ハーツさんとのよっかめー。
「さぁ、行きましょう。鴨のローストを食べに!」
「うん、さすがハーツさんすわ」
日の出の時間に起こされた。
アタシまだ眠いんすけど、冒険者としては間違ってない起床時間だから何も言えない。
ハーツさんの目的が完全に鴨のローストになってるよね。
いや元から鴨のローストのことだけしか考えてなかったか。仕方ないね。
でもドラゴさんのお迎えはちゃんと行く気あるんすよね? ちょっと不安になってきた。
「あ、お二人共早いですね。おはようございます」
「ん、おはよーミルガイン君」
「おはようございますメルガイン君。ところで、この時間からも冒険者組合の食堂って開いてるんですよね?」
間髪入れずに確認するハーツさん。そしてやはり名前は間違えている。もはやこれが日常かもしれない。
なお、ハーツさんの食べ物への執着がすごい気がするけど、この人の場合、社畜過ぎて食べ物とオタク趣味とゲームしか癒しがなかったから仕方ない。
……いや、意外と多いな? まあいいか。
「はい、朝食食べてから依頼をこなしに行く冒険者が多いので」
「そうですか行きましょう」
「ハーツさんノリノリっすね……」
「遅く行ったらなくなってるかもしれないじゃないですか」
「まぁ、それはたしかに」
依頼書争奪にも通づるものがあるからハーツさんは侮れない。多分そんなん微塵も考えてないだろうけど。
「さぁ行きましょうすぐ行きましょう」
「はいはい」
ハーツさんに軽く引きずられながら、宿から出発したのだった。
なお昨日、あの後から起きたことは結構長くて多いのでダイジェストにしとこうと思う。
まず、ちゃんと役所に行き、色々と説明を受けて、身分証を取るために冒険者登録もした。
その後役所に行って身分証も作った。これさえあれば他の土地に行っても怪しまれずにすむし、なんならどこかに家を建ててスローライフも出来る。素晴らしい。
その後には一応、情報収集の為にも酒場に行って楽器演奏もしてきた。会話の邪魔にならない程度のやつ。
歌っても良かったけど、せっかく静かに飲んでる人とかも居たから演奏だけに留めた。あと、酒場に合う曲が思い浮かばなかったです。仕方ないね。
それから二人の泊まってる宿に転がりこませてもらった。追加料金払えば泊めてくれるとかめっちゃ親切な宿っすね。裏でヤバいこととかやってなきゃいいけど。
その晩にドラゴさんからパーティチャットが来たので対応してたけど、あの子はいったい何が言いたかったんだろう。まあいいや、会った時聞こう。多分なんも分からんけど。
そんなこんなで、やって来ました冒険者組合。
昨日見た時よりも人が多くて、結構ガヤガヤしている。
つーかハーツさん、施設に入った途端に併設されてる食堂へと行ってしまったんだが。マジさすがっすわ。
「ユーリャさんたちは銅級の冒険者なので、簡単な調査依頼か、採取、発掘、そういうのしか受けられないと思います」
「へぇー」
ミルガイン君の説明を聞きながら、そういや昨日の冒険者組合の受付のひとからもそんな説明されたことを思い出す。
まぁ、ある程度レベルに合った簡単なのじゃないとすぐ人って死ぬもんね。ゲームでもそうだった。難易度間違えてよく死んでた。床をぺろぺろする羽目になった。
そんな悲しい思い出がある。大事だよね、適正レベル。
「依頼書の右上に“銅”って大きくスタンプされてるやつですね。報酬も低いのでよく放置されてたりしますが、初心者にはピッタリなんですよ。競争率も低いですし」
「報酬が高けりゃそりゃあ取り合いになるっすもんね」
「はい」
というわけで“銅”マークを頼りに、依頼書を見ていく。
薬草の採取からドブさらいまで、本当に色々あるなぁ。
「ん?」
ふと、気になる依頼書を見つけてしまった。ええと、なにこれ。
その異変に気付いたミルガイン君が親切に声をかけてきてくれた。
「どうしたんですか?」
「これ……ドラゴさんじゃね?」
「え、どういうことですか」
ミルガイン君にも分かるように、ある依頼書を指差す。
「銅マークの、トトラ村の調査依頼……これなんすけど」
