17話「ラノアの箱庭」
せっかくなので、一緒に見て回ろうという事で私とミリーはこの拠点——リズナというらしい——を巡る。
「Verβと全然ちゃうなあ。結構VRMMOはやったんやけど、これは他の奴と似た感じ」
「そうなんだ。私全然ゲームってしなくて」
「あはは〜ラノアめっちゃ初心者っぽいもん」
「ゲーム用語も全然分かんないや」
「あたし詳しいから教えてあげるで!」
「ありがと〜」
フレンドになったのがよっぽど嬉しいのか終始ミリーはニコニコしていた。
私とミリーが最初いた広場と大通りの間には大きな木製の掲示板があり、たくさんの人がそこに集まっていた。
「あーこの掲示板でストーリークエストを受ける感じやな。しかしチュートリアルがあれだけってのも中々の突き放しっぷりで好感度高い」
「私未だに何をどうしたらいいかさっぱりだよ」
「まあそれがこういうゲームの最初期の楽しみやな! さてじゃああたしは外出て雑魚狩りしてくる! ほんまはラノアとクエスト受けたいんやけど……さっきはカラカルに瞬殺されたし、まだ身体の動かし方慣れてないんよね」
悲しそうな顔を浮かべるミリー。……あれ、もしかしてスピちゃんには勝たなくても良かった?
まさかね。
「というわけでちょっと運動してくる! また連絡するし一緒に遊ぼな!」
「うん! またね!」
私の言葉を聞き終わるか終わらないかぐらいで、既にミリーは走り出していた。
なんだか楽しい子だったなあ。
「ふふふ……ここではラスボス呼ばわりされないし怖がられないし、やっぱり名前変えて大正解!」
さて、私はどうしよっかなあ。
みんながクエストを受けている掲示板の横に、これみよがしな大きな箱が置いてあった。近付くと、アイテムボックスという表示が出たのでタッチ。
すると、目の前にウィンドウが表示された。どうやら手に入れたアイテムを保管できるらしい。
中を見ると、アイテムが数種類入っていた。Verβ経験者には消耗品をプレゼントという特典の品だと表示された。
【ポーション】×10
【ハイポーション】×5
【獣血剤】×5
【蘇生薬】×2
説明を見ればほとんどが消耗品? らしいけど、それとは別に一番下に一つだけ紫色で表示されている物があった。
「ええっと、ランキング一位の特典か……これ何だろ?」
そこにはこう表示されていた——【神の箱庭】、と。
「箱庭……?」
ランキング一位の特典だから勝手になんか強い武器とかアイテムだと思っていたけど……。
名前をタップして説明文を開いた。
【神の箱庭】
“使用したプレイヤーの箱庭を作成する。以降、このアイテムは箱庭へと転移する鍵となる”
なるほどわかんない。
「まあ使ってみますか」
どうせタダ? で貰った物だし。
というわけで私はボックス内の消耗品や【神の箱庭】を全て自分のアイテムパックに移す。
どうやら、右手の腕輪が収納? スペース? らしく腕輪を触るとウィンドウが出て、そこから選んだアイテムが具現化するという仕様らしい。
一応、初めて見る機能には全て説明があるので、なんとなく私でも使い方が分かる。親切!
さて、私は早速腕輪をタッチして、【神の箱庭】を取り出した。
見た目は、木と鉄とあとなんだかよく分からない素材が混じった四角い箱だ。
どやってつかうんだろ?
手のひらサイズだけど、よく見ればなんだか開けられそうだ。蓋のようになっている場所を開くと——
「えええええ!?」
私は箱の中へと吸い込まれた。
☆☆☆
なになに? なにが起こったの!?
混乱と共に、目の前の景色ががらりと変わった。
「あれ……ここは?」
心地良い風が吹いている。風で足下の背の高い草が揺れており、くすぐったい。
上を見上げれば、雲一つない青空が広がっていた。
「ふあー気持ちいい」
風でふわりとスカートが広がる。
私は草原のど真ん中に立っていた。目の前に広がる草原に果てはなく、地平線が見える。
いつの間にか、私の右手にはあの箱の代わりに、大きな金属の鍵が収まっていた。
何処を開ける鍵なんだろうか。
ふと、気配を感じを背後に振り返ると、
「あれは……枯れ木?」
そこには小高い丘と、その頂上に大きな樹が生えていた。だけど、その大きな樹は枯れている。
私は、その枯れ木へと歩いて行く。
後ろを振り返ると、私の歩いてきた道が轍のようになっており、ちょっとした道が草原に出来ていた。
小高い丘の斜面を登ると、後ろにはなだらかな木製の階段が出来ている。
「なになに? ワクワクするっ!」
丘の頂上は広くなっており、真ん中にその枯れ木があった。近くで見れば、それはとても大きく、幹なんかはちょっとした一軒家よりも太い。
私の歩む道が石畳の道になり、私は枯れ木のすぐ下にまでたどり着いた。
風で私の髪がなびく。私は振り返ると、その景色に感動してしまった。
「綺麗……」
小高い丘から見えるのは一面の草原だった。草が揺れ、風が通り抜ける様子が見えて、それはどこか懐かしい光景。こんな場所、来たことないはずなのに。
私は再び枯れ木へと向いた。私の目線より少し下に、穴が空いている。
まるで、鍵穴のような……。
私は、右手の鍵をその穴へと差し込んだ。カチャリと言う音と共に、光が頭上から降り注ぐ。
「え?」
眩しくて、私は一瞬まぶたを閉じた。そして、それを再び開けた時。
目の前には、まるで妖精の住まいへの入り口のような可愛らしい木製の扉が出来上がっていた。
「っ!!」
私はドアノブを掴んで、ドアを開く。
「うわあ……素敵」
中は、家になっていた。明るい暖色でまとめられた壁や床に木の温もりが感じられる家具。
「ここ、使っていいってことかな?」
なぜだか分からないけど、私は、どこからか『いいよ』という声が聞こえたような気がした。
こうして、私は、箱庭という名のマイホームを手に入れた。
Verβランキング一位の特典はストーリークエストを進めると手に入る自分専用の拠点です。
生産スキルを使用する場所として使えるのですが、スタート時点で手に入れてもさほどメリットはない……と開発は思っていました。




