ドラゴさんのみっかめそのよーん。
「オッサン、オッサン、ほらアレだよ。剣作ったりするほう」
「あっ、そっちか。え、興味あるよ、ありまくるよ」
村長さんが答える前に、ロンちゃんが察して説明してくれた。ありがとうロンちゃん。さすがだねロンちゃん。
そして鍛冶か! えー、気になる。
「じゃあちょうどいい。今は繁忙期でね。手伝いが欲しいんだ」
「行きます」
鍛冶とかそういう造形系は昔から興味あったんだけど、近場になくて見学もなかなか出来なかったんだよね。めっちゃ行きたい。
「オッサンよかったな! 仕事できたじゃん!」
「おめでとうおじさん!」
「よかったねー!」
「うん、みんなありがとう。これで無職じゃなくなるよ」
ロンちゃん、リリンちゃん、サラちゃんがそれぞれお祝いしてくれる。いい子達だ。
「それじゃ、工房はこっちだ。ついておいで」
「はーい」
手を振りながらがんばれよーと応援してくれる子供達を背に、村長さんの後をついて行った。
よーし、がんばるぞー!
そのまま村の中を歩くこと二分くらいで、とある一軒の建物の前にまで来た。カンカンという鉄を叩いている音が外からも聞こえる。
外観は、他の家と比べたらごつく見えるくらいで、そんなに変わらない気がする。
もくもくと煙突から上がる煙を、はぇー、と見ていたら村長さんに、いいからはよ来い、と促されたので屋内に入った。
「おぉ〜……、これが工房……!」
いろんな物が置いてある。こっちの方は出来上がった物を商品として展示してあるんだろうか。
あ、小刀だ。ナイフよりちょっと大きいから、きっと色んな用途があるんだろうなぁ。ちょっと欲しい。
思わず手に取って眺めていたら、村長さんから声がかかった。
「ごちゃごちゃしてるから、危ない物も多い。気を付けな」
「はーい」
よいしょ、と小刀を元の場所に戻す。
「って、アンタ、何してっ……!?」
「え?」
慌てたような村長さんの声が聞こえたのでそっちに顔を向けたその時だった。
小刀を置いた拍子に隣にあった小型のトンカチが、テコの原理で宙を飛ぶ。それはそのまま何かに当たって真下にいた自分の頭に落下した。
音にするなら、かん、かんからかんかんかん、ごっ。だろうか。
落ちてきた物は、頭に直撃したのに真っ二つに折れてしまった。
「剣が、折れた……?」
呆然と呟く村長さん。
その言葉で落ちてきたのが剣だったと気付く。
「びっくりしたー、なんで剣落ちてきたの」
途中までトンカチだったよね?
なにこれ、どこでピラゴラスイッチしたの?
ちゃんと見とけばよかった。くそう。
「ま、待ちな。怪我は?」
「ないよ?」
全然痛くなかったしね。
この剣発泡スチロールで出来てんのかと思っちゃったけど、見た目的にそうじゃないんだよなぁ。どうなってるんだろこれ。
「普通は頭の方がカチ割れるだろ……、どうなってんだい」
「龍人族だから丈夫なんだよきっと」
「にしたって限度があるだろうに」
なんか色々言われたけど、分かんないからそれでいいと思うんだ。
「あ、弁償しなきゃ……」
「あーあー、いい、気にすんな。こんだけごちゃごちゃならいつかは起きたことだ。無事で良かったよ。客が相手だったと考えたら目も当てられん。また後で並べ替えを手伝っとくれ」
「ん、分かった」
そういうセンスはあんまりないかもしれんけど、がんばる!
「それより、今アンタにしてもらいたいのは鉄鉱石と鋼、錫の運び込みと、炉の様子の確認だ」
「分かった。どこに何を置くのか、あと炉はどんな状態がどういうものなのか、一応教えてくれると助かる」
「あぁ、ついてきな」
村長さんに案内されたのは、建物の裏手の空き地だった。
色んな木箱が置いてある。なるほどなるほど、あれが鉄鉱石であれが錫か、箱に書いてくれてるのはいいね。
「まずここが資材置き場。基本はここに運んで来た荷を置いとくれ。石炭とかの炉の燃料もあるから混ざらないよう注意しな」
「ってことは自分はここの燃料を炉に入れたりしつつ、必要な材料を運んだり取って来たりする係なんだね」
「そうさ。飲み込みが早いじゃないか」
やったー、褒められた。
「早速だけど、村の道具屋に注文してた荷物が届いてるんだ。ウチの旦那は今打込みに忙しいから、アンタに取ってきて欲しい」
「なるほど道具屋。看板とか出てる?」
「木の板で大きく、どうぐや、って書いてあるよ。狭い村だから看板を目印にするといい。これが注文書」
「わかった。これを道具屋さんに渡せばいいんだね」
「あぁ、距離は近いけど量が多いから気を付けるんだよ」
「はーい」
早速のお仕事である。やったー。はじめてのおつかいだけど、こういうのが大事なんだよね、仕事って。
注文書を片手に村の中をぽてぽて歩く。建物が全部で十軒くらいしかないから看板だけ見ればいいのは楽だ。
そんなことを思ってたらすぐに見付けた。
看板大きいなぁ。まあいいや。
「すみませーん。鍛冶屋から来ましたー」
「うぉ!? あ、アンタは……!」
「あれ、ジムのおっさんじゃん。道具屋さんだったの?」
「嫁が道具屋してるだけで、おれは会計とかそういうの手伝ってんだよ」
店主じゃなくて会計? ふむ。
それってつまり、嫁さんより立場が下ってこと?
