スキルに勝とう!
「「「先生……」」」 「「リック先生……」」
時折かけられる、悲痛さを含んだ声と、荒い息遣い。
「もうすぐだ……!」 答える俺の息も乱れがちだ。
武術系スキルゼロをカバーすべく、いくら鍛えていても、それと山登りとはまた、別であるらしい。
……次からは登山マラソンも訓練メニューに加えるかな……
「「「「なんだって、炭焼き小屋なんかに、行くんですかぁ?」」」」
炭焼き小屋に行く目的。
そんなのは。
「炭を作るために決まっているだろう!」
そして、売る。
完璧な金儲けプランだ!
「「「俺たちの中に 『炭焼き職人』 はいませんよ?」」」
「HLFの理念はなんだ」
「「「「……なんでしたっけ」」」」
「………………」 仲間たちのリアクションに、膝が折れそうになった。
団の名を発表した時に言ったのに!
どうやらこの世界では耳新しすぎて、脳ミソが受付けなかったらしい。
「『創意工夫と知識の伝達でスキルに勝つぞ!』 だ!」
こうして、やっと炭焼き小屋にたどり着いた俺たちは、まず程よい木を集めることから始めた。
炭焼きは 『創意と工夫』 というより実は 『経験と技術』 が大切になる過程である。
ならば、『炭焼き』 のスキル持ちしかできないか……というと、そうではない。
この世界の人々が 『スキル持ちしかできない』 と信じて、知識のデータ化と共有、それに訓練を怠っているが故に、できないのである。
しかし俺には、前世に格闘修行で山籠りした経験から、炭焼きのノウハウが蓄積されているのだ!
「よし、ここからが大事だ!」
俺は仲間たちに丁寧に技術指導を行う。
「これから炭を煙の中で仕上げる段階に入る。短すぎると臭い炭ができる。長過ぎると灰になる。
こればっかりは慣れがなければ難しいこともあるが……まず今回は、俺のやり方を見てもらおう」
見て覚え、やって慣れる。
努力すれば、スキルなどなくても技術と経験は積めるのだ!
そうしてできた俺たちの炭は、なんと、商人の 『鑑定』 スキルで……
「レ、レアリティぃぃぃ……っ!?」
とのけぞられる結果となった。
『レアリティ』
最高品質の更に上を行く、 『超最高品質』 だ。
燃えは良いが長持ちし、良質の炭に特有の芳しい香りがする。
最初の木材選びからこだわり抜いた結果である。
俺たちは一気に、炭焼き名人集団になった。
HLF製の炭、というだけで高値で取引される。
実質、貴族御用達だ。
ぼ ろ 儲 け だ ぜ !
宴会を開き、皆で分けあっても余るくらいの金が手に入った。
……しかし、世の中、順風満帆とはいかない。
既存の 『スキル持ち』 炭焼き職人集団からアンチをくらったのである。
彼らは懸命にHLFの悪口を言って回ったようだが、あまり効果は無かったようだ。
実際に俺らの焼いた炭に 『レアリティ』 がつけられる以上、当然のことである。
すると、彼らは強硬手段に出た。
ある日、いつものように炭を焼きに山に登ると。
「「「あああああ……ッ!?」」」
そこには、無惨に壊された炭焼き小屋があった。
仕方がない。
「どうするよ!? 先生!」 必死の形相のアマンダに、俺はニヤリと笑ってみせたのだった。
「よっしゃ、次、いくか!」