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鈴ノ宮恋愛奇譚  作者: 麻竹
第一章【きっかけ】
1/69

01

容姿端麗、冷静沈着、学校内では人気NO.1の鈴宮 兇。

彼がひょんな場所で出会ったのはクラスメートの那々瀬 北斗だった。

しかし北斗は・・・・。


霊感少年と平凡な少女との涙と感動のホラーラブコメディー・・・・かも!?

行き交う人々。


その人物はいつもの様に雑多な街中を、人々の間を縫うように歩いていく。


いつもと違う場所。


ひんやりと冷たい無機質な手摺りに手を付きながら、恐る恐る階段を下りていく。

折り返しの途中で手すりに掴まりながら下を覗くと、薄暗い廊下が見えた。

そして、更に奥を覗くと昼間にも関わらず真っ暗な闇が広がっていた。

ごくり、と思わず喉を鳴らす。


「な、なんでこんな所で授業やんなきゃならないのよ~」


その人物は今にも泣きそうな声で呟くのであった。




コツーン  コツーン

辺りに響くのは自分の足音だけ。

手に持った懐中電灯で前を照らすが辺りに人の気配は無い。

地下であるそこは、昼間だというのに日も当たらず真っ暗で、しかも電気も点いていなかった。

頭上からは、部活動に勤しむ生徒達のかけ声や笑い声などが聞こえてくる。

陰と陽

まるでその境界線に立っているようだとぼんやりと思いながら、その人物は徐に前へと進みだした。

向かう場所は、旧校舎の地下にある特別教室である。

しかもここは何年も前に閉鎖されており、生徒はおろか先生までもほとんど立ち寄ることが無い忘れられた場所だった。


「しっかし、先生も何考えてるんだか・・・・こんな所で授業やるなよ」


色素の薄い髪と瞳を持つ青年は、嘆息しながら愚痴る。

しかも休日、日曜日の昼間から『恐怖のお化け体験授業』と称して我が担任は可愛い生徒達とこんな所で授業しようとするのだからその神経を疑ってしまう。

そして、それに疑問を浮かべず生徒達も「面白そう」という理由だけでその話に乗ったのだ。


――何考えてるんだか・・・・・


呆れてものが言えないとはこういう事を言うのだろう、馬鹿馬鹿し過ぎてサボろうとしていたのだが、つい来てしまった。

ここが曰く付きの場所だと言うのも来た理由の一つなのだが・・・・。

昔からこういう場所には噂が絶えない。

『幽霊騒ぎ』や『自殺の名所』など噂は様々ある。

しかし、それが噂だけならまだいいのだが・・・・残念な事に噂だけではないのだ、ここは。

目の前を通り過ぎたモノに視線を送りながら、また溜息を吐くのだった。




しくしくしくしく・・・・・

もうかれこれ30分程そこで座り込み泣いている人影があった。

ぼんやりと浮かぶその輪郭は、この場所では更に不気味で恐怖を引き立てる。

辺りには誰の気配も無く、ただ暗い廊下と壁に沿って並ぶ真っ暗な教室が見えるだけだった。

泣いている人物は、ふと気配を感じて顔を上げると、遠くの方に人影を見つけた。

目を凝らして見ると、数人の人影が何やら忙しなく動いていた。

どうやら片付けをしている生徒達のようだ。


―――よかった~人がいたよ~~


嬉しさのあまり顔がふにゃっと崩れた。

しかし、その直後その人物は凍りついてしまった。


「て、手が・・・」


ガタガタと震えだし、目の前のモノに釘付けになる。

視線の向こうでは、先程見えた人影がこちらに向かって手招きしていた。

しかも、その手は薄っすらと透けて後ろにある壁が見えていた。


「ひっ」


思わず悲鳴を上げそうになったが、喉がかすれて声にならない。

そしてその人物は、また目に涙を浮かべてその場に座り込んでしまった。

その時――


声を殺して泣きじゃくるその人物の肩に、背後から音も無く手が置かれた。


「☆▲&◇%!■!!」


声にならない声をあげ、5メートルほど飛び退る。

ガタガタと震えながらも恐る恐る目を開けて見ると

そこには―――


懐中電灯を持った青年がポカンと口を開けたままその場に立ち尽くしていた。


「あ、あ、あ、あ・・・・・」


泣いていた人物は目の前の青年を見あげたまま、ぷるぷると震える指で相手を指差す。


「 ? 」


その様子を首を傾げながら見守る青年。


「うわ~~ん、人がいたよ~~~!!」


「のわぁっ!!」


泣いていた人物は突然現れた生身の人間に喜びの声を上げると、いきなり抱き付いてきた。

抱き付かれた方の青年はもちろん驚き、しかも抱きつかれた反動と驚きで奇妙な声を上げながら後ろによろめいてしまった。

しかしそこは男、小さな相手をしっかりと支えて踏み止まる。

そして、自分の服を濡らしながら泣きじゃくる相手を見下ろし、肩を落としながら溜息をついた青年は

ひとこと


「何やってんだ、こんな所で」


呆れた顔をしながら声をかけたのだった。






「それで、あそこで泣いてたわけだ」


「うん」


暗い廊下を懐中電灯の明かりを頼りに、歩く二人の人物がいた。

一人は色素の薄い髪と瞳の、すらりとした体格の長身の青年と。

もう一人は黒い髪に黒い瞳の、どこにでもいる風貌の小柄な少女だった。


