Q.この聖剣が目に入らぬか A.入りません
大変お待たせいたしましたっ!この〇ば面白かったです!
俺がフィラ達に遅れて城下町に辿り着くと、そこではなんというかまぁ、過激な戦闘が行われていた。
城下町を荒らしていた魔物は、ギガースという巨人だ。その巨大さは今までであればかなりの脅威であったが、エレメントドラゴンを倒してからの新生【夜明けの剣】にとっては恐れるに足らない相手である。
「それ以上の狼藉は許しませんよっ! 竜翼ストームメテオ!」
真っ先に城下町へと突っ込んだフィラは、元素竜の風翼で強化されたサドゥンメテオを使って空中で荒ぶっていた。街を壊さないように注意はしているようだが、ギガースよりよっぽど脅威に見える。
「こっちは水刃河サーキュレイトアームっす! 背後から攻撃し放題とか、巨人族最高っすか!?」
ギガースがフィラの大雑把な攻撃に対処している間に、メイはギガースの影から忍び寄って防御しきれない場所を重点的に攻めていた。
その時に使われているのは、これも元素竜の翼を使用した防具だ。内側をエレメントドラゴンの生成した水が高速で循環しており、一部が露出している腕の装甲。
元素竜の水翼には水を引き寄せる性質があるため露出部分から水は零れず、相手に当てるだけで高速で走る水が相手を切り刻む。
そして手首と指の関節部分を普段は圧迫させているが、強く曲げればそれぞれのところから高圧の水が噴き出すようになっていた。腕を攻撃した武器すらも水で切り刻むそれは、防御と近接攻撃と遠隔攻撃を併せ持った万能防具と化している。
「こりゃ、またもレオナの出番はなさそうだな……」
一方的に蹂躙されるギガースを見て、俺は呆れながらも呟いた。
エレメントドラゴンの素材は限られているので、商品にせずそれぞれの属性をギルドの四人に渡している。風のフィラ、水のメイ、土のアネータ、そして火のレオナという具合だ。土の半分はレオナに渡してるけど。
それらの武器が予想以上に強かったために、彼女達は大抵の敵を単騎で屠れるようになってしまっていたのである。手伝う余地がねぇ。
今レオナは店から武器と医療用具を持って城下町の方へと向かってくれているが、彼女が着くころにはギガースがやられてそうだった。んで、レオナの出番がないという事は俺の出番はもっとないんだよねー……。
「あ。そこのおばあさん、それ以上先へ行くと危険ですよ。もし行くのであれば、こちらの随盾腕シールドアームをご覧になられては? 少しは安全に見学できると思いますよー」
「まぁ、ご丁寧にありがとねぇ」
戦っても活躍できないというかハンマーや爆撃の餌食になりそうだったので、俺は危険地帯に人を近づけないようにしつつも営業したりしていた。我ながらがめつい。
まぁこれが俺に出来る最大限さ、なんて思いながら黄昏ていたら、背後から唐突に声を掛けられた。
「よくない、よくないなぁ。老人を食い物にするなんて感心しないよ商人君」
「えっ。いや、別に食い物にしてたつもりはなかったですが……」
振り向くと、会った事もない青年が俺を見ながら首を振っていた。かなりの美青年であったが、切れ長の目は俺を見下すように細められている。
「悪人は皆そう言うのさ。ま、君がそう言うなら今はそういう事にしてやってもいいけどね」
イラッ。勝手に悪人と決めつけられたんだが、マジで何なんだこいつ……?
