50話「ぶら下がり——sideオビ1」
ええい! 何が起こっている!
オビ1が仲間から送られてくるメッセージという名の悲鳴にどう返そうか悩んでいると、エンザとカルナの加勢に向かった由犀から、地下の様子がおかしいという報告を受けた。
オビ1が急いで地下のあのワームの巣へと向かう途中。エントランスの二階部分に到達した途端に建物を揺るがすほどの地震。
「なんだ!?」
と、オビ1が声を上げた瞬間。
エントランスの床を突き破ってこの要塞のボスと思われる【穿孔するウィルム】が現れた。
そのまま三階部分まで伸びたそのボスはおそらく設定されているAIによって行動範囲外と判断され、不自然に急停止。
そこまでですら、オビ1の予想を越えた出来事だったのだが、
「は?」
なぜかそのボスの口からはしごと一緒に一人の少女が飛び出てきた。
その少女はこちらのいる部屋へと飛ばされてくると、壁へと激突し床へと落ちた。
「うそだろ?」
それは紛れもなく、オビ1の本音だった。
その少女が素早く立ち上がって武器をこちらへと向けた。
頭上を見ると、【ラノア:サーベラス】と表示されている。
オビ1は、事前に、参加【群体】リストには当然目を通しており、それぞれに対してどう動くかまでを想定していた。
サーベラス……3人でしかも飛び入りではなく正式参加……元Verβの上位ランカーのミリーというプレイヤーがいる。後の2人についてはデータが少ないが、【暴王】が占拠していた鉱山をたった3人で解放させたという噂もある。
オビ1が出した結論は——保留。データが少ないから何とも言えないが、さして警戒すべきでもない存在。
その程度の認識だった。
どんなに個の力が強かろうが、しょせんはただのプレイヤー×3だ。
なのに。
ハンザ、カルナの遠距離コンビが近距離戦に持ち込まれて苦戦。罠は発動しているにも関わらず相手にさしてダメージを与えていない。
そして、地下へと想定通り追い込まれたプレイヤーの一人がなぜかボスの口から出てきた。
「……冷静に考えてもわけわからん!」
「敵プレイヤー!」
黒髪の少女は見たことのない素材の重鎧を纏っており、スチームパンク風のハルバードを装備していた。
どれも情報通であるオビ1が知らない装備だ。
「重装タンクか? 何より……」
オビ1は、エントランスで起きた爆発による倒壊を上から観察していた。生き延びるプレイヤーなんていないと思うが念の為だ。
しかしそこでオビ1が見た物は……。
「お前……スピノサウルス持ちか」
オビ1は両手の短剣を構えずにそう現れた少女、ラノアに問いかけた。
スピノサウルス。それはVerβプレイヤーにとっては恐怖の対象でありそして——
「あれ? なんで知ってるの?」
「エントランスの罠を獣化で耐えたのを見た。あれをまともに喰らって生き延びるプレイヤーがいるのは想定外だったけどな」
「あーそっか。あれ酷いよね。階段でも爆発するし大変だったんだよ」
「大変だったで済む方がおかしいんだけどな……。いやいい。そうか……なあ一つ聞いていいか?」
オビ1に、攻撃をする意志はない。そもそも軽量アタッカーで、PS自体はそれなりにあるものの重装タンクとは相性が悪い。彼は勝てない勝負はしない主義なのだ。
「……いいよ」
そう言いながらのラノアは構えを解かない。
「そうか……いやこうやってゆっくりと話してみたかったんだ」
「何の話?」
「君の話さ。なあ、君がVerβの【アキコ】だろ?」
「……」
少女の顔に葛藤が浮かんでいるのが見て取れたオビ1が静かに首を降った。
「いや、答えなくていい。今の表情で分かった。良かった……安心した。俺もあいつも間違っちゃいなかった」
「だから何の話さ!」
少女が叫ぶ。オビ1はその少女の背後、エントランスへと続く扉の向こうを見て、こう言い放った。
「なに……時間稼ぎだったというだけ——さ!」
オビ1が素早く身体を翻して、横っ飛び。
「え? っ!」
それを見てラノアが初めて、背後にボスが迫っている事に気付いた。
「どうやら、三階は安全みたいだが……二階部分は奴の索敵範囲内のようだ!」
毒液がレーザーのように部屋を切断していく。
「あの時のラスボスがこんな少女だったとは驚きだが……はは! 悪いがあの時の借りは返させてもらうぞ!」
そう言いながら、オビ1が両手の短剣を構えラノアへと突撃。
毒液を間一髪避けた体勢で隙だらけのラノアの首を狙う。
オビ1が持つ数少ない攻撃スキルの一つ【ネックスラッシュ】
クリティカル判定が出やすいスキルで、相手の急所に上手く当たれば、防御無視のダメージを与えられるというスキル。オビ1は重装で油断したプレイヤーを何人もこのスキルで狩ってきた。
「どの時か分かんないけど! 敵は倒す!」
短剣が首に届くと思った瞬間。少女が獰猛に笑う。
「っ!」
不安定な体勢のまま、少女が斧槍を地面へと突きつけて、その反動でオビ1へと強襲。
行ったのははただの頭突き。
「ぐはっ!」
スキル発動中で、躱せないオビ1はまともにラノアの頭突きを受けて、仰け反る。
その隙に体勢を戻したラノアが肉薄。
「ワームに追い回される恐怖——そっちもくらえ!」
ラノアがスキル【突進】を発動。
「グゥ!」
オビ1はそれをガードするも突進をまともに受けてしまい、強制ノックバック効果で吹っ飛ぶ。
その先はあのエントランスだ。
「まずい!」
扉を越えて、崩壊した二階部分のテラスが見えたオビ1は短剣を捨て、必死に手を伸ばした。
このまま落ちてしまえばあのワームの巣へと一直線だ。
「くっ!」
何とか破砕したテラスから剥き出しになった鉄骨に掴まったものの、オビ1そこにぶら下がった状態だ。
下には大穴があり、ボスワームの顔が見える。どうやら一度引っ込んだようだが、またこちらへと攻撃を仕掛けようとしているのが見える。
上を見ると、端にやってきたラノアがこちらを見つめている。
「さようなら、オビ1さん」
その目にオビ1はぞくりとした。
ああ、そうだ。あの目だ。少女だろうが恐竜だろうが、あの目は変わらない。
自分が、圧倒的な強者だと知るがゆえの目付き。
ラノアが投擲爆弾をこちらへと落とした姿を見て、オビ1は歓喜に震えながら叫んだ。
「はは、やはり……やはりあんたは最高だ!」
そしてボスワームが蠢く音と共に爆発音がエントランスに響いた。
地の利を得たオビ1が勝つ(名推理)




