第1話
私がこの世界に転生してから5年が経ちました。
この喋り方ですか?
どうやらこの世界ではあの喋り方はとても恥ずかしいもののようです。
その事を知ってしまうと無性に恥ずかしくなってしまったので変えることにしました。
なんというかこう……全裸で街中を徘徊しているような、あの喋り方をするだけで周りから見られるのがすごく恥ずかしいんです。
だから変えました。
元々あの喋り方もいつかあの人の隣に立てた時に恥ずかしくない威厳に溢れた言動を心掛けていた結果ですから変えること自体はそこまで苦じゃありません。
ふとした時にあの時の口調が出ないとは限りませんが。
「華琳ちゃーん。公園に行きますよー」
「はーい!」
華琳。
それが私の新しい名前。
最初にかりんという呼びの名前を考え、それに合わせて漢字を見た際に林の中にあっても王のように気高く咲き誇る華のような誇り高く生きれるようにという願いが浮かんだそうです。
そして、この世界では全ての人が家名を持っているようで、今の私の家名は曹永という。
前世では家名を得るのに苦労したというのに……いい家に、いや、いい世界に生まれたものだ。
あ、いや、いい世界に生まれてよかったです。
「かりんちゃ〜ん! へぶっ! ふぐっ、ふえぇ〜ん!!」
「ああ、もう。落ち着いて、風夏。ほら、立って。うん、怪我はないみたいね」
「うぇ〜ん! 痛いよぉぉ!!」
「もう、泣かないの。痛いの痛いの、飛んでけ〜」
怪我をしていないし、この程度なら使うまでもないのだけれど……こんなに泣いてると、ね。
だから軽く、本当に軽くだけど魔法を使う。
私の指先がほんのりと光を放ち、その光は風夏から痛みを取り除く。
「あれ? 痛くない。痛くないよ?」
「なんで私に聞くの?」
「なんでだろ? えへへ」
「全く風夏は……ふふっ」
今は昼だし多分誰も気づかないでしょう。
「それで、走ってきてどうしたの?」
「えっとね、かりんちゃんが見えたから!」
「そう。でも、走るのならちゃんと足元に気をつけないとね」
「うん!」
「それじゃあ、遊ぼうか。今日は何をする?」
「ブランコ!」
「じゃあブランコに行きましょう」
「うん!」
「あ、こら! 走らないの! また転ぶわよ!」
私がそう言うと先程の痛みを思い出したのかピタリと動きを止めて、でも逸る気持ちを抑えられないのか早歩きでブランコに向かっていく風夏。
私はそれを見て軽く溜め息を吐きながら後を追って歩いていく。
そんな私と風夏を見ながら母と風夏の母親は「まるで姉妹ね。」なんて言いながら微笑んでいる。
一応私と風夏は同い年なんですけどね。
まあ、私には前世がある分大人びているのは間違いないんだけれど。
◇
友達の風夏だが、正直まだちょっとどういう子なのか掴み切れていない。
少しとろい所があるもののあっちにふらふら、こっちにふらふらととにかく元気いっぱいだ。
遊ぶ事に夢中になっているかと思えば、突然私に抱きついてきてにへらっと笑いかけてくる。
なんの意図があってそうしているのか……。
でも、かわいいんだよねぇ。
つい撫でちゃう。
するとそれが嬉しいのかにへらっとした笑顔が満面の笑みになるのだ。
そうなるともうダメ。
なでなでに歯止めが効かなくなるし、自分がされて嬉しいからか風夏も私を撫でてきて、いつの間にかキャッキャと笑いながら撫で合うようになるのがいつもの流れ。
母達は「大人びて見えてもやっぱり子供なのね」なんて思って安心している事だろう。
子供を演じるのも楽じゃないわね。
…………。
はい、嘘です。
完全に素です。
精神が体に引っ張られるのか、ちょいちょいこうして子供っぽい感じになります。
まあ、ある意味健全ではあるのかな?
大人が幼女と戯れるというのは問題だけど、見た目も精神年齢も子供になって遊んでいるわけだし。