「あー、なるほど婿養子」
「なっ」
「しかも尻に敷かれてると見た」
「ぐぅっ」
図星だったのかジムおじさんは唸って黙り込んでしまった。かわいそうに。
ていうかジムのおっさん、事務のおっさんだったんだね。
「それで、なんなんだよ!」
「あ、はいこれ注文書。この荷物が来てるって村長さんが」
「……たしかに来てるが、お前に運べるのか?」
「任されたし、運ぶよ?」
「へぇー、お手並み拝見と行こうか」
なんか腹立つ顔のジムおじさんに案内されて、荷物の所まで来た。店の奥の勝手口を開けて、裏手の在庫置き場みたいな所に木箱が五つ置いてあった。
「この量だからな、何回にも分けて運んでたら日が暮れるぞ?」
「おー、木箱五つ? これだけ?」
「は? お前これがどれだけ重いのか知らんのか?」
なんか言ってるけど、なんか全然重そうに見えないんだよなー。
よっこいしょ、と持ってみたら、発泡スチロールくらい軽かった。やっぱり軽いなぁ。
「えー? そんなに重くなくない?」
「!!?」
なんかおっさんがすごい顔で見ているけど、ひょいひょいと木箱を五つ重ねて持ち上げる。
「な、お、おま」
「おっさん、納品書って中に入ってんの?」
「あ、あぁ」
「じゃあこのまま持ってくねー」
ぽてぽて歩きながら鍛冶屋さんを目指す。鍛冶屋さんは大きな煙突があるからそれを目印にすればいいね。
「……バケモンか……?」
聞こえてんぞおっさん。
「村長さーん。資材置き場に置いといたよー。これ納品書」
おっさんを無視して鍛冶屋さんの裏手、資材置き場に木箱を置いて、納品書の確認をしてから中に入る。
すると、なんかの作業中だった村長さんが驚いたような声を上げた。
「早かったね!?」
「うん、そんな重くなかったから」
渡した納品書の内容を見て、それからこっちを見て、何度か繰り返しながら村長さんが呟く。
「……この量が、重くない?」
「龍人族だからだと思うよー」
「…………もう気にしないことにするよ」
「自分もそーしたほうがいいと思う」
だってよくわからんもん。
「それじゃあ、炉の燃料取ってきてくれるかい」
「どのくらい?」
「一箱ありゃいい」
「石炭?」
「いや、今から剣を作る予定だから麻袋がたくさん入ってる方の箱を頼むよ」
「あぁ、木炭の方か。分かった」
言われた通りに資材置き場に行って該当する木箱をひとつ持ってくる。
「持ってきたよー」
「ありがとう。奥の部屋にある炉の横辺りに置くとこあるから、そこに置いとくれ」
「はーい」
奥の部屋って、めっちゃ暑そうで、カンカン聞こえてくる、完全作業中のあの部屋だろうか。
まぁ、炉があるんだから当たり前か。
「おぉ……」
扉を開けて入ったら、ぶわっと熱気が来た。
それでも炉の方まで歩くと、更なる熱気が自分の体を熱していく。暑い、けど、なんだろう。ワクワクする。
とはいえ仕事はきっちりこなす。
炉の横に置いてあった石炭の箱の横に持っていた箱を置いた。
「アンタ、誰だ」
「あ、どうも、ドラゴ・アイスっていいます」
ふとかけられた気難しそうな男性の声に、反射的に名乗る。
すごく、親方! みたいな外見のおじさんがそこに居た。
「……打つか?」
「えっ? いいんですか」
「鍛冶用のハンマーなら予備がそこにある」
「え、でも」
「やるなら早くしろ。鉄が冷める」
「はい!」
なんかよく分からんけど打っていいなら打つよ!
予備で置かれてたハンマーを手に取り、おじさんの持っていた赤く焼けた鉄を挟む大きいペンチみたいな物を受け取る。
そのまま勢いでハンマーで叩いた。
かん、かん、かん、といい音が響いて、シャキーンと光った。
待ってなんで光ったん?
「!?」
「なにこれ」
手元を見たら、一本の剣が出来ていた。
いや、なんで?
「……アンタ、まさか」
「え、なになに」
驚愕に目を見開き、プルプルと指先を震えさせながら、おじさんがこっちを指差した。
「伝説の、鍛冶レベルMAXか……!?」
「なにそれ!?」
いや、ほんとになにそれ!?




