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Γ-5. Επανάσταση 〝革命〟

「あっははは! すげー! 私今生身で空飛んでますよ!」

「きゃあああああ!?」

「目的地周辺です」


 エスとアルシノエは、アドに抱きかかえられて夜空を飛んでいた。

 目下では、ちょうど町のひとつが真っ赤に燃え上がっていた。山の下の、小さな町だ。

 人間の肉眼では決して見ることができないが、アドにはその光景が『騎士が爆弾で武装した民衆に襲われている光景』と読み取れる。

 それをエスに言ってみると、エスは「やっぱりそうなりますか」という反応を返した。


「この周辺でいいんでしょうか?」

「はい。この辺に、家を買ったんです」

「家を?」


 アルシノエがエスの言葉に首を傾げた。

 エスは珍しく自信ありげに胸を張ると、言葉を続ける。


「うん! ふっふー、すごいでしょ? 小ちゃい家だけど。アドさん、もうちょっと左です」

「了解」


 アドが山の少し奥の方へと旋回する。その度にアルシノエは悲鳴をあげ、エスは楽しげな声を上げていた。

 アドはその様子を見て、一瞬だけ、薄く笑った。そしてそういう行動をとった自分に驚いたが、それを見ている者は、誰一人として居なかった。


 アドが着陸したのは、森の少し奥、川沿いに建てられたログハウスの前だった。

 ログハウスはもう何年も前に建てられたものらしく、木の質感が年代を感じさせる。


「覚えてる? この家」

「......覚えてるわ。あなたが小さい頃、テオが買い取った別荘。もうなくなってるとばかり......」


 エス曰く、空き家だったこともあり安く買えた、とのことだ。

 アルシノエは最初は驚いてこそいたが、次にエスに「頼もしくなったわね」という言葉をかけた。そう言われたエスは、照れ臭そうに耳の裏をぽりぽりとかいて、「本当は、お金なくて、これしか買えなかったんだ」と返した。

