冒険者になりたい。
たとえ、この世の人間の全てが神の意思を絶対としようとも、前世の記憶が残る俺には、受け入れ難い職業。
それが、乞食。
職業に貴賤はないとしても、そもそも乞食は職業なのか?
俺の疑問の根っこを折るのが、近所の悪童どもの心ない、だが素直な揶揄である。
「やーいやーい乞食ー!」
「スキルなしー!!」
くそう! スキルならあるぞ。
唾棄したいようなスキルではあるが、『なし』 と言われるのも悔しい。
いっちょ試してやるか!
俺はひざまずき、『おもらい』 のポーズをとった。
「右や左のだんなさまー、あわれな乞食におめぐみを!」
恥ずかしいな。
悪童どもも蔑んだ笑みを浮かべて……あれ?
「じゃあ……飴あげる」 「おれも」 「干し肉やるよ」
あっという間に、俺のポケットは食べ物でいっぱいになった。
……使えるな、このスキル。
飢える心配が無い点では、最強かもしれん。
そうだ!
この点を冒険者ギルドでアピールすれば、憧れの冒険者になれるぞ!
何しろ飽食気味だった前世日本と違い、この世界では食べ物は貴重なんだからな!
明日は早速、ギルドに登録に行ってみよう。
※※※※
「で……スキルは……? はぁ……!?」 冒険者ギルドの受付嬢は、俺のスキル 『おもらい』 を聞くと、冷たい瞳で言い放った。
「ふざけているんですか?」
「まさか!」 俺は必死で食い下がる。
「『おもらい』 はスキルレベル20で 『一宿一飯』、30で 『いつでもおいで』 、50で 『食客』 にスキルチェンジするんですよ!
食うに困らない、最強スキルです。きっと冒険にも使えます!」
「それは街中の話でしょう」 受付嬢のクールなタメイキ。
「野外ではどうするんですか? まさか、魔獣相手に 『おもらい』 ? ……あっという間に、死にますよ?」
はーい、行った行った、とばかりに振られる彼女の手を、俺は、がっし、と掴まえた。
「せめて試験だけでも!」
「……死にますよ?」
「大丈夫です!」
試験、というのはギルドの先輩による武術試験である。
負けても見所あり、と判定されれば登録してもらえる。
俺が請け合ったのは、ヤケになったのでもアタマが沸いたのでもない。
――― 実はこれまで、近所の悪童どもに武術系スキルがないのをバカにされ、 「練習台だー!」 と攻撃を受けているうちに、見えてきたことがあったのだ。
それを実証しようと、俺はこれまで、スキルがなくても上げられる、反射神経と素早さを鍛えまくってきた。
俺の読みが正しければ、きっと、スキル持ちにだって勝ち目はあるはずだ。―――