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第20話

先程とは比べ物にもならない速度での接近で、反応が遅れた。

私に出来たのは咄嗟に後ろに飛びのこうとする事だけだった。

しかし、小童の速度が、動きが予想外で想定外で、回避するだけの時間が、距離が無かった。

小童は私を捕まえようとしていた掌の内側からは逃れられたが、手の先にある鋭い爪が服に引っ掛かり、小童の膂力のままに引っ張られた。

服は途中で裂けて私は投げ出され、壁に叩きつけられる。


「がはっ!」


痛い……。

幼い体だからか、痛覚に弱すぎる……。

それに、息が……苦しい……。


「ゲホッ、ゴホッ……」

「素直に捕まってりゃあ、痛い思いをせずに済んだのになぁ……だがまあ、これで終いだな」


確かに痛い。

苦しい。

辛い。

でも、それで私が風夏を諦めるわけがないだろうが!

それに、この程度、前世では嫌というほど経験してきた!

こちとら従軍経験のある魔導師だ。

このくらいの痛みで根を上げてなどおられぬわ。


「確かにちと応えたが、それであきらめるわけがないだろう」

「おーおー、威勢がいいねぇ。だが、その強がりもどれだけ保つかな?」


相手が速い事を念頭に入れておけば対応くらい出来る。

それに、教祖様とやらから捕縛命令が出ていてその命令に従うつもりのようだし、そうなると小童が取れる手段など限られてくる。

当て身で眠らせようにも、私のこの小さな体では死にかねぬ。

となれば、直接捕まえるか薬物。

そして薬物を持っているようにも見えぬとならば、直接捕まえるかしかあるまい。

私を怪我させぬように、殺さぬようにという事であれば捕まえる直前で力と捕縛速度を緩めるという事。


「つまり、隙があるということだ」

「がぁっ!?」


自身を中心とし、その周囲に向けて風を放って敵を吹き飛ばす攻性防御魔法【弾けてなお美しき我が風鎧の旋律】だ。

全く、誰だこんな馬鹿げた名前を付けたのは。

魔法、魔術の名称は開発者が名付けられる。

その為、時折この魔法のように独特で馬鹿げた名前の魔法が生まれてしまう。

しかしそういうのに限って無駄に有用性なので使わない手はないというのがまた腹立たしい。

他の者もダサいと思っているのか、大体の者が【弾ける風鎧】と呼称しておったくらいだ。


「ふふ、先ほどとは真逆の構図となったのう。素直に降伏するというのであればこれ以上痛い思いをせずに済むが、どうする?」

「さっきの仕返しってか? だがなぁ、犬神憑きはこの程度じゃどうって事……ぐあっ!」

「この程度がなんだって?」

「この程度……うぐっ!」

「そらどうした? 答えてみせぬか」

「この……ぐはっ!」


私が放った風によって吹き飛ばされ壁に叩きつけられた小童が立ち上がろうとするたびに、支えとなる手や足、あるいは胴体などを狙って風の球を放って体勢を崩していく。

その間に私は一歩ずつずゆっくりと小童に近づいていく。

犬神憑きとやらがなんなのか、じっくりと見てみたい所だが、あいにくと今は急がねばならぬ状況なのでな。

素早く対処せねばならぬ。

それ故確実に相手の動きを封じる必要がある。

そうして、お互いが手を伸ばせば届きそうなくらいの距離になった時に別の魔法を放つ。


『この者に与えるは跡なき傷み。されどそれは現実なる痛み。精神を蝕み、意識を刈り取れ』

「うぐぅぁっ!? あ、頭が……何を……した……?」

「ほう、これを耐えるか。どうやら小童を甘く見ておったようだな」


中々に高い魔法耐性か、あるいは精神がその辺の者よりも数段強いのであろうな。


「ならば、重ね掛けするだけよ」

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「まだ耐えるか。しかし、もう限界のようだし、これでトドメだ」

「がぁぁぁっ…………」


ふぅ……ようやっと倒れおったか。

しかし、想像以上に危なかったな。

場所がこんな狭い部屋ではなくもっと広い場所であったら足を使われ、魔法もうまく狙えなかったであろう。

それに、なんのかんの言っても小童は私を怪我させるような事は一切していなかったのも大きい。

もしも殺しも厭わぬつもりで動かれていたらこの小さき体では対処しきれなかったかもしれぬ。

この後どうなるか分からぬし、気を引き締めて……って、おっと。

どうやら戦闘に合わせて前世の口調が出てしまっていたようですね。

気を付けなければ……流石に私ももうあの口調が恥ずかしいというのは理解していますしね。

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