9話「更に戦う獣たち」
んー出来れば一位の人が来る前に倒したかったなあ。
私の前には、隙を窺う二匹の獣がいた。
巨大な猿の姿をした【SEFIROSU】——HPはまだ減っていない。
剣のような牙の生えた虎の姿である【ビリけん】——こちらも無傷。
私は4割削られたが、まだ大丈夫。
それぞれがそれぞれを警戒しており、下手に動けない状況だった。
因みにこのゲーム、チャット以外では意思疎通は取れない。私の声も他のプレイヤーには咆吼にしか聞こえないし、当然向こうの声もただの唸り声や鳴き声にしか聞こえない。
なので、いきなり目の前の二人が協力して私を倒す……といったことは出来ないはずだ。……多分。
とにかく、このまま見ていても埒があかないので、私は——巨猿へと突進。
「弱者から倒されるのは世の常やな!」
同時に剣虎も吼えながら地面を蹴って、巨猿へと突進。同じタイミング、同じ距離なのに、私より遙かに速い!
「上等!」
巨猿が吼えると、一目散に森の中へと逃走を開始した。
あー逃げた!
「二対一なんざやってられん!」
巨猿が目の前にあった太い木の幹を登り始めた。
ギリギリ追い付けなかった剣虎が木を登ろうとするが、巨猿が頭上からスキルで枝から作成したであろう、丸太を投げつける。
「しょうもないやっちゃ!」
流石にそれを避けつつ登る事は出来ないようで、剣虎が諦めて地面へと降りた。
なら、仕方ない! 私は、そのまま剣虎へと突進。頭を下げて、顎を開く。
「そんな見え見えな攻撃、当たらんなあ」
剣虎が軽やかに私の突進を回避。そのまま私へと反撃しようと、瞬間。
私は開いていた顎で、巨猿がいる木の幹へと噛み付いた。
「っ!! 自分、規格外やな!」
私はそのまま木の幹を噛み砕きながら、横回転。鞭のようにしなった尻尾が剣虎へと飛来。
「おらあああああ!」
その様子を察知した巨猿が木からジャンプ。丸太を剣虎の避けるであろう位置を予測して投げた。
私と巨猿の偶然の連携だったけど、だからこそそれは効いた。
おそらく私の尻尾より丸太の方がマシだと判断したのか、剣虎が回避。回避した先で丸太の直撃を受ける。
剣虎のHPゲージが4割削れた!
「速さは大したものだが、紙装甲だな!」
追い打ちをかけるように巨猿が空から、剣虎へと強襲。
「当たらなければ、どうという事はないん……やで!」
剣虎が地面を蹴って飛翔。倒れいく木の幹へと逆さに着地すると、地面へと手を叩き付けて隙だらけになった巨猿へと、牙を向けた。
牙が赤く光る。あれはスキルの予備動作!
「【虎伏絶剣】」
剣虎が赤い残像を残して姿を消した。
いや、違う! 速すぎて目が追い付かないんだ!
「ぐわあああああああ」
赤い斬撃を纏った剣虎の突進がまともに巨猿に直撃。HPゲージが5割も削れる。
勿論、それをぼーっと私は見ていた訳ではない。
スーズの声が蘇る。
『スキルはパリィも出来ないし、攻撃力も通常攻撃の比にならないが、予備動作が必要だ。そしてスキル終わりに必ず隙がある。上手いこと見極めろ』
剣虎のスキル発動の予備動作が見えた瞬間に私は走っていた。角度的に、剣虎の狙いはあの巨猿だ。ならば、その隙をついて、一撃を入れられれば!
私は走りながら、首を後ろへと下げながら、スキル【獣脚乱舞】を発動。
「あ、こらあかん」
巨猿のすぐ側で、動きが止まった剣虎へと、私の顎が迫る。
「てめえええええ!」
ダメージを喰らって倒れていた巨猿が起き上がりながら、その長い手を振った。どうやら私がスキルを発動させたのに気付かず、剣虎へと激怒し攻撃を放ったようだ。
だから、私の剣虎狙いのスキルが、巨猿の手に当たってしまった。
スキル【獣脚乱舞】の発動条件。スキル予備動作の噛み付きが、対象のいずれかの部分に当たれば発動。
私の上顎が断頭台のように落ちた。
「しまっ!」
HPが一割削れた。だが、これで終わりではない。
噛み付いたまま、私の顎は巨猿の手を離さず、その身体を振り回した。何度も何度も地面や辺りの障害物へと叩き付ける。叩き付けるたびにHPゲージが削れていき、最後に宙へと放り投げられた巨猿は、私の縦回転しながらの爪による引っ掻きと、とどめの尻尾による一撃で、地面へと叩き付けられた。
HPゲージが全て削れ、巨猿【SEFIROSU】がエフェクトをまき散らしながら、消えていく。
「正式版では絶対に勝つ!」
巨猿が何かを吼えるが、そのまま消失。私のスキル発動終わりの隙を見計らって、剣虎が飛びついてくる。
まだ油断するな私! 本当の勝負はここからだ!
飛びついてきた剣虎の牙が刺さり、HPゲージが一気に半分を切った。私は牙を立てる剣虎を前脚で掴み、地面へと叩き付ける。
しかし猫のようにするりと着地すると、剣虎がバックステップ。
「今のでこんだけ喰らうとかほんま自分ずっこいなあ」
剣虎のHPも見れば半分を切っている。
「スキルも喰らったら一撃やし、無駄に硬いしやな……こらあワイも本気、出さなあかんな」
ゴロゴロなんか言っているがさっぱり分かんない。
「ほな、いこかアキコちゃん——ラストワルツや!」
ちょっとのミスが命取り。どのゲームでも一緒ですね〜




