第5話
最終チェックポイント。
ここを越えれば後はゴール地点に行くだけ。
なんだけれども、最終チェックポイントという事もあって最後のミッションが曲者なんですよ。
私はまあ、頭脳は大人ですので問題はないんですけどね。
ただ、風夏がね……かなり苦戦してるんですよ。
その最後のミッションというのがなぞなぞというこの世界では割とポピュラーな言葉遊びなんですよね。
私の方の問題は、『簡単に動かせるけど絶対に持ち上げられないものはな〜んだ?』という問題。
これが結構難しいけれど、ここは外なんでね、考えている時に目に入ったんですよ、影が。
そう、答えは影だったんですよ。
分かれば成る程となるいい問題なんですけど、難しいですよね?
「ねぇ風夏……どう、解けそう?」
「ふぐぐ……ぅう〜、かりんちゃん、手伝って〜」
「はいはい。今まで1人でよく頑張ったね」
風夏の問題は『泳いでいる魚が見れるのはすいぞくかん。止まってる動物が見れるのは何かん?』というもので、一瞬動物園と浮かぶけど動物園はかんではなく園。
それにそもそも動物園で見れるのは動く動物です。
それじゃあ答えは何か?
「風夏、動いていないものって色々あるよね? 風夏は動かないものって何を思い浮かべる?」
「うーんと、だるまさんが転んだ!」
「それは鬼が見てない時は動くよね? 他には?」
「あ、そっか。それじゃあ、えーと、えーと……あ、え! 絵が動かないよ!」
「そうだね。じゃあ、動物の絵がたくさんあって、最後にかんがつく物は何かな?」
「えっと、動物の絵がたくさんあって、かんがつく……図鑑! 図鑑だ! せんせ〜、ずか〜ん!」
「あ、風夏!? ……もう」
解けた途端スタンプを貰おうと先生の元へとかけ出す風夏。
静止する暇もなかったですね。
それにしても、やっぱりこれちょっと問題が難しすぎる気がします。
恐らく、元々これは問題に困った児童が親に助けを求める事を想定して難しめの問題を用意しているのでしょうね。
親子で参加するのは親子の絆を深める目的があると考えられますし。
まあ、私は自力で解いて、風夏は私に頼りましたけど。
ちなみに、私達の最後のスタンプは鷹でした。
鷹は賢く強いので前世の頃から好きですね。
スタンプを貰った後はゴール地点へ向かってひたすらに歩くだけ。
すでに体力の限界が来ている風夏も気力を振り絞っています。
一方で私も、そろそろ厳しくなってきましたね。
前世があっても今の私はどこにでもいるごくごく普通の5歳児ですので、当然体力もそれに見合った程度しかありません。
母の前で魔法を使うわけにもいかないのでひたすらに頑張るのみ。
風夏は気力を振り絞り、私は私で疲労と闘いながらも歩き続け、ついにゴールへと辿り着きました。
ゴールで待っていた先生曰く、どうやら私達は3番目に到着したようでかなりの好成績なようです。
「全員が揃ったらお弁当の時間なので、それまでは自由に遊んでていいですよ」
「「はーい」」
との事です。
まずはレジャーシートを敷きますが、私達は疲れているので普通に休みます。
でもその前に用を足しておきましょう。
目の届く場所だからということで親は待っているようです。
なので風夏と2人でトイレへと向かっている最中に突然道を逸れて風夏が林の中へと駆け出していきました。
あなたさっきまでヘトヘトだったよね!?
ーーにー、にー
林の中から聞こえてきたのは子猫の鳴き声。
この声に釣られて風夏は駆け出したわけですか……。
「この子、怪我してますね」
「どうしよう、かりんちゃん……?」
「野良のようですし、連れて行くわけにはいかないでしょう……バスで来てますし」
「うぅ〜……でも、可哀想だよ。痛いの痛いの、飛んでいけー!」
え……?
ちょっと待ってください。
今、微かですが、魔力が……何故? どうして? 魔法になっていませんしロクな効果は期待出来ませんが、それでも確かに魔力が……。
まさか、見て覚えた?
そんな馬鹿な……そもそも風夏が魔法を感知したとは考えられない。
精霊に愛されている? それともこの地に何かある?
いえ、この世界には魔法も魔術も無いはず。
……駄目、原因が分からない。
ですが、一つ言えることがある。
それは、風夏には魔法の才能があるということ。
「あっ! 待ってー! ……うぅ〜、逃げられちゃった……。かりんちゃん、逃げられちゃったよ……」
「え、ああ、そうね。でも逃げられるだけの元気はあるということだし、元気な事を喜びましょう?」
「それもそっか!」
「それよりも、早くトイレに行きましょう?」
「あ! そうだった。漏れそうなの忘れてた!」
「なら急ぎましょう」
「うん!」
トイレから戻った後は特に何もなく、怪我している野良猫と遭遇することもなく、突然雨が降るなんてこともなく、普通にお弁当を食べて、他の子達と遊び、バスで家まで帰りました。
しかし、風夏に魔法の才能が……いえ、この世界では不要な才ですし気にしないでおきましょう。
どうせ、使う事なんて無いんですから。