これまで会ってきた嫌な奴に比べればかなり穏やかなはずなのに、なんか表情と喋り方に人の神経を逆撫でする力がある。逆に凄い。
「ともかくお婆さん。こんな怪しい奴の売る商品など買わない方がいいですよ」
「あの、それは流石に営業妨害ですよ? もし商品の質に疑問がおありなら、今ご試用なされますか?」
「試用だって? はんっ、庶民の作った武器などに興味はないよ。僕は聖剣を持っているからね、普通の武器は玩具に見えてしまうのさ」
そこまで言われたところで、俺は目の前の男がどうしてここまで苛つくのか分かった。彼は本物の天然で、どんなに酷い事を言ってもそこに悪意がないのである。
挑発ですらなく、本気でこっちを馬鹿にしているのが分かる発言の数々。それがこいつにイラッと来る原因であった。
「聖剣……? 聖剣って何です?」
だが、武器の職人としては彼の言葉を無視することも出来なかった。俺が尋ねると、彼はまた悪ガキのように高慢な笑みを見せる。
「おや、君は聖剣も知らないのか? あぁ、君は商人は商人でも田舎者の商人なんだね。よかろう、ならば聖剣の力を見せてやろうじゃないか……そろそろ良い頃、だしね」
常に一言多いというなかなか難易度の高い芸当を見せつけられるが、突っ込んでいては話が進まないので黙って彼を見つめる。すると、彼の剣が唐突に強い光を発した。
「うわ、なんだこれっ!? ちょっ、そんな強い光を出さないでください! 空中に飛んでいるフィラの目に入ったら危ないですから!」
「ははは、これが聖剣の光だ! 恐れおのけぇぇぇぇっ!」
その剣は眼が開けない程の輝きを放ち、青年は聖剣を持ってる奴とは思えないような叫び声を上げる。その途端、ギガースが今まで以上に大きな悲鳴を響かせた。
「んなっ! あの光が本当に効いてるのか!?」
「いや、ちょっと違うっぽいにゃわんよ」
驚いていると、いきなり俺の体が揺れ動き、果ては少し高いところにまで投げ飛ばされる。
光が遠ざかったことでようやく目が開けるようになると、俺はいつの間にか一軒家の屋上にいた。驚愕しながら横を向いて、ようやく俺の体が急に吹っ飛んだ理由が分かる。
「レオナが俺を吹っ飛ばしたのか!? なんで……というかよくそんな芸当できたね!?」
「地上だとあの剣の光で何も見えなくなるから、ちょっと高いところまで連れてきたのにゃわん。でもって、最近は土を纏ったソイルインパクトで重量トレーニングしてるからにゃわん。ライアを持ちあげるなんてわけないにゃわん」
エレメントドラゴンを倒して以来、レオナは肥大巨星ソイルインパクトを剣のように振りかぶって腕を鍛えていた。
空にも届きそうな長い棒を何度も振る彼女の姿は、今や街の名物みたいになっている。ただ土を纏う量を少しずつ増やすことで重量調節している彼女は、ソイルインパクトの用途を勘違いしている気がした。トレーニング器具じゃないぞあれ?
「それは分かったけど、さっき言ってた違うっぽいってどういう意味だ?」
「あれにゃわん」
先ほどの発言の意図をレオナに聞くと、彼女は未だにピカピカ光っている地上を指さす。
高いところでレオナと二人並んでいるという状況で心が妙に踊っていたが、光の中に変なものを見つけてそんな感慨もすぐ失せた。
「何だ今の……。黒服? 忍者? 忍者だとしたら、ちょっとこの国って東洋に侵食されすぎてないか?」
「それは分からないにゃわんけど……。まぁ、あいつらの目的はちょっと察しがついちゃうにゃわんねぇ」
呆れたような彼女の声を聞いて嫌な予感を抱いていると、地上の光が唐突に掻き消えた。
後に残るのは倒れたギガースと、交戦していたフィラとメイ。そして聖剣を構えて堂々と立つ、青年の姿だった。
さっきまで光の中に見えていた黒い影の姿は、どこにもない。あーあ、展開読めちゃった。
「私は勇者ローレンツ・テイクン! 我が聖剣にて、巨人ギガースを討ち取ったぞおぉぉ!」
ギガースを倒して真っ先に声を張り上げたのは、聖剣(仮)を構える青年だ。
どうやら彼はあの光で目くらましして、黒い影が大人数で得た手柄を一人に集約させるつもりのようだ。勇者と名乗ったところを見るに、支持率や名声が目当てだろうか。
……いや、普通にフィラとメイの手柄なんだけどな?
もう一作の方が日間ランキングに入り少し忙しい状態ですが、なるべく明日も投稿したいと思います!
こちらが更新するまでの間もう一作の方を読むなどしていただければとても嬉しいですっ!




