ハーツさんとのよっかめそのにー。
受付で渡された地図と、簡易地図を見比べた結果。
「やっぱドラゴさんすわコレ」
「マジウケるんですけど」
『ウケてる場合じゃないと思いますよ……』
そんな結論が出たのでトトラ村へ向かうことにした。
「ところでメルガイン君はいつまでついてくるんです?」
「恩を返すまでは帰れないって言いましたよね?」
「別にお留守番してても良かったのに」
「これから方向音痴さんが増えるのに、ユーリャさん一人じゃ可哀想じゃないですか」
ミルガイン君のあまりにもキッパリとした発言に、つい笑ってしまった。
「だんだん遠慮なくなって来たすねミルガイン君」
「なるほど一理ある」
「あるんすか一理」
え、アタシ可哀想枠なんすか。やだ。
そんな軽口を叩きつつ足を進めていたが、このままじゃ三日くらいかかりそうなので、ちょいと頑張ることにしよう。
「さて、夕方前には行くって言っちゃってるんで急ぎましょーか。アタシが先行して走るんで、ハーツさん」
「はい。わたしはミルガイン君を担いで走ればいいんですね」
「さすが。わかってらっしゃる」
阿吽の呼吸、とはこんな感じなのかもしれない。
声をかけただけで何をすべきか理解してくれるとか、さすがである。
もしかしなくてもハーツさんもミルガイン君遅いなとか思ってただけかもしれんけど。
「えっ? ちょ」
「さあ、行きますよミルガイン君」
動揺するミルガイン君を無視して肩に担いだハーツさんを確認してから、走り出したのだった。
「うわあああああああああああああぁぁぁ!?」
めっちゃ叫んでるウケる。
「し……死ぬかと思った……」
「地図通りならここがトトラ村で、ドラゴさんの居る村っすねー」
地べたがよっぽど安心するのか、めっちゃ懐いているミルガイン君を横目に、辺りを見渡す。
のどかな感じの小さい村が目の前にあった。
出発してから、だいたい半日くらいだろうか。
宣言通りに夕方前には到着出来たらしい。
「さすがユーリャさん。全然迷わずに来ましたね」
「簡易地図で青い点出てるじゃないすか」
「あっ、えっ? あ、ほんとだ……」
「やっぱ気付いてなかったかぁ」
興味無いことが視界に入らないことで定評のあるハーツさんだもんなぁ。
「どうしてあんなスピードが出るんですか……人間種じゃないからってここまで差があるなんて……」
「ミルガイン君生きてるっすかー?」
めっちゃ地面大好きになってんじゃんミルガイン君。
「だ、大丈夫、です。お二人の仲間が、この村に……居るんですよね?」
「居るはずだけど…………なんだろ。視線を感じる」
「視線、ですか?」
なんていうか、隠す気が一切ない感じの視線だ。
しかも結構いるな、これ。なんすかね。
「おい! おまえら、その手の紋章、冒険者だろ!」
こっちが気付いたことに気付いたらしい人物が、そう言い放ちながら茂みから飛び出て来た。
少年が一人に幼女が二人、それから、そっくりな顔した幼児が三人だ。
え、なにこれ。
「こ、この村に、なんの用ですか……!?」
「そーよそーよ、この村には、何もないわよ!」
大人しそうな幼女が頑張って声を張り、お転婆そうな幼女は胸を張ってツンデレっぽく断言した。
「そーだー!」
「なんもないぞー!」
「白いおじちゃんなんかいないぞー!」
そっくりな顔した幼児三人がそれぞれ声を上げる。
いや、それ、もう、ほぼゆうてもうてるやん。
「あっ、おい! おまえ!」
「しまった!」
「にげろー!」
「わー!」
焦った少年が声を荒らげて、それに気付いた幼児たちがパーッと逃げていく。
きゃあきゃあと子供特有の高い声ではしゃぎながら、三つ子の幼児たちはどこかへ行ってしまった。
いやどこいくねーん。
「白いおじちゃん、ね……」
「と、年とったら、だれだって白くなるだろ!」
ハーツさんのこぼした呟きに、少年が必死な顔で誤魔化す。
「なるほど」
「でも今の子、おじちゃんって」
ミルガイン君が畳み掛けて、更に少年が焦った。
「きっ、気のせいだ!」
「気のせい、です!」
大人しそうな幼女も、少年をサポートするみたいに声を張る。
いや、気のせいって、そんなに焦ってたらなんか隠してんのバレバレやぞ。
「それで、一体何しにきたの? もしかして、間違えて通報しちゃったから、あたしたちを捕まえにきたの!?」
喋り方からして、このお転婆そうな幼女がこの子達の中で一番年上っぽいな。
ちゃんと漢字で喋ってる気がする。
ふと、ミルガイン君が一歩踏み出して、少年の前に立った。
