37話「模擬戦——sideミリー」
【ラノアの拠点】
「シャアア!!」
草原の背の高い草の中に潜む一体の豹が、木刀を持つ蔵人へと襲いかかる。
「っ!」
蔵人は半歩下がり、その飛びかかりを回避すると、刀を振った。
しかし、器用に空中で身体を捻らせた豹がそれを避ける。
地面に降り立った豹が再び突撃。低い位置からの攻撃を蔵人は木刀を地面に突き刺すように立てて止めようとする。
それを予期していた豹が、地面を蹴って跳躍。それに合わせて、蔵人が地面に突き立てた木刀を払うが、間に合わない。
鋭い豹の爪が蔵人の胸を切り裂く。
「参った」
蔵人がそう宣言すると、着地した豹が光に包まれた。
光が消え、現れたのはミリーだった。
「だいぶ速なった?」
「速いし、一撃が重い」
「ふふーん。やっぱりネコ科は大きいほど動かしやすい」
ミリーと蔵人はラノアの拠点にある草原で模擬戦をしていた。ミリーが自身の前世をカラカルからパンサーに変えたので蔵人に頼んだのだ。
拠点にはいくつか便利機能があるが、一つは、獣化ゲージが常に溜まっており、無制限で使える点だ。
当然、HPも減らないので色々試すには良い環境だ。
ただ残念ながらここで溜まった獣化ゲージは拠点の外に出るとゼロに戻ってしまう。
「まあVerβやってない人はいきなり前世の姿なっても上手く動かせないし、ええ機能やな」
ミリーは元々ネコ科をずっと動かしていたので、動きは熟知しているがいかんせん以前動かしていたサーベルタイガーがピーキー過ぎて、現状の前世ではどうにもぎこちない動きしか出来ない事を悩んでいた。
蔵人レベルのPS持ちなら良い練習相手になると思い、蔵人は蔵人で、人相手ならともかく獣相手の剣術は未知だったので、良い経験になると思い喜んでその申し出を受け入れた。
「獣化は中々扱いが難しい」
「身体の一部だけ獣化とかも出来るみたいやで?」
「ほお?」
「私も良く知らんけど、なんかそういう調整をしてくれるNPCがおるみたい。まああたしはきっちりそれぞれの姿で分けて動いてるから、今のままでええけど。いっぺん考えてみたら?」
ミリーは何やら悩んでいる蔵人にそう助言した。
ぶっちゃけて言えば、彼はかなり強い。
多分1対1じゃああたしもラノアも勝てないのではとミリーは思っている。
とにかく、動きが綺麗で、何より無駄がない。おそらくだが、現実でも剣道とかそういうスポーツを嗜んでいるんだろうなとミリーは勝手に思っていた。
「そうだな。一度検討しよう。それよりそろそろラノアを引っ張り出さないか?」
「あー、あれからずっと引き籠もってるもんね」
「【大竜星祭】も近い。そろそろ群体も作らないと。流石にいくら強いとはいえ三人だけでは不利だ」
蔵人の言うことはもっともだった。
ミリーもそれをずっと考えてはいた。
このゲーム初のイベント【大竜星祭】
それはイベント専用フィールドで繰り広げられるポイント争奪戦。
ゲーム内時間3日に及ぶイベントで、1日目、2日目、3日目とそれぞれ別のルールで各群体が競い合い、それによってランキングが決まる。最終的に最も多くポイントを取った群体、つまりランキング1位の群体が優勝となる。優勝すると賞金と、何やら特別な賞品が貰えるらしい。
「一応、群体でなくても参加は出来るらしいけど、同じ群体から最高4パーティ、計16人が参加できる事を考えると……最低でもあと1人は欲しい」
「それに——俺らの群体の名前も決まっていない」
「それなー」
群体名。それはめちゃくちゃに大事だとミリーは思っている。
いくつか候補を考えてはいるがどうにもしっくりこない。
こう、ストロングでスマッシュなセンテンスが欲しい……だけど残念ながらミリーは自分にネーミングセンスがない事を自覚していた。
「俺に期待するなよ? あったらこんなネタネームでゲームやってない」
「蔵人? ええやん武士っぽくて」
「まあ正確には秘書的なアレなんだが……いや元ネタの元ネタはどうでもいい」
さて、そしたらラノアを巣穴から引っ張り出しますかとミリーが言い、枯大木の拠点に戻る。
階段を登ると、拠点の扉が内側から勢いよく開いた。
「凄いの出来た!! みんな集合!!!」
煤で汚れた顔のままラノアが太陽のような笑顔を浮かべ飛び出てきた。
「もう何が飛び出てきてもあたしは驚かないで」
「右に同じだ」
そう宣言する2人だったが、数分後に開いた口が塞がらなくなる事をこの時点ではまだ知らない。
イベント前の準備。こういうパートを書くのもバトルと同じぐらい好きです!




