第8話
今日は幼稚園はお休み。
というのも、私が風邪を引いてしまったから休まざるを得ないという事なのです……。
なので実際は幼稚園、は、ではなくて、を、お休みですね。
しかし、うぅ……まさか、こんな事になるなんて。
前世と違って今世では不摂生な生活はしていませんし毎日早寝早起き、快眠快便の健康優良児のはずなのに。
やはり子供の身体は弱いですね……。
「華琳ちゃん。調子はどう?」
「うん。大丈夫。おでこのこれ気持ちいいし」
「そう? ママちょっとこれからお買い物行ってくるけどちゃんと寝てるんだよ? それと、何か欲しいものとかある?」
「林檎食べたい」
「分かった。林檎ね。それじゃあ、ママは行ってくるけどすぐに帰ってくるからね」
「うん」
普通、5歳児が病気で寝込んでいるなら買い物なんかしないと思う。
少なくとも誰かしら、お爺ちゃんお婆ちゃんとか、叔父さんや叔母さんに看ててもらったり買い物を頼んだりすると思うんだけど……。
もしかしてこれは前世持ちの私がいい子過ぎて過信してるのではないでしょうか?
もしそうなら後々弟や妹が生まれるなんて事になったら大変なことになるんじゃないでしょうか?
そうならないためにも私が両親を教育しなくてはいけないかもしれません。
って、なんで両親を教育しようとしてるんでしょうか?
風邪で少し頭おかしくなってますね……。
もう寝ましょう。
◇
これは、夢ですね……確か明晰夢と言うのでしたっけ?
これが夢だと気付く夢の事を。
「ジュリウスよ。調子はどうだ?」
「んん? おお、セレナ様。我はいつでも元気ですぞ!」
「そういう事ではないのじゃが……」
「研究についてですかな?」
「ある意味ではそうだ。近頃お主の周りを良からぬ輩が彷徨いているという噂があるが、何かなかったか?」
「ふむ……特に思い当たることはありませぬな」
「そうか。だが、噂があるのも事実。しばらくはおとなしくしておいた方が良いかもしれぬな」
「所詮は噂。我はその程度気にしませぬよ。それに、今の研究はとても重要な意味を持っております。故に、ここで辞めるわけにはいかないのですよ」
「そう、か……。ならばあまり長居しても良くないし、私は帰るとするかの」
「セレナ様ならばどれだけ居てくださっても構わぬのですがな」
「私も忙しい身なのでな。いつまでもとはいかぬよ」
今にして思えば、この時に言っていた良からぬ輩というのが教会の手の者だったのかもしれませんね。
そして、その事に気付いていたセレナ様が私に気付かせるためにそれとなく教えてようとしてくれていたのかも。
実際、この後も何度も足を運んできては研究の一時凍結などを提案してくださっていたし。
でもこの時の私は、セレナ様の隣に立てる人間になりたいがために研究を続けて……そして遂には聖女イリスによって討たれてしまった。
確かに、研究内容自体は禁忌と呼ばれても仕方なかったかもしれません。
でも、その研究も目的の為の過程に過ぎず、次の本命の研究にまで漕ぎ着けていればあるいは殺される事はなかったのかもしれない。
ふふっ……所詮はたられば。
現実は一度死に、別の世界に転生しています。
結局、最後まで想いを告げる事は叶わなんだ。
それだけが唯一の心残りだなぁ……。
◇
「んっ……」
「あ、華琳ちゃん起きたのね」
「まま……?」
「調子はどう?」
「頭ぼーっとする……」
「いっぱい寝てたからしょうがないね。ほら、もう夕方よ」
「ぅあっ、もうそんな時間なの……?」
「お腹空いてるでしょ? ほら、林檎剥いてあげるから手洗ってきて」
「はーい」
なんか夢を見ていた気がするけど……なんだったかな?
まあ、思い出せない夢のことよりも今は林檎食べましょう。
折角おねだりしたのですから。