表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鈴ノ宮恋愛奇譚  作者: 麻竹
第一章【きっかけ】
7/69

07

がやがやと騒がしい相変わらずなこの場所。

正門をくぐると、朝の挨拶を交わし合う生徒達の姿が視界に入ってくる。

兇はいつものように熱い視線を受け流しながら登校していると、背後から勢い良く背中を叩かれた。


「よっ!昨日はどうだった?」


反動でよろめきながら振り返ると、にやにやと意味ありげに笑う光一と目が合った。


「別に」


―――ここで捕まったら終わりだ。


危険だと本能が告げるままに、相手にしないよう素っ気なく言うと、そのまま何事も無かったかのように歩き出す。


「お~~い、おいおいおいおいおい!!つれねえじゃねぇかよ~~~!」


―――叫ぶな!


内心焦りながらも、周囲の視線を気にせず絡み付いてくる光一を引き剥がし睨みつけてやる。

しかし、その程度で怯む相手ではなく、逆に喰らいついて来るのがこの男 ―― 光一だ。

聞かせろと言わんばかりに、あろうことか今度は首に絡み付いてきた。


「な~な~な~、昨日あんだけ俺が気ぃ使ってやったんだからあの後どうなったのか位教えろよ!」


好奇の視線の中、ふと昨日のことを思い返す。

光一の昨日というと、あの遊園地の一件の事だろう。

何やら自分と北斗のことを二人きりにさせようと気を遣ってくれていたのはありがたかったが、ここであの後の出来事――北斗と一緒にご飯を食べに行った――を説明してやる義理も無い。

というかしたくない。

なんせ光一は、以前から北斗達と何度か外食したり出かけたりしていたというのだ。

別に光一が悪いという訳では無い・・・無いのだが、何だか面白くないので言いたくなかった。

胸中でそんな事を思いながら、兇が眉間にこれでもかと言うほど皺を寄せて返答に困っていると、突然光一が「あっ」と小さく声を上げ首に絡めていた腕をほどいた。

なんだ?と内心首を傾げながら光一の視線の先を辿る。

その途端、兇の顔が青褪める。

光一が兇から離れるより早く、今度は兇が光一の首に腕を絡める結果となった。

光一の視線の先―――その先には彼女がいた。

いや、正確には彼女とその友達もいたのだが、今の兇にはそれを確認している余裕は無かった。


「な~んの真似かな~?きょ う く ん」


羽交い絞めにされているにも関わらず光一の声は楽しそうだ。

その理由をよ~く理解している兇は、光一を押さえつけながら低い声で唸った。


「いいからやめろ」


「なにを?」


実に楽しそうに返してくる悪友に、今度はこめかみに青筋を立てながら唸る。


「余計なことすんな!」


「え~いいじゃん、聞くだけだし」


唇を尖らせ抗議するがその瞳は笑っていた。

兇の空気が不穏なものに変わる寸前、光一は降参のポーズを取る。


「あ~わかったわかった。冗談だってば、そうムキになるなよ」


光一の言葉に多少警戒しながらも力を緩めると、光一はするりと兇から離れた。


「な~~んてね♪」


言うが早いか、光一は彼女めがけて走って行ってしまった。

突然の行動に兇が呆気に取られている間、光一は北斗の隣にいる若菜の肩を叩いて気づかせ一言二言交わす。

そのすぐ後に北斗が振り返り、兇に向かって「おはよう」と言いながら手を上げ満面の笑顔でこちらを見ていた。


―――やられた


光一の悪戯にあっけなく引っかかってしまった自分に舌打ちする。

しかし、一瞬迷ったが足早に彼女の隣に並ぶと、うっすらと頬を染めながら笑顔で挨拶を交わし、そのまま4人で仲良く教室まで歩いて行ったのだった。









朝のささやかなハプニングから時は経ち――今は下校時刻を過ぎた頃。

兇は足早に正門を抜け、目当ての人物に声をかけていた。


「今帰り?」


天使の微笑と共に彼女の肩に手を置く。

声をかけられた人物は振り向くや否や、大きな目を更に大きく見開いて「え、鈴宮君?」と首を傾げてきた。


「珍しいね、こんな時間に帰るなんて」


「うん。ちょっと用があってね。帰るのが遅くなったんだ」


彼女――那々瀬 北斗――の言葉に、兇は苦笑しながら曖昧に答える。

北斗の驚くのは無理もない。

この時間、校内にいるのは部活で遅くなった生徒だけである。


しかし、兇は部活に入ってはいなかった。

北斗はもちろん部活に入っており、強いて言えば放送部に所属している。

しかも、今日は週番で下校放送をした帰りでもあった為、辺りはすっかり暗くなっていた。

学校内で一番帰りが遅いはずなのに、何故ここに兇が居合わせているのかと、北斗は最初不思議そうな顔をしていたが、兇の「用があった」という言葉を素直に信じ、にこりと笑うとこの前のようにまた他愛無い話をしはじめ歩き出した。


