第7話
お弁当後の自由時間。
親から渡されたお弁当を食べ終わった子から順に外へと駆け出していく。
子供達のお目当ては大人気のブランコです。
単純な振り子の遊具だけど、これがなかなか侮れません。
遊具自体、前世には無く今世で初めてその存在を知り触れたもので、その点では子供達と私の知識量では差はないでしょう。
だからこそ、それに魅了される理由というのも十二分に理解できるというもの。
何が言いたいかというと……私もやりたい!
しかし悲しいかな、前世でも今世でも私の食事する速度は一般からしたら遅いものらしく、未だお弁当の半分も食べきれていない。
今回も、順番待ちするしかないかな。
お弁当を食べ終えて幼稚園の外に出るとやはりブランコは人気のようで、順番待ちの列が出来ていますね。
なので私も列に並びます。
しかし、なんでただの前後運動をするだけなのにあんなに楽しいんでしょうね?
身体が子供だからかこういう単純な遊具も楽しめてしまうのでしょうか……?
「かりんちゃ〜ん!」
「風夏!? もう、急に抱きついてきて……びっくりしちゃったじゃない」
「えへへ。ごめんね。でもかりんちゃんいたからつい」
「全く……でも、横入りは良くないから並び直さないとね。ほら、私も一緒に並んであげるから後ろにいこ?」
「うん!」
このまま風夏を受け入れては横入りになるし、かといって風夏だけを後ろに回すというのも、それはそれでなんだかなぁって感じなので、一緒に後ろに回ることにします。
ただ、ブランコで遊ぶ時間は厳密にこれだけって決まっているわけではないので自由時間内に代わってもらえるでしょうか?
それだけが心配です。
それまでの間風夏と遊んで待ちます。
名前はよく分からないけれど、道具要らずで遊べる手遊びの定番をやっていきます。
いっせーせーのって奴です。
親指が上に来るように握った両手を向けあい、順番にいっせーせーの◯と掛け声と数字を言い合います。
そしてその掛け声に合わせてそれぞれ親指を立てたり立てなかったりして、数字と立った親指の数が合えば片手を下げ、2回数字が合えば勝ちという奴です。
ちなみに名前は本当に謎です。
これの名前を知っている人っているのでしょうか?
もしもいるのなら是非名前を教えて欲しいものです。
あ、その人ではなくて、手遊びの方ですよ。
そうして風夏と遊んでいると一緒に並んでいる子達が参加したいと言ってきたり、観戦しだしたりと、かなり賑やかになってきました。
とはいえ、流石に多すぎると数えるのも大変になるので一回に遊ぶのは5人までとなりました。
そしていつの間にか本来の目的であるブランコの事などすっかりと忘れてしまい、こっちの手遊びに夢中になっていますね。
別にそれを狙っていたわけではありませんが、結果的にそうなっただけです。
とはいえ、誰も遊ばないというのであれば仕方ありません。
ええ、仕方ありませんとも。
使われない遊具など遊具に在らず。
であるならば、遊んであげてこそ遊具の存在意義を全うさせてあげられるというもの。
私はこっそりと輪から抜け出して……。
「かりんちゃん……ちょっといいかな?」
「はい?」
抜け出せませんでした。
いえ、ある意味では抜け出せてはいますが、ブランコからは遠ざかります。
そして、もうあまり時間がありませんのでブランコはお預けでしょう。
うぅ……私のブランコ……。
同じ組の男の子に誘われるがままに輪から離れて話を聞きます。
「その……えっと……す、好きです! 僕と付き合ってください!」
「寝言は寝て言え」
「え?」
「あ、ごめんなさい。間違えました。お断りします」
ブランコが出来なくなってちょっとイライラしているのかもしれません。
そうでなくても、子供であろうと男から告白されるという事実に反吐が出そうです。
今は幼女ですが前世ではれっきとした男でしたからね。
時間が経てば意識が変わるかもしれませんが、少なくとも今の私には男と恋愛する気なんか微塵もありません。
「私、そういうの興味ないんで諦めてください」
なので、期待など抱かせずにきっぱりハッキリと断ります。
「みんな〜! そろそろお絵描きの時間ですよ〜」
ああ!
自由時間が終わってしまいました!
うぅ、ブランコはまた別の日です……。