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Πετρα II〝ペトラ II〟

 交わす言葉もなかった。


 エスは自分が兵器を収集すればアエテルナエとは険悪になるとわかっていたし、ペトラは例えエスを殺してでもそれを阻止しなきゃいけないことを理解していた。


 だからこそ、開戦の合図はそれはそれは単純だった。ペトラが矢を放ち、エスがダガーを抜いた、それだけ。


 エスはその小柄さを生かし、ペトラの懐へと飛び込もうとするが、ペトラは全く慌てる様子なく、矢を放った。

 その牽制にもならない行動にエスは疑問を抱いたが、その答えはすぐに出た。


 矢が、爆発した。


 魔法だ。魔法を使われた。これではロクに近づくこともできない。

 エスは負けじと、いつも通り氷弾を作って矢に対策をしたが、今度はペトラの方から接近してきた。

 ペトラは自分の魔術ポケットから、普通の騎士が使うような長剣を取り出し、エスにその刃を向ける。


 エスは体を捻じ曲げてなんとか攻撃を回避しながらも、次の攻撃手段を考えていた。

 と、そこで魔術ポケットにしまい込んでいたクロスボウの存在を思い出し、跳びのきつつ魔術ポケットを展開。クロスボウっぽい手触りのものを引き出し、先ほどペトラが放った矢をセットした。


 そしてトリガーに指をかけ、矢を放つ。その矢はビルビルと風を切る音を響かせながら、ペトラの腕を掠っていった。

 真っ赤な血がダラリと流れる。ペトラは意外でもなんでもなさそうに、次の攻撃行動へ移るが、出来た一瞬の隙をエスは見逃さない。

 ダガーを再び取り出し、ペトラに向けながら突進する。あまりに単純な動きで、もうどこでも回避の仕方を教えているような動き。

 だから当然、ペトラも教えられた通りに、エスも知っているような動きを再現し始めた。

 ただ一つ想定外だったのは......。


 エスが、ダガーを投げ捨てたこと。


 手をはたいてダガーを叩き落とす気まんまんだったペトラの動きは崩れ、エスはその小柄な体に合わせて屈んでしまったペトラの背中を踏んで、宙返りして地面に足をつこうとしたが、ペトラは咄嗟に先ほどの長剣を振るって空中のエスを襲った。


 空中のエスの体を僅かに掠め、パラパラと少しだけ髪の毛が地面へ落ちる。


「ちょうど、髪を切る頃合いだって思ってたから」


 走馬灯が見えそうになった。それほどまでに今の攻撃は危険だった。そんな動揺を隠すために、茶化したような台詞を吐くが、ペトラは何も言わない。ただ淡々と、矢を放ってエスを動かしていく。


(今背中を向けたら、間違いなく死ぬ......!)


 エスはそう直感しながら、もう目と鼻の先の合流地点へ行けないことにまどろっこしさを感じていた。

 ペトラの目は最早何も感情を悟らせない。一方で、エスの額には冷や汗がびっしりと浮いている。


 そして、エスがペトラの目の前に誘導された時。ペトラは長剣を振り抜き、横一文字に振った。

 エスは咄嗟に宙返りで避ける。

 そして、体よりも遅く動いた長い長い髪がばさりと切り落とされ、地面に落ちた。


 エスの心臓がバクバクと鳴る。本当に今のは危なかった。さっきの比ではない。少し位置がズレていれば、首を切り落とされていた。


「えっちゃん」


 今まで無言だったペトラの口が、遂に開かれた。


「さよなら」


 その瞬間、エスの足元が弾け飛んだ。


 ◇


「......」


 爆煙が晴れるのを待ち、()はそっとえっちゃんの死体へと近づいていく。

 剣に爆発する魔法を仕込んで振った。少し目測がズレていて、うまくえっちゃんの体に当てることはできなかったけど、髪に当たったから結果オーライと思うことにする。

 もう手遅れになった彼女を探して、爆心地へと向かう。


 私は元々人見知りで、誰かと長く付き合うみたいなことがなかったからこそ、ディーちゃんに言われた「彼女と友達になりなさい」っていう言葉には当惑させられた。今思えば、多分、組織として仲良くしなさい、って意味だったんだろうな。それをバカな私に伝わるように言ったんだ。でもバカだったから、本当にベタベタしちゃった。


 けど、結果的には、形だけかもしれないけど、上手くいったような気がする。

 彼女と心が通じ合ったのなんか一回もないような気がするけれど。アエテルナエの村が危機の時ですら、彼女の行動理由は何かを救いたいみたいなことじゃなかった気がするけれど。

 でも形だけは上手くいったと、こう私は確信している。


 さて、爆心地。爆煙でよく見えないけど、えっちゃんの上半身が見えてきた。髪の方が爆発したはずだから、上半身だけ残っている。何か防御した感じもないし、避けることなんかできやしない。


 これは本当に死んだな。


 そう思って私は近づいていく。これは言い訳だが、完全に油断していたと言っておく。

 というか、自分がやった死体を見て気を引き締められている奴なんかいない。今度があったら、もっと気を引き締めよう。

 何が起きたのか、説明しよう。


 突如、えっちゃんの背中がガバッと開き、機械が展開されたのだ。なんだっけ。じぇっとぱっく。ディーちゃんとかがいうような感じでいうとそれだ。青白い炎を吹き上げながら、少しずつ、一切欠けている場所のないえっちゃんの体は持ち上がっていく。

 何が起きているかわからず、私は無様なくらい当惑して、長剣を再び構える。そして、背中の方からレーザービームが飛んできて、私の左目に直撃した。痛い。けど、その痛みを堪えながら、えっちゃんの方を向く。


 えっちゃんの体が完全に宙に浮いたことで分かった。えっちゃんの背中に、魔術ポケットの入り口が出現し、そこから別の女の人(しかも裸)が上半身だけ出して、えっちゃんを支えて、自分の背中をパカって開いて支えているのだ。


「誰......?」


 私の疑問に、真っ赤で水晶みたいな、というか本当に水晶と同じ輝きを放つ目を向けてきた『ろぼっと』は答えなかった。

 代わりに男の声が流れた。


 [システムチェック開始……

 記憶ユニットを起動……グリーン。

 感情システムを起動……グリーン。

 バイタルチェック……グリーン。

 セカンドサイト システムチェック……グリーン。

 システム:グリーン。警告:プシュケイと肉体の同期が完了していません。プシュケイモードで起動しますか?]

「イエス。22190155」


 呪文みたいな台詞の列挙が終わると、女の人は喋り出した。


「ここは......そう。成功したのね。左目のこと、ごめんなさい。自動で出ちゃう設定になってたみたい」

「......誰?」

「私はヘテロジニアスセカンドサイト0155。『ノイ』って呼んで。この子、殺されるとすごく困るの。だから、じゃあね。また会おうね」


 そう言うと、ノイが放った無数の極細のレーザービームが私を襲い、次の瞬間には、彼女はいなくなっていた。

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