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2219/9/14

 自らの開発主の声とともに、目を開いたロボット......後に『アド』と呼ばれることになるロボットの頭の中に、情報が流れ込んでくる。


[戦況データをダウンロード......100%・タクティクスコード04実行・SSセットアップ完了・コードΩで起動]


(私は......)


 自らの知性を置き去りに、『兵器』としての有りようをまざまざと見せつける動きで、目の前の敵を狩る。

 自分の戦い方は自分で編み出したものではない。自らの右手に握る武器のことはよく知らない。

 けれど戦わなくてはならない。


 もし仮に、彼がただそれだけのために生まれてきていたのなら、いくらでも目の背けようはあっただろう。

 だが、現実は残酷だった。

 ロボットは、最初は一人の人間だった。


 同じ形をして、同じ種類のロボットの髪を掴み、首を切り落とす。するとシュイシュイと聞こえていたアクチュエータの音も、負けを確信した瞬間こちらを罵っていた合成音声も聞こえなくなり、ただの金属の塊がそこにあるようになった。


(......何をしているのだろう)


 ロボットは、最初は人間であった。

 最後に009の放った、『私は帰るだけだ』という言葉が、何故か彼の耳に強く残った。


 ◇


『グランドー56 HSSが暴走 原因は〝マザーズ〟』

「〝母〟」


 ようやく言語を理解できるようになった頭で少し古い電子新聞を読む。それはひっそりと部屋の隅に投影されており、エスの顔を青白く照らす。

 エスは最初に比べれば随分慣れた手つきで、新聞をスクロールしていく。そこには聞いたこともない名前の、聞いたこともない大学の教授へのインタビューが載っていた。


 ーーー

 アンドレ・グレス氏:今の科学の根底には、機械論的自然観がありますよね。科学を神から分離した、客観性重視の科学。ですがマザーズの登場によって、この根底が揺らぎつつあります。


 記者:というのは?


 アンドレ・グレス氏:このマザーズは、なんと五十億年前に制作された、ピコ単位のサイズしか持たない機械なのです。


 記者:地球誕生は四十六億年前だと思っていましたが。


 アンドレ・グレス氏:ええ。誰が作り、何の目的で散布し、何の役割があるのか。殆ど謎といってもいい。ですがそんな中で、一つわかっているのは......マザーズは、地球誕生から今日に至るまでの全てを見てきた、ということです。


 記者:それは随分壮大ですね。


 アンドレ・グレス氏:壮大なんです。このマザーズを解き明かせば、地球誕生の謎、生命の神秘、その他全ての事象が明らかになってしまう。そうした理由で、科学者たちはこのマシンに魅了され続けているのです。


 記者:今回の暴走はマザーズとどう関係が?


 アンドレ・グレス氏:暴走したHSSは、しきりに『私は帰るのみ』『神の存在を知った』と口走っていました。ご存知の通り、HSSは知能を持つロボットです。生命である我々より、機械である彼らの方が、マザーズに近しいんです。ですから、何らかの事情で『触れた』というのが、主な原因と考えていますね。


 記者:なるほど。人間がマザーズに接近する未来はあるのでしょうか?


 アンドレ・グレス氏:今後研究が進めば、十分あり得ます......もしかすると、ラファエルと名乗っていたのも......


 ーーー


 知らない言語と訳のわからない話のオンパレードで、頭が痛くなってきて、途中でエスは手を止めた。

 一緒に言葉の練習と称して読んでいたはずのペトラは、いつの間にかどこかから持ってきた少女漫画をパラパラとめくり、目を輝かせている。


(......アホらし)


 トゥニカのいう母と、このマザーズという単語が近いのではないかと思って開いては見たものの、単語が難しすぎて解読に二時間はかかったし、その労力の割にはしょうもない内容、つまりトゥニカともほぼ関係がないようなことしか書いていないし、もしかするとペトラと一緒に漫画を読んだ方が有意義だったかもしれない、とエスは考えた。

 ズキズキと痛む頭を押さえながら、新鮮な空気を求めて廊下へ出る。


 その時だった。


 荷台に体育座りで詰められて運ばれていく、人型の影。

 人身売買を彷彿とさせるその光景に驚いたのも確かだったが、エスが何よりも驚いたのは乗せられていたロボットの顔だ。


(......アドさん!)


 あの真円の瞳は間違いない。アドだ。

 もしかすると、自分と一緒に転移したのか。そう思い、彼を追いかけようとした、その時だった。


 ビー! という、ちょうど10日前に聞いた音が、辺りに鳴り響き、周囲が真っ赤に染まる。


「......ま、同情するよ」


 自分の動きを妨害された苛立ちを、十日おきにこんなことをしている学者たちへの同情に変え、エスは自室へとゆっくり歩き出す。

 廊下を右へ......階段近くの、801号室へ......。

 そうゆっくり部屋に戻ろうとするエスを、爆速で追いかけるものがあった。


 エスの動体視力では捉えきれないほど俊敏な動きを見せつけたのち、『それ』はエスの前に立つ。


「私はヘテロジニアスセカンドサイト 0089。母から授かった名は〝%d8O’(ミカエル)〟」

「はあ、ご丁寧にどうも。今日はどうした要件で?」


 ミカエルと名乗ったーーー口の動きは明らかに違ったが、エスにはそう聞こえたーーーロボットに、のんびりとした口調で返答しつつ、戦闘準備を始めるエス。

 杖を右手で握り込み、相手の初動に合わせて魔法を撃てるよう、魔力を込めてーーー。


「あなたを殺しに!」

「遠慮しておきますね!」


 ーーー地形変化系の魔法を発動!

 廊下を包む白い壁から、氷の槍が生え、空中に飛んだミカエルを貫く。

 が、ミカエルが少し力を込めると、槍は砕け散り、ミカエルは槍が刺さったまま動き出す。


「きっしょ! 死んどけ!」


 初動に失敗したエスは、氷の弾を身をよじって避ける化け物に対し、次の一手を考える。じわじわと距離を詰めてくるミカエルから逃げる、もしくは破壊する手は? 

 天井に氷の壁を張って落下させ、押しつぶす? そんな無尽蔵の魔力はどこから湧いてくるのやら。

 土系の魔法で相手の手足を縛る? ダメだ。あの感じだと簡単に壊される。


 必死で考えるエスをあざ笑うかのように、ミカエルはエスの目の前に立つ。


「残念ですが、これも世界の均衡を保つためです。大丈夫、あなたは天国へ導かれますから。恐れないで......」


 そういって、ミカエルは背中のジェットを展開して見せつける。まるでそれは、天使の羽のようだったが......ジェットパックは機械だ。神々しさなどない。

 そしてミカエルは短くコードを唱えて、長剣を取り出す。


「私は地獄落ちが決定してるんでね!」


 エスはミカエルに唾を吐き捨てると、ミカエルの足元を凍らせる。

 このまま霧を発生させても、逃げられないと、0098の一件で分かっている。

 そんなエスにゆっくりと、長剣の先を向け......剣が、唐突に折られた。


「アドさん!」


 エスの口からは、考えるより先にその名が出た。ずっと心の拠り所であった機械の名。それが今、助けに来てくれた......。


「あああああああアァアァ!!!!」


 アドは、かつて暴走した時と同じ、怒号のような爆音を放ちながら、ミカエルに飛びかかった。

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