三度目の正直
――― ミシン。意外と、日本語。
『sewing machine』 がなまって 『ミシン』 になったといわれている。
つまり、昔の日本人にとって 『機械』 といえばこれだったわけだ。 ―――
「ふっふっふっ……」
7年の歳月の後、俺はついに、会心の哄笑をあげた。
いくら前世の記憶があるとはいえ、作り方を知らないものは、イチから創るしかない。
ネジ作りから始めて、試作品を完成させるのに3年かかった。
その後、満足できる性能に仕上げるまでに、これだけの時間が必要だったわけだ。
時々、憂さ晴らしに道場破りなどすることはあったが、基本は無職・無収入である。
これまでの成功で溜め込んだ金も、底をついてしまった。
しかし!
「『足踏みミシン』 ここに爆・誕……っ!」
これで 『仕立屋』 の職業スキルなど無くても簡単に縫い物ができるようになったのだ!
俺たちHLFはミシンを使って、安価な服を大量生産した。
スキル至上主義の弊害で、この世界の服の構造は単純なものであり、スキル無しの俺たちでも簡単にトレースできたのだ。
そこに、前世の知識を加え、実用的ながら斬新なデザインの服を作り出していった。
―――ファッション時代の幕開けである。―――
着たきり雀だった庶民も、オシャレを楽しめるようになった。
職業としての仕立屋は数が少なく、大体は貴族のお抱えであるため、衝突もない。
――― そのうち、ミシン自体を安く作れるようになったら、それを世に広めよう。
家庭でもスキル関係なく簡単に服を作れるようになれば、きっと皆、スキル至上主義の悪夢から目覚めるに違いない。―――
こうして、全てが順風満帆…… に、見えた。
が。
俺たちHLFは、ヘイトを溜め込みすぎていたのだ。