「私ってホントこういうの駄目なんだよね~」


少女は溜息を零しながらそう呟く。

その意外な言葉に青年は思わず少女を見下ろした。

この少女―――実は自分が通う学校のクラスメートだ。

もちろん歳も青年と同じである。

しかしその低い身長のせいで実際の年齢よりも幼く見られてしまう事が多いらしく、実際隣を歩く少女は一見青年の妹のように見えた。

そしてこの少女は『元気だけが取り得』という、言わばどこにでもいる女の子なわけなのだが。


―――クラスで見た限りじゃ、こういうの怖いってイメージは無かったんだけどなぁ~。


ちらりと隣の少女を盗み見る。

少々男勝りな性格の彼女は、まだ何かぶつぶつと呟いていた。

元気が取り得なだけあって立ち直りも早い。


―――やっぱ、見えないなぁ・・・・


青年は心の中で呟くと苦笑した。


「でも、さっきは驚いちゃった、いっぱい人がいたかと思ったら、私のこと呼んでて……し、しかも手が透けてたんだよ!」


振り向きながらそう言ってくる少女の顔は心なしか青褪めていた。


「でも・・・・そんな事あるわけ無いか~やっぱ見間違いだよね~♪」


たはは、と後頭部を片手で押さえながら笑い飛ばした。

その少女の言葉に青年は……


「ああアレね、ただの自縛霊だよ」


と、とんでもない事をのたまったのだった。


「えっ」


その瞬間少女の顔が引き攣る。


「え? え? まさか鈴宮君て・・・・み、視えるの?」


「え、まあ多少は・・・・」


鈴宮と呼ばれた青年はしまった、という顔をしながらバツが悪そうに肩を竦めてみせた。


鈴宮(すずみや) (きょう) ―――それが彼の名前だった。


「えっ、那々瀬さんどうしたの?」


目の前の少女の異変に、思わずぎょっとする。

那々瀬と呼ばれた少女は、固まっていた表情を次第に崩していった。。

そしてついに、彼女 ―――那々瀬(ななせ) 北斗(ほくと)――― はぽろぽろと涙をこぼし出し・・・・・


「うそ!うそ~~!!いやぁぁぁぁっ!私祟られちゃうよぉぉぉぉぉぉぉ!!」


と、大絶叫するのだった。




彼 ―――兇は困り果てていた。

自分の不注意なのは分かっている、軽率だったとよ~~く反省している。

だからって・・・・


―――また座り込んで泣く事ないだろう・・・・・・。


目の前で再び座り込みシクシクと泣いている少女 ―――那々瀬 北斗――― を見て兇は頭を抱えてしまった。


「あ、あのさぁ~」


困り果てながらも、笑顔を作り北斗に話しかける。

それでも泣くのに忙しい北斗は耳を貸すどころか、こちらを見ようともしない。


「はぁ~・・・・」


兇は心底困ったという表情で、溜息を吐きながら肩を落とした。


「ここ出ようか」


「えっ」


兇の言葉にやっと彼女は顔を上げてくれた。

一瞬どきり、とする兇。

見上げた北斗の頬は涙で濡れ瞳は潤んでいた。

それは正真正銘の女の子な顔で……。

今まで見た事のない彼女を見てしまったような気がして、兇は体中に緊張が走るのを感じた。


―――か、可愛いかも・・・・・


口元を手で押さえ顔を逸らす ―――その頬は薄っすらと赤く染まっていた。


「で、でも授業は?」


「い、いいんじゃない?もう時間も過ぎちゃってるし」


幸か不幸か兇のそんな様子に気づかない北斗の言葉に、兇は内心安堵しながら肩を竦めてみせた。


「え?うわっもう20分も過ぎちゃってる!完全に遅刻だよこれ」


自分の腕時計を見て北斗は驚きの声を上げた。


「ご、ごめんね私のせいで」


「ん~、別に、ホントは今日サボろうと思ってたから」


「あっそう・・・・」


ジト目で自分を見る彼女を横目にくすりと笑う。


――良かった、いつものあの子だ


別段クラスでもあまり話す機会のなかった相手だったし、興味のない相手でもあったのだが、何故かこの時はいつもの彼女らしい振る舞いに嬉しくなった。


「それじゃ、行こうか?」


「あ、でも・・・」


手を差し伸べる兇に、北斗は座り込んだまま言い淀む。

その様子に彼女が何を気にしているのか気づいた兇は優しく諭すように北斗に向かって言った。


「どうせ生徒なんてほとんど来てないさ、授業って言ったってあの先生の道楽みたいなもんだから大丈夫だよ」


兇の言葉に北斗が驚いたように顔を上げる。

何でわかったの?と目をまん丸にして見上げて来る北斗を、兇は苦笑しながら手を取り立たせると出口に向かって歩き出した。


「ま、ここにいたいなら別だけど?」


後ろで佇む北斗に首だけ振り向いて聞いてみると、北斗はぶんぶんと激しく首を横に振り慌てて後を追いかけてきた。

その様子にくすりと気づかれないように笑うと、兇はそのまま出口へと向う。

そして二人は薄暗い階段を昇って上の階へと消えていったのだった。

他サイトで昔書いたまま途中だったものを修正したものです。

物語は完結しておりますので順に掲載していく予定です。

毎週木曜20時更新予定。

お茶請け程度にどうぞ!

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