12話「アキコのそれから」
2020/03/21
田辺社長のセリフを加筆修正しました
世界が消え、気付けば私はデカデカと表示された【前々前世オンライン】のロゴマークの前に人の姿で立っていた。
いつもの恐竜パーカーにジーンズの姿。
目の前のウィンドウには素っ気ない文章が表示されている。
『前々前世オンラインverβを遊んでいただき誠にありがとうございました。皆様の御意見御指摘を元に現在正式版を鋭意開発中です。配信日につきましては近日中に発表したいと思っておりますので、今後も【前々前世オンライン】をよろしくお願いいたします』
「なんか、ランキング一位になれた喜びを感じる暇、なかった」
私の独り言がVR空間内で虚しく響いた。
「落ちますか……」
私は、VR機器の電源を切って、頭から外した。
目の前にはいつもの天井。
むくりと私は起き上がり、のそのそとキッチンにある冷蔵庫へと向かった。
「なんか……寂しいなあ」
あの何もかもが濃かった時間が、もう既に遙か昔の事に感じられた。何かで読んだけど、VRの出来事についての記憶は風化しやすいんだとか。
もう、多分あのゲームをする事はないだろう。春からは仕事が始まる。ゲームをする暇もないと思う。
冷蔵庫から麦茶を取り出し、グラスに注ぐ。
グラス半分ぐらいまでを一気飲みする。妙に喉が渇いていた。
その時、ベッド脇に置きっぱなしだった携帯デバイスが通知音を鳴らした。
私には、分かる。きっとあれは——
☆☆☆
「平野亜紀子です! 今日からよろしくお願いします!」
「へえ。なるほどなるほど、貴女が例の【アキコ】ちゃんね。意外にもちっこいし可愛いのね」
「意外、ですか? というかなぜ私の事を!?」
「貴女の事知らない社員はいないわよ」
春。私は無事内定を貰った会社へと初めて出勤した。
株式会社スピリアル。
女性向け情報をウェブで配信している会社で——【前々前世オンラインVerβ】を配信した会社だった。
社員数名の小さな会社だったが、売り上げは伸びているし業績も安定している。
なぜ、ここに内定出来たかと言うと、全ては鈴木さんのおかげだった。
彼が口添えしてくれたのだ。おかげで、すんなりと就職は決まった。
私は会社に出勤してきて、早速社長である、田辺宏美さんに呼ばれ応接間として使われているソファへと座った。
「貴女のおかげで、【前々前世オンラインverβ】は大盛り上がり。改めてお礼を言わせてもらうわ」
「あ、いえ! たまたまというか!」
田辺社長は、何かこう相手を安心させるような空気を纏っている女性で、年齢は40代前半ぐらいだろうか? 左手をこっそり見ると、薬指に指輪がしてあったので、多分既婚済。
「このゲームね、本当は別会社が作っていたのよ」
「別会社? この会社で作ってるんじゃないんですか?」
「ゲームを、特にVRMMOみたいな大規模な物を開発運営するのはたくさんの技術と労力が必要なのよ。うちみたいな弱小企業じゃ、とてもじゃないけど出来ない。だから、制作運営は別会社に依頼してたの」
宣伝、販売は、この会社。ゲームの開発運営は別会社。そうやって分業していたらしい。
「最初は、本当に占いだけだったの。前世の姿のイラストを依頼して、あとはオンラインショッピングとかに誘導。関連企業や商品の広告を入れて……って感じのよくある占いゲームアプリ」
「あーそういえば、そっちは実はちゃんとやってなくて……すみません」
「別にいいのよ。結果オーライだから。まあとにかく、そんな感じで当初で開発しようとしたんだけど……これがポシャった。もう、宣伝も打ってるのに、今更配信できませんとは行かなくてね」
依頼していた会社が潰れたらしい。昨今よくあるんだとか。
「困り果てて、色んな人にお願いしたんだけど、どこも時間に余裕がないのを理由に断られてね。その時に助けてくれたのが鈴木ちゃんなのよ」
「え、あの鈴木さんですか?」
「そう。彼の会社も小さいながらも尖ったゲームを制作する会社で、この業界では有名なのよ?」
「不勉強ですみません」
どうやら、鈴木さん、ゲーム会社の社長だったみたいだ。やばい、私まあまあ失礼な事言ってた気がする!
「彼の会社は逆に、パブリッシャーつまり制作依頼元ね、からいきなり開発中止と言われてね。もう完成間近ってところで、それを言われたからたまったもんじゃないでしょうね。なんせ開発費用は億を超えるから」
「億ですか!?」
「だから、彼の作ったゲームに私の占いアプリのガワを被せて、なんとか形になったのが……【前々前世オンラインverβ】よ」
なるほど。なんで占いゲームなのにあんなサバイバルモードが付いてるいるんだろうと疑問に思っていたけど。
「はっきり言って、間に合わせの歪なゲームで、当初はとても反響が悪かった。ところが、とあるプレイヤーの動画がSNSで配信されて……一気に知名度が上がり、ダウンロード数、アクティブユーザーの数が跳ね上がった」
「それって」
「そう、スピノサウルスの姿でPC,NPC問わず薙ぎ倒していった【アキコ】というプレイヤー」
「あはは……いやあお恥ずかしい」
「おかげで、とても良いデータが取れたし、何より正式版の開発運営費が出た。まあ、占い要素はほぼなくなったから、今うちは鈴木さんとこに名前を貸してるだけね。まあだから、就活で困っている貴女をうちに入れた。狙いはもう一個あるんだけど」
「狙い……ですか?」
どうやら、あのゲームで活躍したおかげで、就職が決まった。
そんな事ってある?
そしてもう一つの狙い?
「基本的には、午前午後のどちらかは事務作業をしてもらうつもりなんだけど、それ以外の時は——【前々前世オンライン】のプレイヤーをしてもらうわ」
「——はい?」
どうやら私の【前々前世オンライン】は、まだまだ続くようだ。
というわけで、Verβ編完!
本当は短編としてここに終わる予定だったのですが……続きを望む声が多いようなので、
【前々前世オンライン】正式版編も現在連載中!
正式版はゲームシステムや新しい要素満載で更にパワーアップさせるのでよろしくお願いします!




