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太后シンと龍王アーロン

ソニアの落胆は、計り知れないものだった。水晶宮を維持できる者は、シンしかいないと思っていたからだ。『国滅びるかもしれないという思いもよらない話に、どうして落胆の色を隠すことができるのか?』と吐露しそうになっていたと同時に、なぜ、長い歴史の中で誰もそれについて考えなかったのかと・・・。


「ソニア・・・気持ちは、分かるが・・・我は、まだ、消えておらぬ。」


シンは、ソニアの傍に寄り、リーベンデールを何故追われて青華国へたどり着いたのかを語り始めた。


§


リーベンデール国(双頭龍王国)


国を継ぐ者は、必ず双子で生まれ龍と契約できる者のみ、一人は、王となり、一人は、龍と共に聖地の門番となる法であった。

国王が逝去すると同時に、次期国王の龍との契約が発動する儀式が始まるはずが、シンの双子の兄であり、王として国を継ぐはずだったレンが、大司祭の手によって龍との契約前に有る、空白の一日に殺されたのだ。空白の一日とは、大司祭と契約者のみが知る・・・龍との契約前に身を清める1日であり、その日のみ、龍からの守護が白紙に戻るのだ。本来ならば、その空白の一日を守るはずの大司祭が、それを利用し、聖地に封印されていた邪神ウロボロスを解き放ち、自らがウロボロスと契約し王となったのだ。


シンは、龍と共にウロボロスと戦うが、二人そろっての契約で出せる力を出すことができずに、双頭龍王国を追われて青華国へたどり着いたのである。


その後、大司祭は、ウロボロスと交わした契約を新たな龍が、大司祭を選んだと国民を騙して告知したのだ。それが、現在のリーベンデール国である。その為、表面上は、青華国もリーベンデールも同じ神となっているが本体は、全く違う神であった。この事実を知るのは、今は、シンと青華国の大司祭のみである。


青華国へたどり着いたシンたちは、その瘴気に満ちた地をまず浄化し、それを維持するために、崋山の龍と契約を交わすべく崋山の火口にある聖地へ向かった。


「我の聖地に踏み入れし者よ・・・其方は、何者か?」


「我名は、シン・シアン・バラハン。双頭龍王族バラハン一族嗣子。故あって、ここに来たり・・・。龍王よ、我と契約を交わしてほしい。」


「人の子よ・・・我は、長きに渡りここにいるが人と交わることは無し・・・。なぜ、其方と契約を交わさねばならぬ。」


「我ら一族は、ウロボロスによって国を追われ、この地に導かれた。どうか、この地に根を張らせてほしい。その事始めに、崋山の瘴気が流れる大地を浄化したが、維持までする力が足りない。聖地の水晶を宮殿にして、浄化を維持したいのだ。頼む・・・龍王よ!!我と契約し力を貸してくれ!!」


「人の子よ・・・。その対価は、如何に?我に何の得がある?」


当たり前の答えに・・・黙り込みそうになるシンだったが、一族を助けねばならない。


「龍王よ!!番はいるのか?」


「否」


龍王は、静かに首を振る。


「我は、龍と人の間の子より生まれし一族、300年であれば番となろう。縁あれば、龍王の嗣子も生まれるかも知れぬ・・・。どうだ?この対価で・・・。」


「承知した・・・。我名は、アーロン。其方と番になろう。だが、一つ条件がある。番になる以上、其方の肉体は、この地にとどめおけ。今より・・・この地から一歩たりとも出てはならぬ。その条件を破りしときは、其方の御霊を食らい転生させぬが良いか?」


「・・・分かった。従おう。だが、この事を一族に伝えに行かねばならぬ。」


「では、私の背に乗れ、私の背にいる時だけは、外に出してやろう。」


シンは、アーロンに微笑みかけ、お礼を言い背に飛び乗った。


「人は・・・軽いな。ハハハハハ。気まぐれで認めたが・・・番をもつのも面白いのかもしれぬ。」


アーロンは、シンを背に乗せ崋山をぐるっと一回りして、麓にいたシンの一族のもとに降り立った。

アーロンとシンは、無事に契約したこと、その条件で一族と一緒にいることができないことを伝えた。


「我は、お前たちと共に過ごすことは出来ぬが、歩むことはできる。お前たちは、この地に根を張り双頭龍王族を復活させてほしい。まずは、宮殿と神殿を建設せよ・・・。我は、聖地で浄化を維持し、お前たちの宮殿と神殿を繋げ行き来できるようにする。だが、行き来できる者は、我とアーロンが施す刻印を持つもののみだけだ。国を治めた者の嗣子は、双子が生まれたなら祖国と同じように、一人は王に一人は聖地門番として法よ。」


こうして、青華国が建国され、共に逃げ延びたシンの従弟が、初代国王として立ち国を治めたが王家に双子は出来なかった。その間、ずっと、シンがアーロンの番として生き門番を担ったのである。


この話を聞きながら、ソニアが疑問に思ったことがあった。シンの姿である。ソニアが対面した時には、すでに少女の姿であったからだ。以前、月涼がシンに姿の事を聞いた時、宿り木の様に生きているからだと言ったことを思い出し、恐る恐る聞くのだった。


「太后様・・・妾と初めて会った時には、すでに肉体は無かったのですか?」


シンは、首を振る。そして、あの頃はまだ、肉体が有り番として長きを生きる為に、肉体の衰えが見えてきてすぐ水晶宮に封印して、アーロンの力で再生しているからとソニアに言うのだった。


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