超ショートショート『童話集の音色』No111
私はとなり街にある、お城のように大きな図書館に来ていた。
少し詳しく調べたいものがあったのだ。
だが、広すぎる図書館からひとつの本を探し出すのは、失くしたパズルのピースを見つけるくらいむずかしい。
私は早々に中断して、もうひとつの目的だった館内の探検を始めた。
探検中にいろいろな本を見つけて、私の両手は早くも使用困難になっていた。
階段をのぼり、図書館のつきあたりまで進むと、きっと腕をいっぱいに広げても両の窓枠に触れられないだろうというほどの窓。
そして、やや傾いた太陽の光を浴びた黒々としたピアノがあった。
私は窓枠に本の山を置くと、じっくり思案を始める。
...ピアノは弾けないけど、あると触りたくなる。
でも図書館で鳴らしたら怒られるだろうか?
いや、こんな所に置いてあるってことは弾いてほしいってことだろう...多分。
私はそう結論づけると、新雪をふむ時のような心地いい緊張を感じながら、人指し指で鍵盤を押した。
「あれ?」
音が鳴らない...壊れてるのだろうか?
ほかの鍵にも触ってみたが、音の鳴る様子はない。
あちこちぺたぺた触っていると、ピアノの譜面を置くところに、長方形のくぼみがあるのに気づいた。
これはなんだろうか?
名刺よりはずっと大きくて、菓子箱ほどの厚さはない。
こんなもの、普段よく見ているような...
私はふとした思いつきで、先程からの探検で手に入れていた童話集の山からひとつを取りだし、穴にはめ込む。
すると、思い通りピッタリとはまる。
そして、なんとピアノはひとりでに演奏を始めたのだった。
図書館中に、古めかしくも懐かしい。少し不気味なのだけれど温か。そしてなによりとても優しい。
そんなメロディが流れる。
きっと、本の心を読み取るピアノなのだろう。
私は無意識に笑みをこぼしていた。
また来よう。今度はもっといろいろな本を持ってきて。
五分程の演奏が終わると、私はピアノに盛大な拍手を送った。
ただ、それを聞いた誰かが咳払いしたのが聞こえたので、小声で「すみませーん...」と言っておいた。