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Aγόρι II〝少年 II〟

「ちょ、狭い狭い! 狭いって!」

「うっせ! 一番スペース使ってるのお前だからな!?」

「ハアー!? 好きで大きいわけじゃないし!」


 諜報を依頼されたペトラとスーダたちは、取り敢えずアエテルナエの村から降りるべく、あの狭苦しい魔法陣の中に〝三人で〟押し込められていた。


「私だけ後で追うこともできたのですが」

「アドさん......すいません、このバカが」

「私にはすーこーなる目的だあるの!」

「ペトラ! 言葉遣いには気をつけてだな......客人に無礼を働いたら、ディーさんに......」

「そうですか」


 騒がしいままそれは村の麓へと向かう。

 アドが同行しているのは、母神教のアジトまでペトラを案内するためだ。今も使われているかはわからないが。ついでに入っているスーダは麓に着いた時に別れることになっている。彼は魔法陣の運転手に過ぎない。これも全部ペトラが面倒臭がるからだ、とスーダは毒づいた。


「そーいやー。聞いたよ、エスのお父さんのこと」

「どこまでですか?」

「いや、最低限。なんか君と同じ種族の人がお父さんの見た目して現れたんでしょ。名前はテオドロス」

「ーーーそうでしたね」


 ◇


「さあ、よく噛んで。あなたのための晩餐ですよ」


 トゥニカは全裸の男の前で、赤ん坊を諭すように言った。周囲にはチャイルドたちが和気藹々と食事をしている。

 全裸の男ーーー0098は、とろけるように柔らかいステーキを食いながら、食べかすが飛ぶのも気にせずこう言った。


「目的は? お前の。俺の目的はすべてのヘテロジニアスセカンドサイトを殺すことだ」

「私の? 世界を救うことですよ」


「ずいぶん子供っぽいんだな?」

「しかしあなたは知っているはず。世界を救わなくてはならない理由を」

「......ん......まぁ......」


 0098は、急に口ごもって一口肉を口に運んだ。


「ともかく、やんなきゃいけないことは分かるんだ。アドを殺さなきゃーーー」

「漠然としているんですよ。ロボットを殺す、というのはなんなのですか?」


「あー、とにかくぶっ壊せばなんとかなるだろーーー」

「もうそれは実行されています。この世界には彼の構造を理解できる技術者がいる。それも考えてのことですか?」


 0098はついに黙り込んでしまった。そこまで考えていなかったらしい。


「ーーー俺らは不死身だ。世界が変わればそれも終わりだと思っていたんだがな」

「ええ、本来あなた方も公平に死ぬはずだった。だが、あの愚かな学者集団は、世界をこのようにした」

「それは興味ないんだよ。何処かの誰かは恨んでるかもしれないけど」


「ではこれからあなたは何を?」

「とりあえず一回アドを直した技術者の名前を教えてくれ」


 そう言われたトゥニカは、と薄い笑みを浮かべて言った。


「ーーーロズウェル。黒い服を着た、ロズウェルという女を探しなさい」


 ◇


「じゃ、スーダくん貰ってくよ」

「ああ、是非また訪れてくれ。客人なら歓迎するよ」


 そう、ロズウェルとディーは会話を交わして村の出口へ向かった。

 ロズウェルは『馬車が来るまで、荷物持ちが欲しい』と言ってスーダを持っていった。魔法陣での移動もするスーダを、ついでに荷物持ちに使うという発想は割と自然なものだがーーーそんなの、建前だ。