「ええと、村に白髪白肌の大男が住み着いていると嘆願があった。村人に危害を与えないか心配なため、調査して欲しい……。なお、黒いツノとウロコのようなものが生えているので、魔族の可能性もあるが、分からないのでそれも調べてほしい……」
「いや、ドラゴさんすわ」
どう考えてもウチの子っすわコレ。
そんな特徴のある子ウチにしか居ない気がする。知らんけど。
「お知り合いの方なんですか?」
「とある村に滞在してる、回収予定の仲間っすわ。黒ツノ白肌白髪龍人なんすよ」
「龍人!? エルフよりも希少種族じゃないですか!」
「ですよねー」
そんな気はしてたよ。とても。
しかし村に滞在してただけで通報されるとか、マジで草生え散らかすわ。すげェなドラゴさん。持ってるわー。なんかよく分からん運的なやつ。
「と、とりあえずこの依頼受けましょう!」
「そーね。他の人に取られても面倒しかないっすもんね」
ミルガイン君に促されるまま掲示板から剥いで、受付へと持って行く。
「すみません、この依頼受けたいんすけど」
すると、綺麗なお姉さんがにっこりと笑って依頼書を受け取った。
「ありがとうございます。調査依頼ですね」
「それで、多分これ、とある村に滞在してる仲間のことなんすよ」
「えっ? そうなんですか?」
さて、ここからがアタシの腕の見せどころ。
違和感のない言い訳を考えて、困ったように眉を下げながら、騙る。
「えぇ、この国に入った時に外見が目立つからってとある村に滞在しててもらうことになってたんすけど、なんか手違いで通報されちゃったみたいで」
よし。全然違和感ないすねコレ。やったぜ。
「あー、なるほど。戸籍に無い人物だったので調査依頼が出てたんですね」
「そうみたいっす。お騒がせしてすみません」
「あらー……そうなんですね……。でもこれは調査依頼なので、大元から取り下げられない限りは調査が必要なんですよ……」
「あー、やっぱり」
意外としっかりしてるんだなぁ。
しかしそりゃそうか。もしこれで本当にヤバい案件だったら、なぜ確認しなかったのか、って問題になるだろうし。
「はい、どうされますか?」
「あ、受けます。報酬は要らないんで」
「かしこまりました。では依頼書の人物があなたの知っている人物であると断定されれば報酬無し、という形で受理させていただきます」
「はい。ほんじゃよろしくお願いします」
最後に、トトラ村への簡単な案内地図を渡されて、受付完了となった。あとで簡易地図と見比べておこうと思う。まあ十中八九どころか十中十はドラゴさんだけど。
受付は、これでヨシと。
あとはハーツさんに確認して、出発するとしよう。
「ハーツさん、ドラゴさん迎えに行きますよ……ってどしたんすか」
テラス席に居たハーツさんに声をかけたら、なんかめっちゃ落ち込んでるんすけど何があったの。
「鴨のロースト……美味しいは美味しいんですが……物足りない……」
「……まぁ、アタシら舌肥えてますし」
ものっそい落ち込みようである。そんな落ち込むことすかそれ。
「どうして……もう少し塩と胡椒を付けておいてくれないんですか……」
「香辛料高いんじゃね」
「どうして……どうして……」
めっちゃ悔しそうにしてるとこ悪いんすけど、今はドラゴさんのことなんすよ。
「それより聞いてくださいよ、ドラゴさん通報されてるんですけどウケる」
「どういうことですか?」
「実は、こんな依頼が出てまして……」
後ろについてきていたミルガイン君が、そっと依頼書をハーツさんに見せる。
ちょうどコップの水を飲もうとしていたところだったので、盛大に吹き出しそうになっていた。水飲むタイミング悪いな、さすがハーツさん。
「ちょ、ドラゴさんマジで通報されてるじゃないですかウケる」
『全然笑いごとじゃない気がするんですけど』
ワタナベさんのツッコミは、とりあえず放置して。
「まぁ、そんなこんなで、笑ってないでとっとと行きやしょ。トトラ村」
「通報されてるドラゴさんマジウケる」
そんな感じで、ぷくすー、と笑ってるハーツさんを引き連れながら冒険者組合から出たのだった。
入れ違いに入って来た人には気付かないまま。
「すみませーん。トトラ村の依頼取り下げられましたー」
「えっ?」




