定番で改革
炭焼きで成功したなら、次は料理だ。
俺は単純に、そう決めた。
同じモノにこだわる必要は、全くない。
むしろ、各分野に喧嘩を売って、スキル至上主義がどれほどツマラナイことかを示してやりたい。
スキル至上主義は明らかに、この世界の発展を蝕んでいるのだから。
「「「「先生……これ何すかぁ?」」」」
仲間たちが気味悪そうに覗くボウルの中身は、卵の黄身とレモン汁、オリーブ油、酢、そして少量の塩とハーブの混合物…… すなわち。
「まぁ、くってみろ」
「「……!」」 「「う……!」」 「うめぇっす!!」
マヨネーズ、である。
さらに。
「「「「先生……こ、これは……っ!?」」」」
「まぁ、くってみろ」
「「……!」」 「「う……!」」 「うめぇぇぇぇ!!」
味噌と、その上澄みから作り出した、醤油の原型、とでもいうべきもの。
最初に 「なんすかソレ!?」 と気持ち悪そうに聞かれつつ麹作りから始め、完成までに実に1年近くがかかったが、やはり、この味は何にも変えがたい。
ちなみに、味噌と醤油を完成させるまでの間に、前世の記憶と知識を頼りに、 『料理革命』 とでも呼ぶべき数々の発明も、行っている。
海から昆布に似た海藻をとってきてダシにしたり。
肉を保存のきくソーセージやハムに加工してみたり。
冬の寒波を利用した氷室を建て、熟成肉だって作ってやった。
(これは瞬く間に貴族御用達となった。)
そして、この度の味噌と醤油の発明である。
「先生……っ!」 「うめぇっす……!」 「天才す……っ!」
「「「「「一生ついていきます……っ!」」」」」
こうして俺と仲間たちは、稀代の名料理人となった。
レストランは毎日大儲けである。
弟子になりたい、とやってくる料理人も後を絶たない…… が。
「え……」 スキルなし、と聞くと、誰もが引き、侮蔑の眼差しを投げ掛けた。
「どんなズルをした?」 と尋ねられ、ひどいときには 「詐欺師」 と罵られる。
スキル至上主義の闇は、深い。
結局、誰1人として弟子にはならなかった。
それどころか、 『料理スキル』 持ちたちはこぞって、俺と仲間の悪口を言うようになった。
……しかし、 『インチキ』 と言われたところで料理の味が落ちるワケはもちろん無く、HLFの料理店は相変わらず大盛況だった。……
放火されて、全て焼け落ちるまでは。
…… またしても、か。 ……
呆然と佇む俺の肩を、ぽん、と叩く者がいた。アマンダだ。
彼女はニヤリと笑って、こう聞いてきたのだった。
「先生。次は、何にする?」