 アルシノエは、満足そうに頷いた。


 エス、アルシノエ、アドの三人が、そっとログハウスの中へと足を踏み入れる。

 ギシ、ギシ......。

 木の軋む音を警戒しつつ、暗闇の広がる奥の方へ、アドが文字通り目を光らせながら進む。アドの目に搭載されたサーチライト機能は非常に便利だ。


 そして一通り回り終えると、三人はベランダに出た。

 丁度、日が出る頃合いだった。辺り一面に広がる木々が真っ赤に燃え、そして青々とした色を戻していく。


「綺麗......!」


 アルシノエの言葉で、エスの表情がパッと明るく、笑顔になった。

 そんなエスの笑顔を曇らせないためにも、アドはエスから部屋に置いてあった一通の手紙を、ポケットの中にねじ込んで隠した。


 ◇


「ヨハン! ヨハナ! 大丈夫か!?」


 王都ディナバスは、混沌としていた。

 突如として民衆が王に反乱を起こし、爆弾を用いて騎士たちへ攻撃を始めたのだ。

 ジーンは腕のレーザーで民衆をできるだけ傷つけないよう無力化していたが、爆炎にヨハンとヨハナが巻き込まれたのを見て民衆そっちのけでそちらへ駆けつけた。


 ヨハナが、土のドームを作り出して爆炎から身を守っていたことを理解すると、ジーンはほっと胸をなでおろしたが、まだ民衆の攻撃は続いている。


「なんだ貴様ら! 王政に不服があるというのか!」


 ヨハンの言葉に、民衆は即答する。


「当然だ! 俺たちは今まで、あの悪逆の王、ランベンノに騙されていたんだ!」

「ランベンノは隣国の人をさらい、魔石に変えて俺たちに使わせた! 魔石は悪魔の道具だ!」

「だから妖精の丘と戦争が起きたと聞いた!」

「ランベンノに仕えている貴様らも、そんな悪逆非道を黙っていたに違いない!」

「私たちは彼の言葉を信じる! これは革命なんだ!」


「なんの話をしているんだ......!?」


 そんな民衆たちの反応に、ヨハンは困惑する。

 騎士たちは魔石の正体なんか知らないし、妖精の丘との戦争は向こうがいきなり仕掛けてきたと知らされていた。

 だからこそ、困惑したのだが、その反応は民衆の怒りにますます火をつける結果になり、ますます攻撃は加速する。


「おい! 逃げるぞ!」

「しかし、私たちには騎士としての使命が......!」

「うるせえ!」


 ジーンは背中のジェットパックを展開しながら、ヨハンとヨハナを両脇に抱えて空へと飛んだ。


「離せ! まだ味方が残っている! ここで私が引き退るわけには......」

「ヨハン! 落ち着きなさい、このまま王宮に連れて帰ってもらいましょう。そこで、状況を報告するんです!」


 ジーンはそんな二人のやり取りを聞いて、空中で停止した。


「......!? 何をしているんですか、ジーンさん!」

「私たちを王宮へつれていけ!」

「......」


 ジーンは無言だ。無言で、ただひたすらに地面から爆弾を天空に向かって投げ、自爆する民たちを見ていた。


「......お前たちには、生きていて欲しいんだよ......」


 捻り出した言葉に、ジーンは自分で自分にた呆れた。


(随分人間に情が移ってしまったなあ......)


 ロズウェルのような外道もいれば、ヨハンたちのようなまあまあ良い奴もこの世に居る。そのことを理解した、それだけで情が移るなんて。なんて、単純でバカな男だろうか。


 ヨハンとヨハナの二人は黙りこくっている。ジーンの台詞に多少心動かされたのだろうだろうか。

 そして、ゆっくりとヨハンの方が口を開いた。


「......私だって死にたいわけじゃないさ。けど、女とか、子供とか、身分を気にせずに、実力をしっかり評価してくれたランベンノ王に報いたい......!」

「私も、ヨハンと同じ気持ちです。ですからどうか、私たちを王宮に連れて行ってください」


 ジーンは、二人の意思を聞いて、王宮の方へと飛んでいった。



 ......そんな彼らを、何者かが双眼鏡で覗いていた。

 革張りの高級椅子。葉巻の箱の中身はもう残り一本。葉巻を噛むと、ボスは目の前の男の方を向いた。

 男は近所の野良猫の顎を撫でながら、目の前の、スーツの裾から刺青の覗く男に話しかける。


「魔石をばらまいたのも」


「にゃ〜」


「アエテルナエと同盟を組んだのも」


「にゃ〜」


「今まで暗躍していたのに急に表舞台に姿を現したのも、全部このためか」


 色白の男、カイは猫から手を離すと、ボスの瞳を覗き込んだ。


「お前の計画だろうが」


 カイは目を細めた。


「ありゃ、そうだっけ」


 ボスは葉巻の煙を燻らすと、「お前も趣味が悪い」と言った。


「ま、これでカラバイアは陥落。君は無事、カラバイアのトップに君臨できるだろうね」

「無論だ。そのために、わざわざ民衆の前に姿を現したのだからな。

 妖精の丘との戦争で税率は上がり、最近では軽く飢饉も起きた。そして少しランベンノ信仰が弱ったところに、『魔石は実は妖精を犠牲にして作られている』と明かし、『魔石を一切使わない』武器を配れば、民衆は簡単に反乱を起こす」


「それで民衆のリーダー格ヅラしてる君が、次のトップってわけ?」

「もう民意は得られた。なに、一瞬トップに君臨できれば良いんだ」


 ボスはそう言って、葉巻の吸い殻を灰皿に押し付けると、窓の外を見た。


「連中の狙いは間違いなく、ソルテリッジ海溝の制御卓(コンソール)だ。妖精どもに奪われる前に、俺のものにする」

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