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Φρυκτος〝狼煙〟

 

「......そうですか。そんなことが」


 一週間ほど経って、ペトラが帰ってきた。

 アドも連れて行き、録音に使ったらしく、部屋にはトゥニカのあのねちゃあとした声が響いている。

 彼は相も変わらず『母の復活』だとかを語っており、一通り一千年前の世界について語った後、自分で集めた機械を目の前で使って、信者を増やしているようだ。上手くやるな、とエスは舌を巻いた。


 さらに、ヘテロジニアス 0098というのは、テオドロスの体をもとに作成した、サイボーグであるということだ。なぜサイボーグだったのかは知らない。かつて、トゥニカが『タイムマシン』と呼んだ装置によって召喚されたらしい。ペトラが行った場所にはいなかったとのこと。


 そして、自分の身柄を欲しがる理由だが......。


『......彼女はね、この世界においてかなり異質な存在ですよ。だからこそ、彼女がいれば......この世界が、手に入ると言ってもいい。だが、私はそれを望まない。彼女を守ってあげたいんです』


 トゥニカは録音の中で、そう語っていた。

 エスはいつの間にか自分の身柄にかかっていた凄まじい価値についてため息をついた。


 しかし、大胆な手を使う、とエスはペトラを心の中で賞賛した。

 入信者のフリをするとは。しかも、その状態で自分について尋ねるとは。

 例え、トゥニカの手が洗脳だったとしても、アドは機械だから関係ないし、ペトラはそれ以前にアエテルナエの宗教に入信している。その場の全員が敵に回ったとしたら、アドを使って大暴れできる。大胆だが間違いがない。


 一通り、エスはペトラのことを褒めていたが、このことはペトラに伝わることは決してないだろう。


「おーい、エス。帰るぞ。三週間はかかる」


 不意にゼットが現れてそう言った。

 唐突に下された無茶振りに、はあ、と諦めの混じったため息をつきながらも、テキパキと身支度を整えていく。


(行きはノンストップ、帰りは三週間......ね)


