40話「涙の理由は」
ユーナちゃんが頭を下げた。同時にポニーテールが動き、テーブルに当たった。
「あーいや全然大丈夫!」
「あの時は、その場しのぎに言ったけど、ラノアちゃんはもう【群体】作ったにゃん?」
ユーナちゃんがそう言ったタイミングでドアが開き、先ほどの人がお盆にカクテルグラスを二つ乗せて入ってきた。
「どうぞ……ほーりーえんじぇるユーナ様には【ボンド・マティーニ】、お連れ様には【コスモポリタン】をご用意しました」
「……もっと可愛いのが良かったけど……これでいいにゃん」
「は、申し訳ございません」
「良いニャン。ありがとにゃん」
タキシードさんが私の前に赤い液体の入ったカクテルグラスを置いた。
ユーナちゃんの前には無色透明な液体が入った、シュッと細長のカクテルグラスとサイドにオリーブが付いていた。
「じゃあ、ラノアちゃん乾杯」
そう言ってユーナちゃんがグラスを掲げたので、私も真似る。これ、グラス同士をぶつけるのはダメなんだったっけ?
ユーナちゃんがグラスの半分ぐらいまでを一気に煽った。
「VR内では酔えないけど、悪くない……にゃん」
「あはは……ああそういえば【群体】だけど、まだ名前が決まんなくてね」
「今メンバーは何人にゃん?」
私は、そこで当たり障りなさそうな程度にミリーと蔵人さんの事を話した。
「蔵人?……なるほどにゃん。Verβの上位ランカー揃い踏みにゃん。激アツにゃん」
「え!? なんで分かったの!?」
二人が元ランカーって事は話してないのに!
「ミリーちゃんについては、本人が言ってたし有名にゃん。蔵人ちゃんについては……まあ元ネタで分かるにゃん」
「元ネタ?」
「古い古いゲームにゃん。まあそれはともかく、なるほどにゃん……個性が強すぎる三人だ」
ユーナちゃんが目を閉じ、腕を組みながら何かを考えていた。
「3……獣……上位ランカー……まるでトップスリーを守るような……」
「ええっとユーナちゃん?」
「……ケルベロス……いや、【サーベラス】、これだな」
ユーナちゃんがそう言って目を開いた。その顔には満足げな笑顔が浮かんでいる。
「え?」
「Cerberus……英語読みでサーベラス。三つ首の竜の尻尾と蛇のたてがみを持つ、神話上の獣だよ。冥界の番犬とも言う」
「三つ首の番犬……竜の尻尾にたてがみ?」
なんだか聞いた事があるようなないような名前だけど、サーベラスという響きは好きだ。
「まるで……スピノサウルスみたいだろ?……にゃん」
なんかユーナちゃんのキャラが変わってる?
でも確かにそうだ! 竜の尻尾にたてがみ……つまりヒレだ!
「ケルベロスは番犬だ。上位3席を守った君たちにはぴったりだにゃん」
「【サーベラス】……3ってキーワードが含まれているけど直接的でもないし、獣要素もあってミリーのサーベルタイガー感もあってスピちゃんっぽくて……何より響きがかっこいい! ありがとう! みんなに提案してみる!」
「お礼になったかな?」
「うん! ありがとうユーナちゃん!」
私が嬉しくなって、テーブルに乗り出して、ユーナちゃんの手を掴んでブンブンと振った。
びっくりしたように目を丸くしたユーナちゃん。やっと年相応の顔になった。
それから、私はユーナちゃんとカクテルを飲みながら他愛もないゲーム話をして、店を出た。
「今日はありがとうユーナちゃん! フレンド登録も出来たしまた話そ!」
「うん。あはは……私……じゃなかったユーナ、フレンド初めて出来た」
「ほんと!? じゃあ今度一緒にクエスト受けようよ! 私こう見えて結構強いよ!」
「ありがとう……本当にありがとう。私には十分過ぎる。今日は貰いすぎた。お礼はまたいずれ……にゃん」
なぜだか、ユーナちゃんが泣きそうになりながら頭を下げ続けた。
私は慌ててそれを止めるも、彼女は泣き笑いの表情を浮かべて、そのままログアウトしていった。
消える間際、彼女がやっぱり少し泣いているのが私には分かった。
なんだか、胸がギュッと締め付けられるような気持ちになる。
「……ユーナちゃん、【群体】に誘ったらみんな怒るかな?」
分かんないけど……多分きっとみんな賛成すると、勝手に思う私だった。
ユーナちゃんは古のオタク




