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エピローグ 2219

 

「全く、ロズ。あなたときたら......大変なことをしますね」

「十年前にも試した。あの時は町一つ消えたけど......記憶は失ったけど、元の人が戻ってきた。やっぱり『母』の修復力はすごいね。でも今回はそういうヘマはしない。そのために十年かけた」


 ロズウェルとトゥニカの会話。それを聞いたエスの頭の中に、彼女が紡いだ単語の一つ一つが踊り出す。

 町一つ消滅。記憶消失。元の人が戻ってくる。ヘマ。


 タウバッハ、爆発消失事件。


「まさか......」

「ああ、エスは知らないんだ。そう、あの爆発事故をやったのは私。反省してるよ。今回は絶対そういうミス、しないから」

「お前が......!」


 エスは怒りを抱いた。

 正直言えばあの事件で失ったものなどない。両親を失ったのも、自分が暗い仕事に身を落としたのも、すべてこの国のせいだった。

 しかし、その責任をすべてロズウェル、目の前の明確な悪に擦りつけてしまいたかった。

 ぶるぶると震える拳。

 そこに、ゆっくりと乗せられる大きな手。


「えっちゃん、抑えて。今は村の方が優先」

「如何にも。エスさん。一度だけ......私のことを信じて欲しいんです。私が望むのは、完膚なきまでの世界平和。善人も悪人も等しく愛される、正しい世界に。その中に、サリヴァン博士でない、エスさんも是非」


 エスは衝撃を受けた。

 それが、トゥニカの本心だと分かったから。

 アレだけ悪に映ったトゥニカの目指す先が、平等の愛だと知ったから。

 かつて、ボスに感じ取った、彼の目指す未来と、それが似ていると感じたから。

 エスの心が、少しだけ揺らいだ。


「......変なものに勝手に加えないでください」

「ふふっ。では、その白い布に」


 トゥニカの言葉を待たずして、エスは地面に広がった白い布に飛び込んだ。

 ペトラも続いて飛び込む。


 地面に無限に沈み込むような感覚。流砂の中や、底なし沼を連想させる恐怖。


 しかしその恐怖は、下の方に光が見えてきたことで終わりを告げる。


 ◇


 アエテルナエの村の様子は凄まじかった。

 あちこちで突如として発生する小さな爆発。


 そして......見たこともない服装の人間が、混ざり合っている。

 さらに、村の外へは見えないバリアのようなものが張られているらしく、村人がずっとバリアを叩いている。


「ヤバッ......! ディーさんは!?」


 ペトラはすぐさま近くにいた村人に尋ねる。

 村人は「そんな場合じゃないんだ!」と叫ぶと、バリアの方へと駆け出していく。

 その様子を見て、ペトラは、何も言えなくなった。


 だが彼女は地面にへたり込んだりせず、すぐさまエスに「アエテルナエの塔に行こう」と提案した。


 その逞しさに、エスが感銘を受けたことは、やはり彼女には伝わることがないだろう。



 アエテルナエの塔の最上階で、ディーが頭を抱えていた。アエテルナエに祈りを捧げるための神殿だ。


「くそ......アエテルナエ様......アエテルナエ様......」

「ディーさん!」


 ペトラはすぐさまディーに駆け寄る。

 ディーはペトラを見ると、か細い声で、


「この村は......終わりかもしれない.....」


 と、言い終わる前に、


 ペトラは殴った。


 何も言わずに。


「あんた村の長だろうが!」

「......! そうだ......そうだ! まだ出来ることがある! 民衆の混乱を沈めてくる!」

「そう! それが一番いいよ!」


 ペトラはそう言ってディーを送り出した。


「手伝いますか?」

「ウチら汚れ仕事担当じゃん」

「それもそうですね......私たちにできることは......」

「ないんじゃん?」


 ペトラはそう言って、窓の外を指差す。


 そこには、ディーが民衆を一箇所にまとめ、小さな爆発から守るために魔法の結界を作り、衛兵たちが村の外から入ってくる魔物を倒している。


「.....ないですね」


 それを見て、エスは自分にやることがないことを実感した。

 まだすべて終わりじゃない。だが、一時的な混乱は去り、民衆たちも規則的に動き始めている。

 暗殺者、という暗い仕事は、こういうとき役に立たないな、とエスはそう思った。


 そうしたら、途端にすべてが解決したような気分になり、緊張の糸がほどけていくのを感じた。


 それを、そのタイミングを、狙ったかのように。


 唐突に、祠が強く輝いた。


 ◇


 その瞬間、エスの頭に流れてきたのは、ありえない記憶ーーー存在しない記憶ーーードクター・サリヴァンの、記憶。


「ついに、ついに完成した! みんな、ありがとう! この機械はーーー」


 サリヴァンがはしゃぐ。子供らしく、無邪気に。白衣を着たチームメンバーに向かって、拍手を送る。

 そんなサリヴァンを見て、メンバーはくたびれながらも、安堵と達成感の混じる表情で、ある一点を見ていた。

 サリヴァンの目が、みんなが見ている一点を移す。


 真っ白なベッドに、性器のない男が横たわっている。身長が高く、目を瞑っている。

 彼はその真ん丸な目を開き、ゆっくりとベッドから起き上がる。それを見たサリヴァンは、感激しながら、先ほどの言葉の続きを紡ぐ......。


「この機械は、まさしく〝人間〟だ!」


 目が覚めた、ヘテロジニアスセカンドサイト0154号は、ゆったりと「くぁ」という、欠伸と音が全く同じ産声をあげた......。


 ◇


 エスはハッと目を覚ました。

 隣にはペトラが倒れている。体温確認。とりあえず無事そうだ。

 周囲を確認。先ほどいた場所と全く変わっていない......というわけでは、ない。何か違和感......窓の外だろうか?

 そう思って、エスは窓に駆け寄る。


 アエテルナエの村は変わっていない。最も変わったのは、遠くの風景......。


 途中で折れたビルが何本も見える。そして、定期的に空で起きる爆発。そしてその奥に見える、古城のような趣の巨大な建造物。


 ......二二一九年九月、グランド-52。


 聞いたこともないはずの言葉が、エスの脳裏に即時に浮かんできた。

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