 理由は知っている。

 戦争の影響で、行きに使用した馬車が通る道が完全に妖精に占拠されているためだ。

 故に、山の裏から帰っていかなくてはならず、野盗と魔物を追い払いながら帰るとなると、相当時間がかかる。

 行きには手洗いも酔いも決して許されないノンストップの旅。帰りはじわじわと綿で首を締められるような恐怖と一緒。

 別に彼女はそれ自体に不満はない。むしろ、しばらくの間戦火から逃れたことで幸運とすら思っている。


 ただ気がかりだったのは......。


「ついてきちゃーった!」


 ペトラだった。

 妙にエスに懐いている、あのペトラだった。

 その日の夜、山中で焚いたキャンプにて、ペトラが急に現れた。尾行されていたのだ。


「この......離れてください!」

「えっ......えっちゃん敬語やめてよ......」

「えっと......離れなよ!」


 あまりに悲しそうな表情をペトラが向けるので、慣れないタメ口を使いながら確実に自分の1.5倍は身長差があるペトラを引き剥がし、事情を尋ねる。


「えっとねー、ペレストロイカに特別出張させてもらえることになった! 頑張るね!」

「......えー......」


 今度はエスが嫌そうな表情を浮かべる番だった。アエテルナエの村でこの女と生活してきて、一日に使用する体力は三倍ぐらいに膨れ上がったような感覚をエスは抱いていた。


「エス。仕事ならば仕方がない」

「分かっていますが......」


 ゼットに諭すように言われ、エスはやっと落ち着いた気持ちになった。

 それを見たゼットは、少しだけ微笑みながら、


「しかし、まさか君のようなのがそこまで感情を露わにするとはな。年相応な部分もあるということか」


 と言い、すかさずペトラが


「え、えっちゃんって何歳なの?」


 と言った。エスは答えないが、ペトラは必死に答えをせがむ。

 そんな風に他愛もない話をしていた最中のことだった。


 ......殺気。


 周囲から殺気を感じとり、三人はほぼ同時に武器を取った。


 草の陰から現れたのは......母神教徒(チャイルド)。だが、少しだけシンボルが違う。閉じていた目が開いている。

 そして、アエテルナエが管理しているはずのサイボーグ。


 その光景を見て、最も驚愕したのはペトラだった。

 一瞬、アエテルナエ側の裏切りを考えたエスだったが、彼女の性格を加味して、それはないと考えた。

 大方トゥニカが盗んだといったところだろうが......。


「やあやあ、どうも。これはみんなお揃いかな?」

「ロズウェル!」


 奥の方から現れたのは、中性的な声の響きの美女、ロズウェル。その顔はどこか作り物のようで、エスはそれが羨ましいと感じたことはただの一度もない。


「ちょっとだけ、挨拶回りにね。この距離だったら......時間までに徒歩で帰ることはできないね?」

「何を......」


 ペトラがそう言いかけたところで、アエテルナエの村の方から狼煙が上がった。

 ......村が窮地だ。ペトラはそう理解し、村の方面へ駆け出そうとしたが......。


「ぐうっ!」

「0098様参上! ......なあロズ。これが終わったらさ、もうアドを直さないって約束したよな?」

「もちろん! そもそも僕は技術者じゃない。なんとか生計を立てていくさ」


 ペトラの体を蹴った0098は、ロズウェルと会話しつつ、瞬時にゼットの目の前に肉薄した。


「ごめんな。せめて安らかに眠ってくれ」


 そういって、すかさずゼットの首を叩き折る。脊椎が折れて、ゼットは地面に倒れこむ......断末魔の一言もなく。

 その動きに一切の無駄はない。エスは肉眼で捉えられなかった。

 が、それに怯むエスではない。すぐに魔法で牽制を仕掛けつつ、ペトラの方へ後退り。

 勝ち筋は見えないが、逃げることは可能そうだ。


(......ペトラ、魔法陣移動は?)

(無理。アレは魔力を出すし、魔法使いか、魔力感知系の魔道具があれば即バレる)


 やっと立ち上がったペトラを、庇うようにしつつ、話を聞いてから、滅多に使わない火炎系の魔法と、氷魔法を併用して霧を発生させ、視界を奪う。


「うおおお! 見えん!!」


 エスの父親の声で叫ぶ、0098。

 成功した......と思い、駆け出したエスだったが。


「お前、体温低いのな」


 エスが駆け出した先に、0098は先回りしていた。

 搭載されたサーモグラフィーカメラ。それでエスの姿を確認した。

 そして......やたらゆっくりと......エスの頭の上に右手が伸びて......。


 その手首を、アドが掴んだ。

 掴んだ手首を下に向けさせ、体勢を崩した0098の顔面にパンチ。

 0098はよろめきながら、腕を天に向けてコードを唱える。


「コードβ。ランス」


 それは、アドが使う武器と全く同じ槍。槍先の下からコードが伸びる、サイバーな槍。それが0098の手元に構築される。

 それを見たアドは、自分も同じ武器を召喚した。


「アドさん! 応戦しちゃダメです、おそらく狙いは村です!」

「......! マシンタイタン!」

「させるか!」


 夜空を駆けて現れた白いマシンタイタンは、ロズウェルが呼んだ灰色のマシンタイタンに妨害された。

 灰色は次々と現れ、白いマシンタイタンの動きを完全に封じる。


 村からは狼煙が上がり続けている。

 おそらく、ここで0098を呼んだのも、アドがエスの窮地に駆けつけると理解してのこと。村からアドを引き離すための戦いがこれだ。

 今の状況で村に被害があるのは、エスとペトラ、どちらにも不利益がある。


(......まずい!)


エスは必死で頭を回転させる。霧の中の逃亡はダメ、マシンタイタンの飛翔も妨害、アドは0098と戦うので手一杯。

アドもまた必死で考えるが......。


「おいおい! ボーッとすんなって!」


 そうしているうちにも0098は攻撃を仕掛ける。

 0098の攻撃に遠慮はない。アドは以前とは違い応戦できているが、それでも辛い。

 しかも、もし0098をアドが倒したとしても、周囲にはマシンタイタンとロズウェルの手先(マヴロ派)が控えている。


 ......このままじゃ、死ぬ。


 エスはそう確信し、天に助けを請いた。

 その祈りが、届くとは彼女は到底思っていない。彼女は神を信じない。

 ただ、事実助けは現れた......。


「おや......ロズ。随分ひどいことをするんですね」


 ......最も、現れたのは母神教の教祖(トゥニカ)だったが。

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