みんないっしょのよっかめそのよーん!
みんなでご飯を食べ、満腹になったそれぞれが横になって目を閉じる。
ハーツさんは自分のコートにくるまって転がり、ミルガイン君は自前の寝袋ですやすや寝ていた。
なおアタシはそのまま寝っ転がっている。
寝るまでにドラゴさんがこっちで寝たいと駄々こねたりとちょっと色々あったけど、なんとか室内で寝ることに納得してもらえてよかった。
さて、そんなこんなでミルガイン君や子供達が寝静まったころ。多分、体感では夜の九時とか十時だろう。ちょっくらハーツさんに声をかけてみた。
「ハーツさん起きてます?」
「起きてますよ」
「ドラゴさんは寝て……」
「ないよー、起きてるー」
みんな聴覚がすげェことになってるからか、ポソポソ喋っても聞こえているらしい。
ドラゴさんに至っては屋内に居るにも関わらず、こっちの声も聞こえてるし、こっちもドラゴさんの声が聞こえている。なにこれこわい。便利だからいいけど。
「どしたのユーリャさん」
「いちお、確認なんすけど」
「はい」
「うん」
小さく息を吸って、吐き出しながら声を出した。
「帰りたいっすか?」
「わたしはいやです」
「自分はどうでもいいかな」
めっちゃすぐ返事返ってくるやん。
「あれ、誰一人帰りたいやつ居ないの」
ちょっと緊張した意味は。
「ユーリャさんは? 帰りたい?」
そういえば、みんながどうしたいのかを優先して考えてたから、自分のことは放置になってたな。
ドラゴさんの問いかけでようやく改めて考える。
「んんん、正直、帰んなくてもいいかなって」
「だよね。フツーに仕事やだもん」
「わかる」
仕事って、正直好きじゃない。
社会人としてとか、やり甲斐とかどうでもよくて、基本仕事は金の為にやってるんだよね。ゲームの課金とか、マンガ、小説、そういうのを買うためのお金と、生きてく上で必要な分のお金を稼いでるだけ。
仕事しないと生きてけないから、してるだけの人間だった。
「わたしは絶対戻りたくありません」
だからこそ、ブラック企業勤務だったハーツさんはこんな状態な訳で。
「ぜっっっったいに嫌です」
「うん、ごめんねハーツさん」
ほんわか系イケオジの、全力での拒否が出ましたね。仕方ないね。
「でもユーリャさんは家族置いてていいの?」
「なんかワタナベさんが言うには、アタシのコピーが今後頑張るらしいって聞いたけど」
『はい! ちゃんと皆さんのコピーがあっちで生きていくようにしましたんで大丈夫ですよ!』
ドヤ顔してそうな声でワタナベさんが現れた。正直夜だと眩しいんでどっか行ってほしい。なんでいつも光ってんのお前。
「うわびっくりした、誰今の」
「ワタナベさんっす」
「だれ?」
声しか聞こえないドラゴさんがビックリしている。
ハーツさんにも忘れられてたのにドラゴさんにも忘れられてんのマジでウケるんすけど。
『一回脳内に直接呼びかけたじゃないですか……忘れないでくださいよ……』
「そうだっけ?」
「まぁ仕方ねっすよ、ちょっとしか声掛けらんなかったじゃん」
『ぬぅ……』
「まぁ、そんな感じなんで、心配はしてねーんすよ」
「でもさー、会いたくなったらどーすんの?」
ドラゴさんの低い声が聞こえる。
そんなこと今考えてもしゃーない気もするけど、ちゃんと考えておくべきなんだろう。
しかし、会いたくなったところで会えないわけで。
「三人全員会えないんだから傷の舐め合いでもすればいんじゃねすか?」
「ぺろぺろすんの?」
「実際に舐めようとすんなよ?」
つーかイケオジの声でぺろぺろ言うな。
『イケオジぺろぺろと聞いて』
「しません」
ワタナベ、お前は呼んでねェ。
「で、本題」
「あい」
「はい」
一拍置いて、口を開く。
「今後どーする?」
この相談はしておかなきゃいけないことだ。
「え、みんなで一緒にどっか住むんじゃないの?」
「ハーツさんは?」
「ゴロゴロしたいです」
「え、いや、そういうんじゃなくて」
「ずっと寝てたいです」
すごく、目が死んでそうな声での返答しか返って来ないハーツさんに、なんか納得した。
「うん、重症っすね」
「重症だね」
『これは休ませないと……』
ワタナベさんが言うくらいだからこれ相当だな。
「こうなるとアタシとしちゃァ、みんなが落ち着ける家みたいの欲しいすね」
「たしかに。お家欲しいね」
「わかる」
うんうんと頷いて話していたその時、ワタナベさんから爆弾のような発言が投下された。
『あ、ご安心ください。皆さんがゲームで使ってたギルドハウス、ご用意出来ます』
「は?」
「え?」
「うん?」
なんだって?