そんな北斗を見て兇は内心胸を撫で下ろしほっとする。

実は昨日から兇はある計画を考えていたのだ。

その計画を実行するべく、この危険な学校内に身を潜め北斗が帰るのをじっと待っていたのだった。

学校内でなぜ危険が?とお思いだろうが、この男――鈴宮 兇――に限っては学校ほど恐ろしいものは無かった。


否、学校の女子達と言った方が正しいだろう。


光加減で白銀ともとれる薄い色素の髪と、金にも琥珀にも見える瞳を持つ変わった容姿の彼は、周囲の興味を引くには十分であり、しかも美形ときている。

微笑んだときに頬に影を落とす長いまつげに、すっと通った鼻筋、薄紅色の薄い唇、顎のラインはシャープな輪郭を描き、それに続く首筋は繊細で艶かしい色気を放っているほどだ。

容姿端麗、眉目秀麗、冷静沈着、天使の微笑など、あらゆる賛美の代名詞で形容される彼はどこにいても目立つ。


その彼が放課後、校内でうろうろしていようものなら学校中の女の子達がこぞって押し寄せてくる事だろう。

いつもはそうならない為に放課後は大急ぎで帰っていた。

しかし今回彼は計画のために帰るフリをして裏門から学校内に戻り、誰にも見つからないように視聴覚室に身を潜めていたのだった。


もちろん、北斗が放送部の週番というのを知った上での行動だ。

さらに付け加えれば、視聴覚室の窓から北斗が正門を出て歩いて帰って行く姿を見つけ、慌てて走って来たというのがつい先ほどのことである。

全力で走って来たにも関わらず、呼吸が乱れるどころか汗一つ掻くこともなく爽やかな笑顔で北斗の隣を歩いている兇の姿は、ここまでの経緯を知る者が見れば、恐怖に顔が引きつっていたことであろう。


あるいはその逆か・・・・


しかし、幸か不幸かそれを知る者がいた。

遠く離れた校舎の窓に、仲良く帰っていく二人の姿をじっと見つめる人影があった。









「んっふっふっふ~~~~~♪俺から逃げられると思うなよ、兇」


既に誰もいなくなった教室に男の声が響く。


「そういうアンタはここで何してんの・・・」


双眼鏡を覗き込み、楽しそうに笑っていた男の横から突然、女の呆れた声が聞こえてきた。


「うわっ!!」


男は、いきなり聞こえてきた声に驚いたかと思うと、現れた女の姿を見るやいきなり狼狽えだした。


「わ、若菜!?な、なんでお前がいるんだよ!」


「あんたがコソコソ怪しいコトしてるからでしょ~~!」


若菜と呼ばれた女は、ギロリと双眼鏡の男を睨みつける。


「い、いやぁ~~。初々しいあの二人が気になってさ~~。い、いや、俺は邪魔する気は無いぜ!無いけどほら、俺と兇は親友じゃんか、なんかこうあいつの為に何かしてやろうと思ってだな・・・」


「それがこの覗き?変態!」


「なっ!変態とは何だ、変態とは~!俺がこうやって温かく見守ってやろうと・・・」


「それが大きなお世話だって言うのよ!だいたい鈴宮君と北斗の問題なんだからね!アンタが出しゃばると問題が増えるだけなんだから。解ってるの光一?」


自分の言い訳に間髪入れず突っ込み返す若菜に、光一と呼ばれた男は「うっ」と呻くとそのまま押し黙ってしまった。


「だいたい昨日の遊園地の事だって、あの二人を無理やりくっつけようとするし・・・」


「なっ、あ、あれは良かれと思って・・・」


「良くない!!」


「あれのお陰で、北斗と鈴宮君が噂になってるのよ!昨日の今日だって言うのに、もう何人か北斗のこと調べに来た子もいるんだから。北斗に何かあったらどうしてくれるのよ!」


若菜の言葉にさすがの光一も何も言えなくなってしまった。

遊園地の一件がもう噂になっていたことには光一も驚いた。

さすがと言うかなんと言うか・・・

昨日、クラスの女子達も数人誘って兇を遊園地に連れて行ったのは光一本人だ。

目的は先ほど若菜が言った通り”兇と北斗をくっつける”事が目的だった。

常に女の子からマークされている兇が特定の女の子と二人きりでデート、というのはマズイと思ったので他の女の子達も誘ったのだ。

その中に若菜を入れたのは、その親友である北斗を誘う為でもあった。

カモフラージュもバッチリ♪これで自然にあの二人をくっつけられる!とあの時は心底喜んだのに・・・。

まさかこんなにも早く噂が広まるなんて・・・・大誤算だった。


―――欲張るんじゃなかった・・・。


自分の迂闊さに落胆し盛大に溜息を吐く。

ちょっと、いや結構 ”この機会に他の女の子達とも仲良くなれればイイなぁ~、自分が!” とか思ってしまったのがいけなかった様だ。


―――ホントすまん。


心の中で兇に謝っておいた。


「まあ、反省しているようだからもう良いけど、でもちゃんとフォローしておいてよね?」


光一の心中を読み取ったのか、若菜が溜息混じりに釘を刺す。


「わ~かってるよ!ちゃんとやっとくって!」


若菜の言葉に光一は返事をすると、力なく手を振り教室を出て行ってしまった。


「まったく、ホントにわかってるんだか?」


光一の出て行った教室の扉を見つめながら若菜は長い溜息を零す。


「何も起きなければいいんだけど」


既に誰もいなくなった門の向こうを見つめながら、親友の安否を気遣いひとり呟くのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