいになってんじゃねぇよ! なにこれ!
「あのさぁ、君たちさぁ、もうちょい考えて出来なかったの?」
「知らなかった! いやー、まさかあんなことが発生するとは……綺麗だったね!」
ドヤ顔のドラゴさんの後頭部を全力で叩きたい。しかしアタシの方が歳上なので耐える。
「ドラゴさんがいる時点でアカンすわ」
「うん。たしかに。めっちゃアレンジしてドラム叩いてましたもんね」
「え、ひどくない?」
ひどくはない。
「うん、とりあえず、新聞社には冒険者組合が結成させた吟遊詩人のグループってことで公表しとくから、次に公演する時は絶対に組合に通すんだよ。依頼公演って形にするから、絶対にゲリラ公演しないようにっていうかしちゃダメです」
「ええー、なんで?」
「大騒ぎになるからだよ!」
なんで? じゃねぇよ。
ダメだこれ、騒ぎになることで何が起きるのかさっぱり分かってない顔だ。
「金持ちとか、貴族とか、そういうのに目を付けられて、死ぬまで囲われたいの?」
「えっやだ」
モティさんの言葉でようやく察したらしいドラゴさんは、ちょっとしょんぼりしてしまった。そんな顔してもダメなもんはダメだよ。
「酒場で一人で歌うのもやめといた方がいいっすよね」
「もうちょいほとぼり冷めるまではダメだね」
「えぇー、ユーリャさんの歌聞きたいのに……」
気持ちは嬉しいがダメなんだよ。
「しかし困りましたね。路銀が得られないとなると生活が……」
「冒険者なんだから依頼受けなさいよ」
モティさんの言葉はもっともなんですがね。
「新人冒険者に受けられる依頼なんてハーツさんの胃袋に一瞬で消えるんすよ」
困るよね。お金なぁー、どーしよっかなー。
「あ、ねぇねぇ、あれは?」
ふと、ドラゴさんが思い出したことで、こっちも思い出せた。
「あー、そうだ、そういやモティさん、ここって換金もしてるんすよね?」
「なんか嫌な予感しかしないけど、してるよ、換金も。だけど一体何を出す気?」
「これなんすけど」
アイテムを出す要領で、一枚だけゲーム通貨を出してみる。
すると、モティさんの時が止まった。
「…………………………………………………………は?」
「めっちゃ溜めましたね」
「すげー長い溜めっすね」
なんだろ。
「あのさ、君たち、これが何か分かってる?」
「分かんねーんで、先に鑑定してもらおうかなって思ってはいました」
モティさんのこの反応からして、ヤバそうなのはよく分かる。だがしかし、それが一体どの程度のヤバさなのかが皆目見当もつかなかった。
そっと白い手袋を出して装備し、モノクルを装着したモティさんは、めちゃくちゃカッコイイ。いやそんなこと考えてる場合じゃないんだけど似合うんだから仕方ないと思う。
そしてゲーム通貨を観察し終えたらしいモティさんは、意を決したように重い口を開いた。
「あのね、これ、古代サリューン歴で発行されてたと言われる、ガルーツ金貨でね」
「はい」
「この国で、というか世界で流通してる一番高い硬貨の十倍の値段がつくんだよ」
「ふむふむ?」
どゆこと?
「……まって、君たちもしかして、貨幣価値分かってない……?」
「一応、銀貨で三日分くらいの食料が買えるのは昨日と一昨日で理解したっす」
「……うん、わかった。とりあえずユーリャさん、この冊子読んで。それから話聞くね」
大きな溜息と共に一冊の小さい本を渡された。
「なんすかこれ……、お金の歴史……子供向けのガイドブック?」
「冒険者にはそういう人もいるから、一応簡単なやつを置いてるんだよ。いいから早く読んで」
「へい。えーと、銅、鉄、銀、金、白銀、白金、ガルーツ金……、銅貨は100ガルーツでパンが一つ買える……」
ガルーツが円の代わりみたいだから、銅貨は100ガルーツで……。
「んー、単純に十倍していくだけ……? ……ってことは……」
つまり、銅貨が一枚100円として、鉄貨は一枚1000円……?
