60話「サイトポイズン」
「う……あ……」
身体が痙攣する。気持ち悪い。立っていられず、膝が地面についた。
待って、何これ。
身体中から力が抜けて、目の前がチカチカと瞬く。
その最中で、目の前の人物が自分へと剣を振り下ろそうとしているのが見えた。まずい、頭にクリティカルヒットしたらいくら私でもそれなりのダメージは通る。
ううう……気持ち悪い……。
こんな形で負けたくない。でも身体が言うことが聞かない。
「悪いな。卑怯かもしれないが……勝たせてもらう」
目の前の人物がそう言っているのが聞こえた。
このままなぶり殺しにされるのだろうか? せめてミリー達に注意を……と思っていたら。
「っ!? しまった仲間がいたか!? みんな警戒! あ、パプリカさん! そのままそこで立ってて! ってああ! くそ、一時撤退! なんだよあれ! 連射出来る奴あるのかよ!」
何かが風を切る音と、矢の刺さる音が周りで聞こえて、バタバタと走り去っていく足音。
「……ノア!」
その後に誰かが駆け寄ってくるのが分かった。でも、私は身体が動かないのでどうする事も出来ない。
「ラノア! 目を閉じて! 深呼吸しろ! 一時的な物だ!」
目を閉じる?
私は言われるがままに目を閉じた。あのチカチカがまだ瞬いているけど、気分は良くなった。
ああ、暗闇って、こんなに落ち着くんだ。
柔らかい感触が後頭部に当たっている。なんだろう、なんだかお母さんかお父さんに抱かれているような、そんな安心感。
痙攣が、止まっていく。
気付けば、荒れていた呼吸が落ち着いていく。
私は、ゆっくりとまぶたを開けた。
空が見える。どうやら倒れてしまっていたようだ。でもその空の手前。私の顔を覗き込むように見つめているのは、ユーナちゃんだった。
「あ、れ? ユーナちゃん、なんでここに?」
「もう……心配したにゃん!」
「あ、気を付けて! プレイヤーがいてキラキラしてて!」
「大丈夫。追っ払ったにゃん」
私は、後頭部の柔らかい感触の正体にそこでようやく気付いた。ユーナちゃん、倒れた私に膝枕をしてくれていたんだ!
「! わあああごめんん!」
慌てて飛び起きた私を、優しそうな表情で見つめるユーナちゃん。
「大丈夫にゃん。助けに来たのに遅くなってごめんにゃん」
「助け?」
「パーティへの誘いに返信……出来なくてすまなかった。本当は、すぐにでも飛び付きたかったのだが……にゃん」
真面目そうな口調でユーナちゃんがそう語った。どうやら、ユーナちゃんは私達のパーティに入る為に飛び入り参加してきたようだ。
「あははいいよ。こうやって来てくれたし!」
「うん。えっと、改めて、仲間に入れて欲しいにゃん」
「もちろん! ミリー達も賛成してくれてたし。じゃあ、パーティ申請送るね!」
私が送ったパーティ申請でユーナちゃんが無事パーティに加入した。
それも含め。ミリー達に通信をかけた。
『ラノア! またあんたははぐれて! 今そっち向かってるけど平気?』
すぐに通信に出たミリーがちょっと怒ったような声で心配してくれた。
「うん、ちょっとピンチだったけど、ユーナちゃんが助けてくれた」
「初めまして? だにゃん。よろしくにゃん!」
『あーあんたが。ラノア助けてくれてありがとう。でもとりあえずあたしらが到着するまで動かんといてや?』
そう言うミリーに、私は首を振った。
「うん、それがベストだって分かってるけど……時間がない」
『……ラノア。暴王のメインパーティがそっちに向かってるらしい。更に、それと共にあの空中戦艦もそっちに向かっている。おそらくそこが最後の戦場になる。あたしらが到着するまでに死ぬとかは絶対に許さへんしな!』
ミリーの声に私は頷いた。
「分かった。私達【サーベラス】は——」
『やられたらやり返す』
「じゃあいってくるね」
通信が切れる。私はユーナちゃんの方に向いた。彼女はこくりと頷いた。
「さっきのあのピカピカクラゲたちを倒す。あの謎状態異常をなんとかしないとだけど」
「あれは——視覚毒にゃん」
「視覚……毒?」
「光過敏性発作って聞いたことないにゃん? 光による刺激に耐性のない人が起こす発作にゃん。でもこれは大昔ならともかく今時は起こらないようにこういったゲームの視覚情報は制限をかけられているにゃん。なのに、それを貫通して耐性の有無に関わらず、見る者に強制的に発作を起こさせて、行動不能にするのが……視覚毒にゃん。あれはゲームシステム上の状態異常じゃないにゃん」
待って、つまりあの光ってた白い少女の攻撃は……。
「ラノアじゃなくて、それを実際に動かしているプレイヤー本人の脳にダイレクトアタックしてるにゃん。これは……VR法では禁止されているにゃん。おそらく開発者も運営も、そして多分実際にそれを引き起こしている本人も…想定していなかったはず。多分今頃運営側は必死に原因を究明して、修正させるはずにゃん。でもイベントが終わるまでに修正されかどうかは……わからない」
「それって、どうすれば」
そんなん防げないじゃん。見たら、行動不能になってしまうようなプレイヤーをどうやって倒せばいいの?
「……任せるにゃん。そういう分野は得意中の得意にゃん」
ユーナちゃんが頼もしい笑顔を浮かべ、そう言った。
サイトポイズン——視覚毒については、VR機器が開発された際に開発メーカーや科学者によって研究実験検証が行われました。ゲーム内のエフェクトや視覚情報でそれが起きないように徹底的に制限がかけられていたのですが。色んな偶然が重なって、起きてしまったようです。
原因については、次話で詳しく出てくるかと思いますが、使っている本人もパーティも狙ってやっているわけではありません。なんかやたら自分の周りの人が変な状態異常かかるなあ変だなあぐらいにしか思っていません。
とはいえ、結果それを利用しているのは確かです。
うう、ポイント欠乏症が……!
ブクマを……評価を……! たのむ……!




