みんないっしょのいつかめそのごー!
「そんなわけで、ミルガイン君はこっちで預からせてもらうね」
「あ、はい、どうぞ」
「えっ、軽くないですか!?」
ニコニコしたモティさんに、普通に返答したらミルガイン君がちょっと慌てた。
むしろなんでアタシらに許可取ろうとしてんのか分からんのんすけど、ミルガイン君もなんでそれが当たり前みたいな顔してたん?
つーかさ。
「街に来れば会えるだろうし、二度と会えなくなるわけでもなさそうだし、いんじゃね?」
「たしかにそれはそうなんですが、ほらこう、離れないつもりじゃなかったのか!? とか……」
そういえばそんな話ありましたね。だがしかしそれよりも。
「正直、どんなムキムキになるのか気になる」
「それな」
「わかる」
キッパリ言ったら、ドラゴさんとハーツさんも真顔で頷いてくれた。やはり同志。
「モティに任せておけば、ふた月くらいでムッキムキだよ!」
「まじか」
「すげぇ」
「どんな風になりたいかちゃんと聞いて、その上で鍛えていくから安心してね!」
それなら安心だね。よかったねミルガイン君。
とか思ってたら、当のミルガイン君が意を決したみたいな真剣な顔でハーツさんへと向き直った。
「あ、あの、僕、あなたに受けた恩を返せるくらい、強くなって帰ってきます。ですので、それまで待っててくれますか?」
「え? あぁ、そういう感じなんですね。わかりました、待ってます」
ものすごく適当なハーツさんのお返事だが、ミルガイン君は納得したらしい。満足げな表情でニッコリと笑った。
ツッコミどころはあるけど、本人たちがちゃんと納得出来てるならまあいいか。
「ところでミルガイン君、君何歳?」
「え? あぁ、15です」
モティさんのその問いかけで、衝撃の事実が発覚した。
「若っ!」
「えっ、ハーツさん事案じゃん」
「未成年略取誘拐連れ回しじゃん」
「待って、風評被害ヤバいですそれやめて」
若いだろうなとは思ってたけど、外見が女の子みたいだから感覚が女子見る時みたいになってた。そうだよ、男の子ならそのくらいだよどう見ても。
あと、自分で言っててアレだけど、未成年略取誘拐連れ回しって、アタシらもやってたことになるね。やっぱナシで。
「15かぁ、じゃあ無理なく筋肉付けるには職業進化か転職しないとね」
「はい! 僧兵になります!」
「お、条件知ってる感じ?」
「はい!」
「よっし、じゃあさっそく面談と行こうか。じゃあね三人共! またね!」
「いってきます!」
そして少年は、強くなるための道を歩み始めたのだった。
「いってらっしゃい」
「がんばれよー」
「またねー!」
思い思いに見送りながら、どこか誇らしげな少年を見送るオッサンたちに、黄緑色のイケオジがふと振り返って声をかけた。
「あっそうそう! 三人で組むならパーティ名決めといてね!」
「あっはい」
思わず反射的に頷いて、それから去って行く二人の背中を眺めつつ、呟く。
「…………パーティ名?」
「え、パーティ名ってなに」
「グループ名みたいなやつです?」
三者三様の戸惑い方である。
「アレだよ、ラノベでよく見る、あの、なんとかの風とかそういう」
「あれですかぁ……」
「え、それいいじゃん“なんとかの風”」
ドラゴさんはネーミングセンスがアレなので、とりあえず置いとこう。
「さすがにそれはちょっと」
「わたしもちょっと嫌ですねぇ」
「だめかぁ」
だめだよ。
「うーん、ここでめっちゃカッコイイの付けても変なの付けても、多分あとで恥ずかしくなるだろうから無難な感じにしといた方がいい気がするっす」
「たしかに。鮮血のなんとかみたいなの付けても悶え苦しむ気しかしません」
「えー、いいじゃん“鮮血のなんとか”」
「嫌っすよ」
「だめかぁ」
“なんとか”から離れてくれないっすかねドラゴさん。
「ここはこの中で一番ネーミングセンスのいいハーツさん、お願いします」
「えぇー……ユーリャさんも考えてくださいよ……」
「アタシのネーミングセンスお察しっすもん」
だって、この世界で初めての名付け、“ワタナベ”さんっすよ。どう考えても独特の何かになるでしょコレ。
「ねー、“つぶつぶみかん”とかどう?」
「なんで美味しそうなの持ってきたの」
「食べたかった」
「なるほど」
ドラゴさんみかんすきだもんね。でも今は置いとこうか。
「じゃあ“焼肉定食”」
「ハーツさん食べたいの持ってこないで」
「じゃあ酢豚の方がいいですか?」
「そういう問題じゃない」
じゃあ、ってほとんど何も変わってねェじゃん。肉の種類と味付けだけ変えてんじゃねェよ。
「みたらしだんご!」
「食べ物から! 離れて!」
やだよそんなパーティ名!
