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Epilogos II -〝エピローグ II〟-

 

 結局、会談は行われた。シークールスでの怪物の出現により、妖精王の船は沈み、彼を狙う暗殺者も出現。カラバイア王は日を改めることを提案したが、妖精王側からの強い要望で行われた。

 会談において、妖精王は魔石の製法についての質問を行った。カラバイアと妖精の丘は魔術同盟と呼ばれるほど、魔法関連の輸出入が多い......例を挙げれば、魔術兵器実験に使う木材など。それに付属して、互いに攻撃しあわないような条約も結んであるのだが、魔石の製法がそれに違反する疑いがあるとして、妖精王は質問した。

 ......妖精王はすでに開戦準備を終わらせていたし、魔石の裏どりもとっていた。何を返されても開戦するつもりであった。これは最終確認のつもりだったのだ。

 だがカラバイア王は「記憶にない」の一点張りであった。妖精王は暗い気持ちになった......あまりにも予想通りすぎたのだから。

 開戦の旗は既に挙げていた。


 ◇


 しばらく経った朝、エスの部屋にスーダは唐突に現れた。ボロボロのベッドから起き上がったエスの目の前に、窓からの日差しを受けて、旅人のような服装の少年が立っている。太陽を遮るための帽子、寒さをしのぐためのマント.....旅人の服装をしているが、エスには旅人が目的としているものの代表例、〝漂流〟〝聖地巡礼〟どちらも当てはまらないように感じていた。そんな違和感だらけの少年は、エスを見て、どこか申し訳なさそうに口を開いた。


「......よう」

「いったい何の用ですか......? もしかして私を殺しに?」

「んなわけない。ただ、ちょっとお願いしたいことがあってさ」


 エスはベッドに腰掛けたまま、手を後ろに回してダガーを握った。このダガーは保険だ。この少年がそこまでの実力者だとは到底思えなかったが、暴れないとは限らない。

 スーダはエスがそうしていることにも気付かず、呑気に床に腰掛けた。


「......正直に言う。妖精王の実力を、おれは見誤った。騎士から聞いたよ。鋼の塊が、でっかい化け物を倒したんだろ」


 違う、と返そうとしてエスは止まった。正確にはヤツは勝手に倒れた、と。しかしそれを答えても、ヘカトンケイルについての情報をスーダから引き出せる気がしなかった。


「報酬のさ、〝父母の居場所〟っての」

「......? なぜ、報酬の話が出てくるので......」

「使わない〝エサ〟は要らない」


 食い気味にスーダは言った。その直後に帽子の鍔で目元を隠した。キザな台詞だったからか、ちょっと恥ずかしそうだ。エスは「なら言うなよ」と心の中で思った。


「だけど、金は払えないぞ......その......上司から出たヤツだから......」

(上司いるんだ......)

「えーと、なになに......」


 スーダは懐から紙切れのメモを取り出し、読み始めた。


「アルシノエ・ウェスター......パパドプロス卿邸で奴隷......テオドロス・ウェスター......は? ......〝ソルテリッジ海溝〟......」

「は? ソルテリッジ海溝?」

「ソルテリッジ海溝......」

「海、ですか......? ふざけて......?」

「知らないよ! 上司から貰ったんだし!」


 エスはなんだかガッカリしたような気持ちになった。それが真実だとは到底思えなかったが、今はそれを信じるしかないことも事実だ。

 ソルティリッジ海溝、とだけ言われてもどこを探そうか......などとエスが考えているうちに、言いたいことを言い終わったスーダはどこかへ行こうとしたが、エスは引き止めた。


「待った。あなたは何者なんです? 私に依頼した目的は?」

「......おれは......スーダ。アエテルナエの、スーダ」

「アエテルナエ ......」


 エスは単語を繰り返した。知っている組織だ。王の統治が行き届かない大陸東端の犯罪集団的自治体。縄張りに侵入しようとしただけで殺されるほどの排他的思想を持ち、民衆の支持を神獣〝アエテルナエ〟に対する信仰によって獲得する、一風変わった組織。勿論、彼らもペレストロイカの魔石販売の顧客である。

