第16話
〜一般裏教団員視点〜
俺は佐藤。
一般裏教団員だ。
一般裏教団員ってなんだと思うかもしれないが、この教団の裏の顔を知っているが幹部でもなければ特別な力があるわけではない、本当に一般的な団員だからだ。
モブ教団員でもいいのかもしれないが、一応裏の顔を知ってはいるのでモブと自称するのはなんだかなと。
まあ、俺の事はどうでもいい。
重要なのは、俺の所属する教団の事だ。
奇跡の力によって人々に癒しと安寧を齎す新興宗教団体『天の光』とは仮の姿。
その実態は教祖様の癒しと契約の異能によるこの国の支配を目論む秘密組織だ。
俺に異能もなければ組織運営に関われる程頭も良くないが、割と初期の段階から所属出来ているという事もあって、教祖様がこの国を支配した暁にはそれなりの地位を与えてくれると約束してもらってる。
今もそれなりにいい思いをさせてもらってるからな。
契約によって逆らえなくなった女を自由に出来たりとかな。
とはいえ、それでも所詮は一般なんだよ。
主な仕事は新たな異能者の発見と確保、いざという時の戦闘員、そして今やっているような警備だ。
というか、こんな地下に一体誰が忍び込むというのやら……ここに来るための階段もかなり奥まった場所にあるしな。
というわけで暇だ。
……そういえばここ最近は新入りの奴が元気に動いていたけど今日は見かけないな。
少し前にめっちゃテンション上げててウザかったから気になってしまっているが、果たしてどうしているのだろうか?
もしかして……異能者見つけた?
もしもそうならあのテンションも納得が出来る。
こんな事ならどうした? くらい言っておけばよかった。
一応先輩だから手伝わせてもらっておこぼれくらいは貰えたかもしれない。
ま、今更か。
「今度会った時にでも話しかけてみるか〜」
首に手を回し背もたれにもたれかかると椅子がギシっと鳴る。
うーん。
この椅子もそろそろ買い替え時か?
後で経理に掛け合ってみるか。
「ん? あれ? 監視カメラに何か……って、はぁ!? なんだこれ!? 幼女!?」
俺の目が頭がおかしくなっていなければ、間違いなく階段の所に暗い色の服を着た幼女が監視カメラのモニターに映っている。
何やらこそこそとしているし忍び込んだのは間違いないだろうが……こんな時間にこんな場所になんだって幼女が忍び込んでんだ?
上の連中は何やってんだよ、ったく。
「おーい、西田〜。ちょっと出てくる。お前は上に連絡しといてくれ」
「俺今休憩中なんだけど? おっし! レジェンドレアきたー!」
「なんか監視カメラに幼女が映ってるんだよ」
「は? 何言って……って、うわ、マジだ。というか、なんで幼女がこんな時間に?」
「俺が知るかよ。というわけで頼んだ」
「仕方ないか。折角レジェンドレア出たってのによ」
「俺に文句言ってもしょうがないだろ」
懲罰房に居る誰かの子供か、あるいは寝付けなくて家を抜け出した不良幼女か……いや、不良幼女ってなんだよ。
まあいい。
西田が連絡してくれてるだろうし、とりあえず捕まえて後は上に任せよう。
しかし、本当になんなんだろうな、この幼女。
で、幼女を捕まえるために向かったんだが……、階段の所には幼女の姿はどこにもなかった。
どこに行った?
まさか幽霊とか言わないよな?
教祖様が異能者だし幽霊が居ないとは言い切れないけど……流石にそれはないよな?
なんか少し怖くなって来たな。
「とりあえずこの辺見て回って、見つからなかったら再度カメラの確認か」
そう思って辺りを探し始め……
「がっ!?」
な、何が……?
「不覚でした。ここは既に異世界だと分かっていたはずなのに、前世での常識を引きずっていましたね」
幼女は……異能者だった……のか……。