「あの、僕達は捕まえに来た訳じゃありません。調査依頼が来ていたので調べに来たんです。知っていることがあるなら、教えて欲しいんだけど……ダメかな?」
首を傾げ、眉を下げながら少年に目線を合わせつつ、少年をじっと見つめるミルガイン君。
「くっ、色じかけになんて、だまされねーぞ!」
「えっ」
あー、そう来たか。ミルガイン君見た目完全に女子だもんな。
「なんて卑怯な女なの……!?」
「卑怯なのは、ダメ、です……!」
「えっ、えっ」
幼女からもめっちゃ言われてるやん。ウケる。
「安心していいっすよ。アタシら、ただ迎えに来ただけなんで」
危害くわえたりとかそんな気全然ないっすよ〜、とアピールしてみるが、少年からはなぜか睨みつけられた。
「おまえみたいなうさんくさいおっさん、信用できるわけねーだろ!」
「あっ、ひっでェ。泣きそう。えーん」
「あー、泣かしましたねー」
ノリで泣き真似してみたらいいタイミングなハーツさんのありがたい援護があって、幼女たちの少年を見る視線が冷たくなった。
「今のはロンがひどいよ」
「ロン君、悪口はダメだよ……」
「うぐっ」
こんなイケオジをうさんくさいとか言うからだよ。自業自得っすね。やーいやーい。
「お、おまえらどっちの味方なんだよ!」
「はっ、そうだった、危なかったわね……」
「目的、忘れちゃダメ……!」
ようやく何かを思い出したらしい子供たちが、必死に取り繕いながら改めて目の前に立ちはだかった。
「おまえら冒険者を、村に入れるわけにはいかねぇ!」
「だから、あきらめて帰って!」
「お願い、帰って……!」
なるほど。よっぽど守りたいものがあるんだろう。
とても真剣な顔で、必死にこっちを睨みつけている子供たちが健気だ。
「いやー、嫌われたもんだねェ」
「どうしましょうか」
「すみません、僕が至らないばかりに……」
うん、ミルガイン君は関係ないと思う。
しかし困ったなぁ。この村にドラゴさんが居るはずなんすけど……………………ん?
「えっ、なになにー? 皆してなにしてんのー? お出かけ?」
「お、おま、おっさん! なにしてんだよ!」
子供たちの奮闘虚しく、多分必死に隠されていたんだろう当人がひょっこり現れてしまった。
……うん、なんかそんな気はしてた。
「え? なんかダメだった?」
「おじさん! ダメよ、戻って!」
「…………おじさん!」
必死になって隠そうとする子供たちと、あっけらかんとした雰囲気で不思議そうに首を傾げるドラゴさんらしき人。
うん、これドラゴさんだわ。
「いやドラゴさんめっちゃイケオジじゃん!」
「えっ? だれ? イケオジがめっちゃいる」
めっちゃは居ない。二人だけだよ。さすがドラゴさんだな。
「あ、どーも、ユーリャ・ナーガです」
「フレア・ハーツです」
「えっ、えぇ、あ、そうか、みんなイケオジなんだっけ」
『イケオジ設定忘れないで……』
ワタナベさんうるさい。
「…………おい、おっさん」
ふと少年が険しい顔でドラゴさんに声をかけた。
「なにロンちゃんどうしたの」
「こいつら、知り合いなのか?」
「うん。前言ってた仲間だよ」
サラッと告げられた言葉は、子供たちの表情を一変させるほどのものだったらしい。大きな溜息が聞こえて、緊張が解けてか地べたに一人ずつへたり込んでいく。
「…………なんだぁ」
「よ、よかったぁ……」
「う、うえぇん……」
中にはホッとし過ぎて泣き出す子もいた。
「あっ、おっさんがサラ泣かした!」
「えっ? 自分? ご、ごめんねサラちゃん?」
「よかった……よかったよぉ……!」
大人しそうな子だもんね。仕方ないね。怖かったんだね。
「なんかよく分からんけど、よかったの?」
「まぁ、よかったんじゃないすか?」
不思議そうなドラゴさんにテキトーに返しつつ、こっちも息を吐き出した。よかった、なんとかなりそうだ。
「それよりロン、この人たちに謝っときなさいよ」
「おれだけあやまらせようとすんなよ、おまえらもだろ」
「でも、ロン君が一番、ひどいことゆってたよ……」
「ぐぬぅ!」
またなんか言われてるけどこの少年、もしかしてアレか、女難の相が出てるタイプの主人公気質か。がんばれ。
「わ、わるかったな! おっさんたち!」
「…………あの、す、すみませんでした……」
「すみませんでした!」
素直に謝れる幼女は尊い。少年はちゃんとごめんなさい言えるようになろうね。上から目線は嫌われるっすよ。
「好かれてますねぇドラゴさん」
「え、そうなのこれ?」
こうして紆余曲折ありつつ、異世界四日目にしてようやく三人が合流したのだった。




