再起をかけて
その日は、突然やってきた。
「まっ、まさか……そんな……」
俺とアマンダ、そして仲間たちの目の前で燃え盛る縫製工場。
…… 燃えている。
俺の、精魂を注いだミシンが。
皆で作った、たくさんの衣服が。……
「ぅわぁぁぁぁぁあっ!!」
俺は拳で地面を叩いた。
皮膚がやぶけ、血がにじむ。
それでも、痛みはまだ足りない。
自分を罰するのを、やめられない。
(道場破りなんてしなければ良かったんだ……!)
そう。
スキル至上主義との闘いと、ミシン開発の憂さ晴らしを兼ねて行っていた道場破りのおかげで、各所の師範や弟子たちからの反発は、いつの間にか積み上がっていたのである。
彼らは結託し、HLFの縫製工場に焼き討ちをかけた。
(俺のせいだ……!)
…… もう、アイデアは出し尽くした。
貯えも、ほとんどない。
仲間たちに合わせる顔など ……
その晩、俺はこっそり仲間たちの元を離れた。
※※※※
「右や左のだんなさまー……」
道端のムシロの上に俺は正座し、道行く人に声をかける。
「あわれな乞食におめぐみを……」
ちゃりーん。
おっ。
気前の良い人だな。
……スキル 『おもらい』 の効果もあるんだろうが、それは認めたくない。
「おありがとうごぜえます」
頭を下げて銀貨を懐に入れ、今日はこの辺にしとこう、と立ち上がる。
……俺は、かつて6歳の時に教会のオーブで告げられた職業 『乞食』 になった。
もう、アンチをくらうことはない。
職業とスキルに従順な者には、人は普通に優しいのだ。
何も考える必要のない、穏やかな日々が過ぎていく。……
(皆、どうしてるかな)
おれのことを 『先生』 と呼んで慕ってくれた仲間たちも、今頃はそれぞれの職業について安寧を貪っていることだろう。
――― この世界ではどこまでも、『スキル』 と 『職業』 が支配しているのだから。―――
不意に気配を感じ、俺は警戒しつつ振り返った。
「先生」 そこにあったのは、アマンダの昔と変わらぬ笑顔。
「探しましたよ!」
「……人違いですよ、お嬢さん」
「やだ、冗談ヘタっすね、先生ったら!」
ケタケタと笑いつつ、バシバシと肩を叩いてくる。……変わらんな、こいつは。
ひとしきり笑い終わると、彼女は朗らかに言った。
「先生! 次は 『魔法』 にしましょう!」