2219/9/28
「ここは......ポンプ室? なんだそれ」
エスはこの研究所ーーーグランド52総合研究所というらしいーーーのパンフレットに掲載されていた見取り図片手に、武器庫を探していた。
そもそも武器庫なんてないのでは? という考えも過ぎったが、そもそもアドの生まれた場所なのだ。ないわけがない。
(あの人自身、かなり物騒だしな......)
出会った最初の頃は目を輝かせてみていたあの巨大なロボットも、アドの技も、それが生まれた場所にいる今、その背景事情にばかり目がいってしまう。
つまり、アドの生まれた理由は。
そこまで考えて、エスは頭をぶんぶんと振った。ゆさゆさと揺れる髪を右手で押さえつける。
(あの人のこと、ただの兵器だなんて思いたくないけど)
エスはそう考えながら、パンフレットには載っていない武器庫を探す。
すると、思わせぶりに『STAFF ONLY』と書かれたドアがあり、見取り図を参照してもどこにも繋がっていない場所があったので、この先だろうなとエスは確信した。
だが、バイオメトリクス認証(当然エスには意味が理解できていない)が必要らしく、入ることはできない。
すると暇そうな研究者が通りがかったので、わからないことを聞いてみることにした。
「すいません、この『バイオメトリクス認証』ってなんですか?」
「あー......君は確か。バイオメトリクス認証っていうのはね、人間の体のデータ、あ、いや、まあようは決まった人間が何も持たずに突っ立ってるだけで入れるようになる鍵のことだよ」
「なるほど、ありがとうございます。では」
エスは自分の部屋へ戻りながら、心の中で呟いた。
(決まった人が突っ立っていれば、ね)
その日の夜に、エスはひそひそと研究所をうろついていた。
『ターゲット』はいないものかと。
すると、うとうとと待合室のベンチで居眠りしかかっている職員を発見したため、背後からそっと近づき、絞め落とした。
そして魔術ポケットの中へと職員をしまい込むと、例の扉の前へとやってきて、ポイと研究員を出した。
自身の小柄さを呪いながら、頑張って研究員を立たせる。
「んー?」
だが、開かない。何か条件が悪いのかと、目を開かせたり、踊らせてみたりしたが、扉はうんともすんとも言ってくれない。
「バイオメトリクス認証......」
ダメじゃん、と呟こうとしたところで、急に扉が喋った。
『声紋認証OK。虹彩情報OK。遺伝情報OK。プシュケイ......OK。扉をオープンします』
「おっ。やった」
エスは近くに研究員を寝かせておくと、その薄暗い中へと進む。
入ると、エスの存在を感知した照明が自動で点灯し、目の前を照らす。
幾つも連なる無機質な扉の中から、武器庫らしきものを探して、エスは奥へ奥へと進み、最終的に一番奥の扉に書かれた『武器保管庫』という文字列を見た。
(ここだ)
扉を押して開き、埃っぽい中へ入る。
数十......いや、数百はあろうかという銃が、壁にかかっている。間違いなく、ここが武器庫だ。
どれが戦争に使えそうだろうか。この両手で持てるぐらいの、丁度いいサイズのものにしようか。それとも片手で持てそうなやつにしておこうか。いや、それともこの両手ですら持てなさそうなブツにしようか。
そんなことを思いながら奥へと進んでいくと、急に何かとぶつかり、エスは後ろへ倒れた。
そして悪態をつきながら立ち上がると、そこには。
人の顔があった。
「ひゃあ!」
再びぶっ倒れるエス。
そして好奇心からよくみるとマネキンのように飾ってあった人型で大きい人形を観察し始めた。
女性の顔。不気味なぐらい白い肌が全身を包んでいる。そしてその体を、埃で覆われている。
やっとこのマネキンじみた不気味さを持つこれが何かを悟ったエスは、作戦決行日にはこれを持ち出すことを決意した。
(ああそうだ、扉に何か挟んでおかないと)
入れ直せなくなった時の保険を仕掛けると、エスは部屋へ戻った。
◇
作戦、決行日だ。
ボスとは研究所を出て裏手の庭で合流する手筈になっている。
何故か今日はやたら出ている研究員が少なく、何やら異様なものこそ感じたが、寧ろ好都合とエスは作戦を実行した。
研究員を絞め落として、再び『バイオメトリクス認証』と呟いて武器庫へ潜入。
やはりここにも誰も居ない。何か罠が仕掛けられてるんじゃないか、と思うほどの人の少なさだ。
武器庫へ入ると、ライフルを少し、ハンドガンをライフルの半分ほど持ち出し、女のマネキン、つまりヘテロジニアスセカンドサイトを一機、魔術ポケットへしまい込む。
あまりにも多すぎる量をしまい込んだから、急にずしりと肩に何かを乗せられた感覚がするが、耐えて出口へと向かう。
廊下を出て、大胆に正面玄関から外へ出る。しかも警備員付きで。
魔術ポケットのことを研究員に喋らなくて本当に良かった、とエスは安堵しながら、外へ出るなり、警備員の脳天をダガーで突き刺した。
警備員は胸の上で右手と左手を交差したポーズで倒れる。防御行動に失敗したから、こんな変なポーズで倒れたのだ。
そして左に曲がり、見つからないように森の方へ。
もうとっくに入口の警備員には気づいているだろう。エスは見つからないよう、急ぎ足で、森に入って森の奥、合流地点である『赤い葉の木』の方へ移動するが、どこからともなく長い矢が飛んできて移動を妨害された。
矢は近くの木に突き立っている。エスは飛んできた方を向き、はあ、と小さくため息を漏らした。
「どいてよ」
その金色の目に殺意を込めて、ペトラが矢を構えていた。