「え、ギルドハウスって、サブキャラ使って規定人数稼いで作った、アタシらのギルドの、あのハウスっすか」
「あの、熾烈な土地抽選戦争を勝ち抜いてゲットした、一番でっかい土地の?」
「てことは、ラージハウスじゃん」
『はい!』
いや、はいじゃねーよ。マジか。
「え、土地用意しなきゃ」
「どこらへんがいいかな?」
「やっぱ近場がいいんじゃないです?」
「探すのめんどくさいから村長さんに相談しようよ」
「なるほどたしかに」
村長さんならこの辺の土地に詳しいはずだ。
「え、みんなこの周辺でいい?」
「この村良い人多そうだし、仕事もなさそうですし、わたしはおっけーです」
「自分は鍛治屋さんのお手伝い頼まれたりしてるから、この村が近い方がいいな」
「じゃあ村長さんに相談しよう」
「そうしよう」
みんなでそっと立ち上がったその時、ふとハーツさんが気付いた。
「メルガイン君はどうします?」
「寝かしとこう」
「そうですね」
成長期だろうから、寝た子を起こしたらアカンよね。
という訳で、昼に会った村長さんのお宅をみんなで尋ねることになった。
「そんなこんなで相談に来たんですよお姉さん」
「夜分遅くに申し訳ございません」
「何事かと思ったら……なんていうか、唐突だねぇ」
「善は急げって言いますしね」
簡単に説明したら、夜にも関わらず苦笑しつつも応対してくれた。なにこの人めっちゃ優しい。
「なのでどこかに余ってる土地か、ちょうどいい空き家ありません?」
「本当にこの辺りに住む気かい」
驚いたのか呆れたのか判断が付きにくい反応が返ってきた。
んー。
「三人の中で街に住みたいやつ、いるー?」
「やだ! お手伝い中途半端にして放置したくない!」
「わたしも出来ればのんびりまったりゴロゴロしたいので、色々仕事させられそうな街はちょっと」
「こういう村の近くでスローライフ、憧れるんすよね」
それぞれがそれぞれに理由を言って、改めて村長さんに向き直る。
「てなワケで、この近辺に住みたいんすよ」
「……そりゃ、別に構わないが、このへんは森しかないし、行商も月に二回、税金は年に二回一人につき銀貨一枚ずつで、しかも街までは徒歩じゃ三、四日かかるんだよ」
街への移動に関しては半日あれば行けるんで大丈夫だし、お金は街で稼げばいい。
しかしそれを今言うのはちょっとアレなので、謙虚に行こう。
「でも、村だけで結構色々手に入るでしょ」
道具屋とかあったし、鍛冶屋もある。つまり、流通はちゃんとしてるってことだ。
「……まぁ、この村の特産は質のいい薬草や野菜だからね。肉は狩人が時々狩ってくるし、食料に関してはそれなりだと思うが……、それでも冒険者の人達に勧められるような村じゃないよ?」
いや、野菜は重要っすよ。肉ばっか食えないもん。しんどくなるし。
「ねー村長さん、冒険者にも勧められる村ってどんな村?」
「そりゃ、ダンジョンが近くて、冒険者組合の出張所が置いてあるような村さね」
へぇ、冒険者組合って出張所とかあるんだ。新情報はありがたい。ドラゴさんありがとう。
「いやですよそんな仕事ばっかりさせられそうな村」
「ダンジョンなんかあったらおばあちゃんとか大変じゃん」
「……だ、そうっす」
まぁ、もっともと言えばもっともだ。アタシらはスローライフして、まずはハーツさんに正常な精神状態を取り戻して貰わんとアカンのんすよ。
「……物好きな人達だねぇ。わかったよ」
村長さんはそう言って苦笑しながらも、頷いてくれた。
細かいことは翌日話し合うことになって、解散となった。
そんな感じでアタシらは、この村の近辺に住んでいいことになったのだった。
やったぜ!
なるべく隔日更新で行きたいですが、書けたら更新する自転車操業なので、無理だったらすみません( 。∀ ゜)




