新星団の現状4(三人称)
大変お待たせ致しました、第五章開始です!
まずは忘れ去られそうなレギア君視点から…。
朝。やたらと早く目覚めたレギアはベッドから上体を起こし、一切やることがないために虚空をずっと見つめていた。
近くにいるギルドメンバー達を起こす気力も湧かず、準備をしたいと思えるような事柄も待っていない。
喜びも悲しみも感じぬまま一時間ほど呆然としていると、部屋の外からミイの明るい声が聞こえてきた。
「テール君、レギア先輩! そろそろクエスト見に行きましょうよっ!」
「あ、ああ……。そうだな……」
ドア越しの声が小さいのは、宿の宿泊客に配慮しているからだろう。新星団はギルドホームをとうに売り払い、ギルドメンバーは宿に男女分かれて泊まっていた。
男二人と女三人で、男女それぞれ1部屋ずつ。新星団は、たった二部屋で寝床が足りてしまうくらいメンバーが減っていたのであった……。
「今日の食費もなんとか稼げましたね、テール君!」
「あぁそうだね。やっぱり俺達、着実に強くなってるよな! この調子なら、もう少し上のクエストにも挑戦できるかも」
「あはは、そうやってすぐ調子に乗るんですからぁ」
今日のクエストを終えた、帰り道。
新星団のメンバーは荷車をレンタルすることすらなく、手でゴブリンの死骸を引き摺りながら帰っていた。
それは偏に金が足りないせいだが、新星団のメンバーに悲壮感はあまり感じられない。
最近テールという青年とミイが付き合い始め、残る女性二人もミイの友達なので祝福ムードに包まれていたのである。
「だって仕方ないだろ。俺だってお前に、もっと楽させてやりたいんだし」
「もーっ、別にお金の事なんて気にしなくて良いって言ってるじゃないですか。私は十分、幸せですよっ!」
帰路の先頭を歩くミイが、隣にいるテールの肩にじゃれついて頭を乗っける。その様子を後ろからぼーっと見つめるレギアからも、悲壮感というものはあまり感じられなかった。
感情を失ったような虚ろな目は、ただただ目の前で起こっている事を目で捉えているだけだ。横から夕日に照らされる彼は、今にも日に溶けそうな印象があった。
だがそれは、彼が感情を押し殺しているだけだ。ミイが未だ新星団に残っている事もテールと付き合った事も、本来ならめでたい事だから怒れないだけである。
しかし感情が抑えきれなくなると、レギアは必ず同じ言葉を吐いた。
「あぁ、ライアの野郎さえいなければ……」
ライアを追い出したのは自分であって、ライア自身に非はない。しかし自分の非など全く意識せず、レギアはただただライアへの憎しみを募らせていた。
彼の言葉を聞いた途端、レギア以外のギルドメンバーは彼を置いて、早足で宿へと戻る。
冷たくしている……というわけではない。この状態になったら放置するのが最善だと、身をもって知っているからである。むしろライアの追放を反省した彼らに芽生えた、彼らなりの優しさであった。
「何が戦う生産ギルドだ、頭おかしいんじゃねぇのか……」
通りかかった【夜明けの剣】本店を見て、レギアが小声でボソボソと呟く。
ライアが新しくギルドを作ったのは知っていたが、それが見る見る内に大きくなった事に憤りを隠せない。
特にドラゴンが街を襲った辺りからその規模はより強大になり、今では多くのギルドをその中に取り込んでいる。大規模な事件が発生する度に街をも越えてギルドで出向き、謎の砲撃をしては撃退しているようだ。
「それもう生産ギルドの仕事じゃねぇだろ……」
今も目の前で、【夜明けの剣】本店から戦闘部隊が出動していた。彼らはそれぞれ共通の頑丈そうな鎧を身に付けており、隊列を組んで歩く様はもはや兵士にしか見えない。
「フィラ様飛翔! 隊列崩さず追い付くぞ。おいっちにーさんしー!」
「おいっちにさんしー!」
本店の屋上には大砲ならぬ大杖が大量に備え付けられていて、その内の一つから大きな物体が飛び出した。
目を凝らせば、それが少女のぶら下がったハンマーだと分かる。グオォォォォと竜の咆哮のような音を立てながら吹っ飛んでいくそれはすぐに視界から消え、違う街に向かったのだと分かった。あぁもう滅茶苦茶だよ。
「魔術砲撃部隊、フィラに当たらないよう正確に対象を狙うのよ? 彼女はたまに信じられない動きするから、それも考慮に入れて……そう、そう……。……てぇ!!!」
その直後。本店から謎の叫びが響くと同時、本店についた杖が今度は全て火を吹いた。
放たれた雷は信じられないほど長い距離を飛び、曲線を描いて隣街にまで届く。
とうとう戦争まで始めたのかと思ったが、【夜明けの剣】の活動内容を思えば隣街に現れた魔物をこの街から狙い撃ちしたのだろう。頭おかしい。
「馬鹿げてやがる……」
新星団を追放されてから嘘のように強くなったライアの武器を見ると、まるで自分が無能だからライアが活躍できなかったと言われているようで嫌になる。
それは実際その通りだったのだが、レギアに反省するつもりはなかった。根暗は根暗らしく、そこらでくたばっていれば良いのにとしか思えない。
「お……?」
そんな事を思っていると、ちょうど本店から出てきたライアの姿が目に入った。
次に会ったら殴り飛ばそうと、ずっと思っていた顔。なんで俺だけが不幸な目に会わなきゃいけないんだと、蹴飛ばしたかった男。
しかし彼は次の瞬間には、全身に龍を思わせるようなスマートな鎧に身を包んだ。鎧からは多くの武器が覗いており、殴り飛ばしたら自分の手が壊れるだろうと嫌でも予想できる。
「ん? お前は……」
「…………くそっ!」
しかもレギアが絶望を感じた途端に、ライアが彼の存在に気付いたようだ。
これ以上奴を見ていても、惨めな気持ちになるだけである。レギアは踵を返し、ゴブリンの死骸も置いて夕方の道を駆け出した。
「はぁっ……なんで! なんでこんな事に……!」
怒りで狂いそうになって、叫びながら走る。
その様は端から見て狂人の類に見えただろうが、【夜明けの剣】本店が見えなくなった辺りで人から声をかけられた。
「それは奴が、悪だからだよ」
聞きなれない、ずっしりと重い男の声。見知らぬ人から非難的でない声をかけられたのは久し振りで、彼は思わず立ち止まってしまう。
「……あんたは?」
「私はカイタス国の国軍所属、フレン・トー。少し君に話がある」
カイタス国というのは、レギア達が暮らしている国の名前だ。
目の前の男が国軍の兵士だと聞いて、レギアはぎょっと目を剥いた。最近は心を閉ざしていたため自覚していなかったが、冷静になるって思い返すとかなりまずい事もしている。
まさか捕らえられるのかと不安になった瞬間、フレンと名乗った兵士は全く予想だにしない言葉を口にした。
「君はライアという魔装職人を憎んでいるのだろう? 私達と共に来て、逆賊【夜明けの剣】を討とうとは思わないか?」
その言葉は【鍛冶嵐】問題にすら対処しなかった国が、とうとう動き出したという事を示していた。
無謀にも二作同時連載などというものを始めてしまったので、たまに毎日投稿が出来なくなってしまうかもですが…。基本は毎日投稿頑張ります…!
もしテンポが早いのをお求めの方は、もう一作の方もどうぞ!(本作もなるべく一話の字数を減らせるよう頑張ります…)




