68話「激突——sideミリー」
「ラノア!」
ミリーが叫ぶ。ようやく、自分にしつこく絡んでくる相手を倒せたと思った矢先、ラノアが爆弾に向かった突っ込んでいったを見て、叫ばずにはいられなかった。
見れば、蔵人もHPをかなり消費しているが、戦っていた赤Tシャツの男は倒せたようだ。
ならば後は偽アキコだけなのだが……。
加勢しようと向かった矢先にこれである。何なら偽アキコまでその無謀な行為を行っている。
「何してるんやあいつら!」
怒気を発しながら走るミリーだったが、すぐにその行動の意味を知った。
見れば、爆弾の直撃を受けてなお、ギリギリ生きている両者。
そして——響く二重の咆吼。
「……んなアホな……」
思わず足を止めたミリーがそう呟いて見つめる先。
そこには、身体相応に巨大化した斧槍を手にしたスピノサウルスと——恐竜がいた。
スピノサウルスと同じかそれ以上に大きい、緑色の鱗に覆われた体躯。がっしりとした頑丈そうな顎。
二足歩行に小さな前脚、太く、先端にいくにつれ細くなる尻尾。
その姿は誰もが恐竜と言われ思い浮かべるであろう、まさに恐竜の中の恐竜。
ティラノサウルス・レックス。
「はは……なるほど、【暴王】とは何とも……素直なネーミングや」
低く響くその咆吼と共に、ティラノサウルスが突進。負けじとスピノサウルスが斧槍を振る。
本来、獣化した場合は、現在装備している武具の効果は失われる。ただし、一部の特殊武器については獣化してもそのまま使える物があった。
ラノアが持つ斧槍もそれであった。
だから、ミリーは一瞬ティラノサウルス——偽アキコに気圧されたものの、ラノアの勝利を確信した。
「ティラノサウルスがどんだけ強いか知らんけど……武器があるだけラノアの有利や!」
ラノアの斧槍が偽アキコへと直撃するが、しかしその歩みが止まらない。
「ギャルオオオオ!!」
巨大な質量同士がぶつかり合い、衝撃音が響き渡る。
偽アキコがその大きな顎を広げてラノアの首へと噛み付く。
そのまま首を振ると、ラノアの身体がまるでおもちゃのように吹き飛ぶ。
「嘘やろ……?」
吹き飛び、倒れたラノア。更に追撃せんと疾走する偽アキコ。
すぐに立ち上がったラノアが、斧槍を再び偽アキコへと振り抜いた。
しかし、やはりその攻撃ではびくともしない偽アキコがその勢いのまま突っ込んでくる。
今度は首を噛み付かれないように立ち位置を変えたラノアがくるんと回って、尻尾を叩き付けた。
空気が震えたように錯覚するほどの衝撃。今度は偽アキコも耐えられず、吹き飛ぶ。
「んー獣化した際の攻撃とノックバック計算式では武器はあんまり強くなさそうだにゃん」
いつの間にかミリーの横に来ていたユーナがそう呟いた。
「えらい詳しいな自分」
「昔取った杵柄にゃん」
どうやら、ラノアも武器がさほど効果がない事に気付いたのか斧槍を——投げた。
風を切り裂き、迫る斧槍を偽アキコが頭で弾く。その隙を見逃さず、ラノアが間合いを詰めた。
前脚が発達している分、接近戦での攻撃の多彩さはラノアの方が上だった。
引っ掻き、尻尾打ち、噛み付き。
互いを質量の暴力で殴り合う2匹の恐竜を、ミリー達はただただ見つめるほかなかった。
「なんというか……ちゃうゲームやな」
「そういうゲームだったにゃん」
「そういえばそうだった」
「二人とも、ラノアの心配もいいが……油断出来ないぞ」
二人のもとに駆け寄ってきた蔵人がそう言いながら、視線をこの円形フィールドの外側へと向けた。
「うおおおおすげええええええ!!」
「俺これ映画で見た!」
「アキコ万歳!」
「やれえええスピノサウルス!」
気付けばいつの間にかプレイヤーでギャラリーが出来ていた。
「いつの間に……」
「ネットで、ここが最終決戦の地だと出回ったせいで生きているプレイヤーが集まってきているらしい」
「オビ1達は?」
「ここには近付かない、だそうだ」
「まああいつらしいわ。それより、どうする?」
「多分、ラノアと偽アキコが弱ったら乱入してくるにゃん」
「はん! どっかで見た展開やな!」
「だが、今回は——俺達がいる」
「にゃん」
三人がそれぞれ武器を構え直した。
「ラノアを信じよう。例え相手がティラノサウルスだろうが……あの子は勝つ」
「ああ。その通りだ」
「じゃあ、あの有象無象は……ユーナ達で何とかするにゃん」
三人が駆けていく。
最後の戦いが、いよいよ終焉を迎えようとしていた。
前世ティラノサウルスはスピノサウルス以上の高補正、強力な獣化とめちゃくちゃ強い前世ですが、獣化ゲージを溜めるのにはスピノサウルス以上に時間がかかります。
ただし獣化した際の近接戦闘能力は白眉。
あそこまでデカくなると人の武器はさほど意味を成しません。
というわけで、次話かその次ぐらいで戦いは終わりエピローグに近付いてきました。
残り少しですが最後までお付き合いいただければと思います。