え、じゃあ銀貨って一万円くらいじゃん。となると、このガルーツ金貨って……ひゃく、せん、まん、じゅうまん………………………………え………………一億?
「ヒッ」
さすがに衝撃で血の気が下がり、声もひっくり返った。
「いちおう、ガルーツって単位はお金の呼び方として残ってはいるんだけどね、実際に現存してるガルーツ金貨は本当に珍しいんだよ。王家とかそういうのが保管してるの」
モティさんの説明を聞きつつ、どんどん自分の血の気が下がるのを感じた。
どうしようこれ。今出した一枚で普通に通貨欄の数字1しか減ってない。残りが245万8678枚ある。なお表記は245,8678G。
「しかもこの光沢……間違いない、サリューン歴でも初期に発行された、カルカッソ鉱が入ってるタイプだね。保存状態も最高だ。ここまで状態のいいモノだと、換金所に持って行っても専門家が居なかったら鑑定出来ずに偽金貨だと訴えられて拘束されちゃうね」
「ヒェッ」
恐ろしい。
「えー、自分これめっちゃ持ってるのに。三百万枚とかあるよ」
「わたしも四百万枚はありますね」
おおおい! 空気!
二人とも空気を読もう! 今そういう話したら怪しまれるでしょ!
「何が起きてそうなったのかな?」
ほらぁ! もぉおお!
「うーん、でもまぁ、ハーツさんはエルフだしなぁ」
お?
「あの人たち、お金に無頓着だし、遺跡とかも知ってるやつ教えてって言っても聞いてくれないし……、それにハーツさん、見たところサリューン歴産まれっぽいもんなぁ」
待ってエルフどんだけ長生きなん?
「ドラゴさんは……龍人族でしょ? あの、金属大好きお宝大好きな」
「そーなんですねぇ」
「龍人族ってそんなカラスみたいな性質あるんだ」
自分の種族をカラス扱いは草なんだがドラゴさん。
「まぁ、生き物って朽ちるのが早いから、長生きな彼らにすれば金属は唯一近くに置いておけるものらしいよ」
「悲しい理由だった」
そうだね、悲しい理由だね。
とか考えていたその時、モティさんの目付きが鋭くなった。
「問題はユーリャさんだよね」
「え?」
「これ、どこから盗んだの?」
ぴりっとした、肌に刺すような空気。これはもしかすると殺気のようなものなのかもしれない。知らんけど。
「あー……そう来たかぁ……」
たしかに、これは仕方ない。
自分だけがそのへんにいるような種族なのだから、こうなっても何もおかしくない。
「今の内に吐いた方が良いと思うなぁ、モティは」
「え、ユーリャさん自分らと同い年だよ?」
シリアスな空気をぶち壊す呑気な声がモティさんに被り気味に響いた。
いやまてまてまてまて、何言い出すんだドラゴさん。それアレだろ。この世界に来たのが同時ってだけだろ絶対。
「おいいいい! ちょっとドラゴさんんんん?」
「へ?」
へ? じゃないよ! そんな長生きな猫獣人居るわけないでしょ!
「な、え、もしかして、それって伝説の……!?」
当のモティさんはというと何やら心当たりがおありのようで、いや待って伝説ってなに。
「そうです」
ハーツさん待って、そこにキリッとした顔で便乗しないで余計ややこしくなる!
「まさか、獣人の祖、神獣人……!?」
いやなにそれ知らん!!
ちょっと紛らわしいので、ルビ振りました( 。∀ ゜)
親知らず抜歯は、ちゃくちゃくと治ってきて逆に痛いけど頑張ります(白目)
どうぞもうしばらくお待ちください……。




