第14話
夜の闇に紛れて空を駆ける。
風夏の場所へと向かって飛んでいく【導きの偶像】を追っているが、一向に止まる気配がない。
既に10分は飛んでいるのだけれど、未だに着かない。
それはつまり、迷子ではないという事の現れでしょう。
これまでは何かあったのでは? という可能性に過ぎなかったけど、確実に何かあったということになる。
つまりは誘拐されたという事が最有力候補となる。
でもそれだと何故、風夏が……?
風夏は小さく愛くるしい見た目をしているし、将来は可愛く育つと期待出来る顔立ちをしているが、それでもまだ五歳だ。
劣情に駆られてという事はまずない。
あったら怖すぎる……。
劣情に駆られてという可能性がまずないのなら次に考えられるのはお金目的だ。
でもそれも考えにくい。
失礼を承知で言うならば、風夏の家はごく普通の一般家庭でそんなに蓄えがあるようには見えない。
身代金を取れても二、三百万くらいじゃないでしょうか?
誘拐なんていう犯罪を犯すには割りに合わない。
なら理由は何?
快楽殺人でしょうか?
いえ、ただ殺すだけなら警察が既に見つけているはずなのでそれはないはずです。
でも、もしそうなら犯人を生まれてきた事を後悔してもし足りないくらいの目に合わせてあげましょう……。
くくく、数は少ないけれど従軍経験はあるのでね……惨たらしい拷問の仕方も多少は知ってるんですよ。
そんな事を考えながらも空を飛んでいますが、まだ着かないのですか……?
前に遠足に行った公園を過ぎた所ですが、その公園も幼稚園からバスで一時間近くかけて行った距離なのでそれなりに離れている……こんな距離を風夏は連れ去られたというの?
一体誰が……!
「いけない……冷静にならなくちゃ……大丈夫……きっと風夏は無事……信じなくちゃ……無事だって、信じなくちゃ……」
焦っちゃダメ。
焦ったら助けられるものも助けられない。
落ち着いて……冷静に、目の前の事に集中して。
そうして更に空を飛んでいって、多分三十分くらい経った頃にようやく【導きの偶像】が地上に向かっていった。
あそこか……。
あそこに、風夏が!
【導きの偶像】が向かっている先には教会のような、でも何か違うようなそんな雰囲気のある建物で本当にあそこに風夏がいるのか疑いたくなる建物だ。
魔術自体に問題はない。
【導きの偶像】自体は比較的簡単な魔術でこれまで何度も使ってきた。
だから失敗するはずがない。
なら本当にここに?
分からないが、魔術を失敗しているとは考えにくい。
だから風夏は恐らくここにいる。
でも、このまま無策の状態で突撃しても見つかるかもしれない。
そうなっては救出どころじゃなくなるしまずは館内の様子を窺うのが先決。
それに魔術に魔法にと魔力を使い過ぎているから回復する時間を確保しておきたい。
なので一旦【導きの偶像】を捕まえて地上に降りて魔力の回復に努める。
こうしている時間すらも惜しいが確実に風夏を助ける為に必要な時間だ。
逸る気持ちを抑えてじっと耐えて、十分な時間休んだところで再び行動を開始します。
まずは館内の様子を窺うために再び使い魔召喚を行いたいところだけれど、魔法陣を用意していないし、魔法陣を描くために必要なインクがない。
となると……やはりあれしかないか。
効率が悪いのであまりしたくはないんですが忘れてきた自分のミスだ。
仕方ない。
そこらに生えている雑草を集めて石を使ってすり潰し……
「痛っ!」
抜いたばかりの自分の髪の毛を混ぜて更にすり潰して液状にした後、魔法陣を描いていく。
本来は魔法陣を描く際に一緒に魔力を込めるのですけど、雑草という不純物が含まれている分魔力が混ざりにくい。
そこで自分の一部を混ぜる事で魔力を馴染ませやすく、そして定着しやすくする。
高度な魔術ならインクだけじゃなくて魔力を溜め込む為の魔物素材や魔石等を粉状にして混ぜ込む必要がありますが、簡単な使い魔召喚くらいならばこれで……よし!
「クモさん、中の様子を探ってきて」
サッと手を上げて応えた後建物に向かっていくクモを見送る。
頼むよ、本当に。




