69話「獣達の挽歌」
とにかく、強い。
これまでに戦って何よりも、偽アキコは強かった。
恐竜に詳しくなかった過去の私でも、ティラノサウルスの事は知っている。
私と偽アキコの獣化ゲージが派手に削れていく。
偽アキコが顎を上げて執拗に首を狙ってくる。それをアッパー気味に放った右前脚で弾く。
向こうがどうかは知らないが、私は彼女の動きを見切りつつあった。
Verβで散々狩ったボス【双斧のアロサウルス】。大きさは違えど、形は近いせいか、動きが一緒なのだ。
あとは、偽アキコ本人の動きを見切りさえすれば、対処できる。
偽アキコが今度は尻尾打ちをしてきた。その動きにぎこちなさを感じる。私と違い、この恐竜の姿での動きに慣れていないのが分かる。
彼女はきっとVerβをやっていないのだろう。もしくはやっていても、きっと違う前世だったはずだ。
「尻尾打ちは! こう!」
私は吼えながら、彼女の尻尾を躱し地面を蹴った。現実ではとても出来ないけど——スピちゃんなら出来る私の十八番、サマーソルトを偽アキコに叩き込む。
地面を削りながら迫る私の尻尾が偽アキコを強打。
よろけた偽アキコへ、私は着地と同時に突進。両手を前に出し、彼女が広げた顎を掴む。
ワニもそうだけど……こういった肉食の爬虫類系の顎の閉じる力は強力だけど……開ける力は弱い。
そのまま首に噛み付き、相手の首を捻るようにして、地面に組み伏せた。
すぐ横に、さきほど投げた斧槍が落ちている。それを後ろ脚で蹴り上げ、キャッチ。倒れて起き上がろうともがく偽アキコの脳天へと——振り下ろした。
衝撃と共に、偽アキコの獣化が解けた。
私の獣化ゲージは残り僅か。
「あはは……凄いや。本当に凄い。獣化した姿のAIアシストツールの導入が間に合わなかったのが敗因か。仕方ない」
偽アキコがそう言っているのを高みから見下ろして、私は顎を開けた。
この姿も持ってあと数秒。
だけど——それで十分だ。
私は大きく広げた顎で偽アキコへと迫る。
「……素晴らしかった。楽しかった。貴女に殺される幸福を精一杯味わ——」
偽アキコの言葉が私の顎が閉じると共に途切れた。
同時に彼女のHPゲージが消失、私の獣化が解けた。
視界の端で今まで見たことのないポイントが入るのを見ながら、私はようやく、周りにたくさんのプレイヤーが集まっているのに気付いた。
「うおおおおおおおおおかったあああああああ」
「すげえええええええええええ」
「アキコ万歳!」
「お前さっきまで、Tレックスの方がアキコだって言ってただろ」
「は? ちげーよ」
「やっぱりスピノサウルスだな!」
なんか凄い盛り上がってる。見たところ全員に戦意はなさそう。
私がどうしようか迷っていると、ミリー達がこちらへと駆け寄ってきた。
「ラノア!」
そう言って飛び込んできたミリーを抱きしめた。
「流石やで!」
「ありがと! あのさ、この人達は? 大丈夫?」
「ああ……こいつらな……最初は前みたいな美味しいとこ取りなんかと思ってシバこうとしたんやけど……」
「こいつらが、手は出さないから最後まで見せてくれって言われてな。無抵抗を斬るのはな……」
「まあ、一応は警戒はしていたけど……大丈夫そうにゃん」
蔵人さんとユーナちゃんが苦笑を浮かべている。
「生ミリラノ見れた! ああ癒やされるんじゃ〜」
「馬鹿野郎。ラノミリだろそこは。よしここにキマシタワーを建てよう……」
「蔵人うらやましね」
「俺もサーベラスに入ろうかなあ……」
そんな事を言って盛り上がるギャラリー達。
イベント残り時間、2分。
ポイント合計数を見れば、僅かにではあるが、暴王より上回っていた。
「もしかして、私達、1位?」
「みたいやな。偽アキコ達が……よっぽど溜め込んでいたみたい」
「パーティ解散してなかったのかにゃん? 理由が読めないにゃん」
私には、何となくだけど、偽アキコの心理が分かった気がした。
彼女は、きっと、ポイントなんてどうでも良かったんだと思う。
最後の最後、私に倒される瞬間まで、彼女は心底楽しそうだった。
まあ、彼女の事はまたイベント後に聞けばいい。
それよりも——
「私達……1位だ! やったあああああ!!! 勝ったああああああ!!」
私は思わず声を出し、斧槍を持った手を宙へと突き上げた。
「やったああああ!!」
「うおおおおおおおおお!!」
サーベラスのみんなと、ギャラリーの人達も一緒に歓声をあげてくれた。
こうして——私達の初イベントの幕が閉じた。
というわけで、イベント【大竜星祭】完! 本来あるはずの2日目、3日目については……次話辺りでお話できればと思います。
そろそろエピローグに近付いております。