 馬車の前でロズウェルはスーダから鞄をひったくるようにして受け取ると、彼の襟を掴んで無理矢理馬車に押し込めた。

 馬車の床に転がるスーダを尻目に、ロズウェルは扉を閉じて乗り込んだ。


「発車させてくれ」


 そう言うと、時間通りにやってきた馬車は時間通りに発車した。

 スーダは中で暴れようとするが、なぜか力が入らない。それどころか、思考がぼやけてくる。


「動けないだろ。僕お手製の麻薬......のようなものかな。麻酔作用と感情増幅作用が強い」


 な、ぜ、お、ま、え、へ、い、き、とスーダの唇が動いたのを見て、ロズウェルは不気味にくつくつと笑ってから言った。


「やっぱ〝人もどき〟だからかな。見て、この腕」


 そう言ってロズウェルが服の袖をまくると、そこには、太さの違う二本の腕を無理やりくっつけて、皮膚というカバーで覆ったような形の腕があった。


「一千年ぐらい前の科学技術はすごくてね。命だって作れたんだ......どうでもいい、かな。本題に入ろう。なんで君が妖精王を殺そうとしたんだい?」


 そう言ってロズウェルはスーダの目の前に近づいた。


「もっと言えば、なぜエスに依頼したのか、それから、なんで連絡先を渡さなかったかってことーーー後者は慣れてなかったから、というので通せるかもしれないけど、前者は無理だ。なんで彼女に依頼した?」


 スーダの体はもうほぼ動かなくなっており、彼は恐怖に咽び泣いて首を振るぐらいのことしかできなくなっていた。

 それを見たロズウェルは、「あっ」と声を漏らしてスーダの額に手を当てた。


「ぷはっ。た、たまたまだ! それ以上にない!」


 そうすると、スーダは勢いよく喋り出した。


「だから、無理があるだろって。僕が思うに、アエテルナエとエスを引き合わせようとしたんじゃないかな。アエテルナエ側も、彼女の価値は知っていたわけだ」

「な、なんのことかさっぱ、さっぱり、さっぱりわ、わからんぞ!」


 動揺した彼は必死でそう答えるも、それが最早回答のようなものだった。ロズウェルは一瞬、恐怖によるものか、同様によるものか判断に迷ったが、言葉を繰り返す度に彼の表情に自信がつくのを見て、後者だろうと考えた。


「なるほど。カラバイアを統合し、妖精の丘を潰して植民地にすれば魔石の条約違反問題は解決。随分と下衆いことを考えるんだね」

「き、気のせい、思い込みだ! お前は思い込みが激しいぞ!」


 そういうスーダの目は、最早頷いているも同然だった。企んでいたことを全て見透かされればそう言った目にもなる。だがここで再び、ロズウェルの頭に疑問が浮かんできた。


「ーーーどうして、そんなことを知れる立場に君が居るんだろう。年も若く、嘘をつくのも下手くそ。僕はクリーンな人間だからわからないけど、裏社会ではやりにくいんじゃない」

「う、うるせえ! 第一おかしいのは、ディーだよ! だって彼女、ヴィッツとかいうペレストロイカのとーーー」

「ヴィッツというのと、ディーが、なんだって?」

「あーーー」


 その瞬間、彼の頭から鮮血が噴き出た。よく見ると矢が貫通している。そしてロズウェルのところにも、同じ矢が飛んできていた。

 ロズウェルはそれを、手の平で受け止めていた。手を貫通したが、言ってしまえばそれだけだ。頭部には一切の被害を受けなかったし、この程度なら回復魔法で治る。


 矢を無理やり引き抜いたロズウェルは、左手袋の中指の先を咥えて外すと、回復魔法をかけて右手の傷を治した。

 血がこびりついた手袋は、スーダの死体の上に投げ捨て、扉をあけて外へ出る。


「あー、これは最悪なやつだーーー」


 ロズウェルはそう言って、周囲を見渡した。

 母神教のシンボルが描かれた服を着た人々に、馬車は包囲されていた。御者はというと、彼も母神教徒だったらしく、目の色を変えてロズウェルににじり寄っていた。


(そういえば、あんだけ騒いだのになんも言われてなかったな)


 ふと、彼女はそう思った。正直何を話しているかわかりっこないと考えていたから、油断していたのだ。

 さらに最悪なのが、奥の方に母神教の服を着た、白い長髪の男がいることだった。あれが、ヘテロジニアスセカンドサイト0098だろう。そう思った彼女は、どこからともなく大きめの黒い布を取り出した。


「ーーーじゃあね」


 そう言って、中に放り投げられ、ロズウェルに被さった布は、ハリネズミのように四方八方に尖り、教徒たちを突き刺して消えた。

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