せちがらい世の中
こうして冒険者ギルドに登録したものの、俺にはほとんど仕事が来なかった。
子供の俺は知らなかったのだが、パーティーを組んで冒険の旅に出る、などということは物語の中だけであるらしい。
現実には、やってくる依頼 ――― 薬草集めや、郊外の畑を荒らす魔獣退治など ――― を請け負うのが、冒険者の主な仕事、だったりする。
そして、それらの依頼にはたいてい、こんな縛りがあった。
『武術系スキルレベル◯◯以上』
……これでは、スキルゼロの俺には……
……仕事なんか、来るはずがないな……
ゲームやファンタジーっぽい世界のくせに、せちがらい世の中である。
そんなわけで、12歳までに俺が受けた依頼は片手で数えられるほどしか、ない。
迷子探しとか、子守りとかな……!
けれども悪いことばかりではなかった。
『武術系スキルを持たずに冒険者ギルドに登録している子供』 の噂が広まったおかげで、俺と同じく、役立つスキルを持たない外れ者の連中と仲間になったからだ。
彼らに 『スキルゼロでも勝てる方法』 を伝授するうち、俺は 『先生』 と呼ばれるようになった。
俺を苛めていた悪童どもも、もう俺には敵わない。
俺と仲間が道を歩いていると、こそこそと避けて挨拶をするようになった。
なにしろ俺も仲間も、その辺に転がってる武術系スキル持ちの大人よりはよほど、強いのだからな。
そんなある日、一番弟子のアマンダがこう言い出した。
「先生、そろそろ、あたしらの団に名前つけましょうよ」
「ふむ……」
確かに、もう 『団』 と言っていいほどに人数は膨れている。
中には、鍛冶や陶芸など、それなりに役立つスキルと職業を与えられているヤツもいた。
ちなみにアマンダのスキルは 『地図職人』 である。
…… スキルも職業も、くそくらえ。
皆、自由に生きたいんだ! ……
「人間解放戦線、略してHLFにしよう」
前世の記憶を探って、それらしい名をつけてみる。
「意味よくわかんないけど、なんかカッコいいね! 先生!」 アマンダは目を輝かせた。
「早速、皆を集めて、HLFの発表と、命名を祝う宴会をしましょっ!」
「発表はともかく……宴会は無理だな」
「ええええっ! そんな……っ!」
ショックによろめくアマンダに、俺は事実を教えてやるしか、なかった。
「金がない」
……まことに、なんとも、せちがらい世の中なのである。