そんな感じにグダグダしつつも、一応考える。
「全員の頭文字取るのは?」
「ブランド名っぽくなりそう」
「たしかに」
Y&D&Hとか、どっかにありそう。
「うーん、ドラゴさんは氷で、ハーツさんは心……アタシは……猫?」
「なんか違いますね……色だと……水色に白に金色……うーん」
「えぇー、もう“なんか”とかでいいじゃん」
「やだよ」
だからそういう適当さは今求めてないんすよドラゴさん。
「みんな、好きな植物は? ちなみにアタシぁ木蓮が好きっす」
「竜胆」
「柿」
うん。
「ハーツさん、食べ物から離れよ?」
お腹空いてんのは分かったから。
「花なら桔梗がすきです」
「なるほど、おもろいくらいバラッバラすね」
なんも共通点ねぇわ。困ったなァ……。
そんな感じで頑張って考えていたら、ドラゴさんが爆弾みたいなパーティ名を投下してきた。
「えー、じゃあ“追憶の堕天使”」
「キッッツ……!」
「あ、あぁあああ黒歴史が……ッ!!!」
思わず悶えてしまってなんかもう全員が大爆笑である。
なお、これはバカにしているわけではない。過去の自分達を思い出してしまって、笑うしかなくなっているのだ。
中学時代に考えた、なんかもう色々を。
そして笑っていたらなんか全部どうでも良くなってくるわけで。
「あっははダメだもう無駄に片目隠して包帯巻いてる人しか居なさそうなイメージしか……!」
「くっ、ふふふふ待って、堕天使強過ぎて何も浮かばなくなった無理……!!!」
「あははははは! やべ、笑い止まらな……ぶくくくくく」
だめだよ追憶の堕天使は。色々とアウトだよ。帰って来れないよ。笑いの渦から。誰か助けて。
なおドラゴさんはアタシとハーツさんのリアクションが面白くて笑っているので、一番の確信犯かもしれない。
だがひとしきり笑ってしまえばなんとか多少は落ち着けたので、改めて考える。
「はー……はー……アカンわ……卑怯やわ……」
それでもふとした瞬間にぶり返しそうなので、話題を変えるみたいに声を上げた。
「色! みんな、好きな色は!?」
「えっ、あっ、青です!」
「自分は濃い青!」
そのおかげか、みんなちゃんと笑いの渦から帰還を果たせたらしい。だんだんと落ち着いて考えられるようになってきた。
「アタシぁ緑だな」
「じゃあもう青緑で良くない?」
「そういう系いいと思います。でも少し捻りましょうか」
さすがのハーツさんである。顎に手を当てて、うーん、と軽く唸ったハーツさんは、何かを思いついたのかパッと表情を明るくした。
「そうですね、たしか、紺碧の碧に、色で、碧色という青緑色がありましたので、それ使いましょう」
「へきしょくかぁ。……へけっ」
「ちょっと黙ってようねドラ太郎」
「ドラ太郎は草」
へけっじゃねェんすよ。これもう絶対アラサーでないと分からんネタじゃん。
「じゃあ、それで行こう」
「え? ドラ太郎?」
「そっちじゃない」
「どうせみんな好き勝手しそうですし、自由っぽそうな風も付けときましょう」
まじでハーツさんさすがである。ドラゴさんはドラゴさんなので置いとこう。なんせドラゴさんだしな。
「パーティ名は“碧色の風”でいいですか?」
「お願いします」
「よかったね、あのまま追憶の堕天使にならなくて」
「思い出させんでくれさい……!」
「思い出し笑いががが……!」
ドラゴさんのしみじみした言葉で、どうしようもない笑いがぶり返してしまった。もはや言葉尻が崩壊してしまっている。
だから、アカンて。卑怯やて。
またしても渦に飲み込まれた三人は、しばらく笑い転げてしまったのだった。たすけて。
親知らず抜きたかったのに今日手術出来なくて来月の28にしか予約空いてないとか言われて帰されたちくしょう。
頑張ります……(白目)