 頭が冴えてきたエスはこの状況が意味することに気がついた。暗殺を失敗したことを口実に、アエテルナエはこちらに戦争を吹っかけようとしているのではないか? 思えば、途中で出会った暗殺者も、「ウチはマイナー」だとか、アエテルナエを連想させることを言っていた。アエテルナエの本拠地はここから遠く離れており、総戦力は把握できていない。だからこの時点でどちらが優勢か把握することはできない。もしかしたらそれほどの力が向こうには......。

 そう考えていると、スーダが慌てて否定した。


「違う違う! ......妖精王は、おれの独断。ペレストロイカの暗殺者ならもしかして......と思ったけど、実力差がありすぎたな。おれの判断ミスなんだ。ごめん」

「......ああ、もしかしてそういうことですか? ペレストロイカとアエテルナエで手を組んで、妖精王を潰そうという話?」

「察しが良すぎでは?」

「戦争じゃなくて妖精王を殺さなきゃいけないなんて、それしかなくないですか」

「わかった......今度お前のとこのボスに会いたいから、一応話を通しといてくれないか」


 ◇


「成る程......アエテルナエが。しかし、私も帰ることは出来ない。代理を頼む」

「了解しました......その、ボス。〝計画〟の進行度はいかがです?」

「順調だ。タウバッハの穴を調査していた二人とも接触できた」

「流石です。それで、その二人は今どこに......?」

「目の前にいるよ」


 ボスはベルの蓋を閉じて、自分の代理をしている男との通信を切った。目の前には今しがた運ばれてきたコーヒーが三つ、湯気を立てて、その向こうにいる二人の顔を包んでいる。

 片方は金色で宝石が大量にあしらわれた、ギラギラの鎧を着た男。鎧からのぞく褐色肌は、彼がこの国の純粋な生まれでないことを示す。大方、どこかの移民とカラバイア人のハーフだ、とボスは予想した。

 もう片方はカラバイアでは滅多に見かけない顔立ちの男だった。目つきの悪さもさることながら、骨ばった輪郭と、肩まである髪はボスより凶悪犯罪者のようである。深緑色の折り襟のコートを着ているが、これは間違いなくつい最近買ったものだ。下につけたタイの硬さと、ほつれの無さから分かる。おそらくこちらが、ボスの求める人物だ。


「こんにちは、初めまして。私ペレストロイカという組織の頭領を勤めております、ヴィッツ・ステファノプロスです。よろしくお願いします」

「自分から名乗るタァ余裕じゃねえか、ええ!? こちとらテメエらが売り捌いていたモンのせいで開戦したんだぞ!」


 因劉は噛みつくようにボスことヴィッツに剣を向けた。

 ボスは特段驚いた様子もなく、コーヒーを口に運んで一杯すすり、余裕の表情で二人に告げた。


「冷めますよ」

「そうだぞ、落ち着け。剣をしまえ」


 因劉はボスと似た表情でコーヒーを啜った。ラスティンは困惑顔で剣をしまうと、しょうがないのでとりあえず啜ったが、予想外に熱かったので舌をべっと出して冷ました。


「よろしくお願いします。私は因劉、こちらは騎士団のラスティン」


 因劉は自己紹介をしながら、ここへやってくるに至った経歴の手紙をボスに返した。


「何故我々をここに?」

「あなた方が、ある場所を調査している、と小耳に挟んだものでして」


 ボスと因劉は互いにトゲのない言葉を選びながらも、腹の探り合いをしていた。


「アレですか......興味がおありで?」

「ええ、もちろん。是非、調査にご招待していただきたく」

「是非、お願いします。気になることはいくつかありますが、また今度ということで」


 ボスはそう聞くと、儀礼的な挨拶を済ませて去っていく二人を見送った。


 彼がいなくなった後で、ラスティンは因劉に話しかけた。


「良かったのか? あれ」

「お前らの世界のことなんか知らん。ヤツと俺の目的が同じならば、協力を断る理由はない」

「そうか......」


 目的に徹する因劉と、何よりそれに協力する自分に、ラスティンは罪悪感と後ろめたさを感じた。

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