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Ιππότες - 〝騎士〟 -

 

「カラバイア王、ランベンノ二世の名において貴様らを捕縛する!」


 そう突っかかってきた少女は、剣を持ち上げこちらを威嚇しているようだった。

 0154にとってはあまり衝撃的ではないのか、彼はマシンタイタンの清掃を続けている。

 というのも、あれだけ暴れれば何者かに不審に思われる事があるだろう、と0154は推測済みである。

 0154の様子を見て少女は怒ったように剣を振り下ろすと、0154の方へ歩みを寄せた。


「おい!聞いているのか!? 捕縛するんだよ、ほーばーくー!」

 [分析開始……優先度低。無視して良いと思われる]

「何でだよ!? 捕まるんだぞ!?」


 エスは少しだけ怯えた様な、困った様な表情をしているが、0154は少女が言うことになんの問題もないと考えていた。この世界の文明レベルであれば、自身の能力さえあればどのような拘束も抜け出せる。

 それだけの能力が0154には備わっている。


 納得いかないように顔を背け赤目の少女は騎士達の中へ戻っていった。

 それと入れ替わりでよく似た顔立ち......というか全く一緒の顔の少女が現れた。


 [分析開始……リザルト:顔の似た他人]


 システムメッセージの言う通り、先程の少女が赤だった瞳の色が青い。細部のホクロもよく見たら位置が違い、同一人物でないことを示している。


「ああ……あの子がすいません。捕縛っていうのは間違いです。ただよく分からないものが空中で暴れていたので、話をお聞かせ願えますか?」

「ああ、そんな事なら良いですよ」


 エスの発言で二人は騎士に囲まれることとなった。


 ◇


「……では、あなた方はあの怪物と何の関係もないということで良いんですね? 襲いかかってきたので倒しただけで」

「はい」


 エスがそう話を終わらせる。どこか面倒臭そうだ。話している間、彼女は決していい顔をしなかった。それは自分がこの者たちと相反する存在であるという自覚からか、はたまた別のものから来ているのかは、誰にも分かるはずがなかった。

 どうやらこの青い目の少女と赤目の少女は騎士団長であるらしい。赤目の方がヨハン、青目の方がヨハナだ。ここを見回りしていた所、不審な物を見かけたので立ち寄ったらしい。


「そうですか。ご協力、感謝します。では良い冒険を」


 腑に落ちない顔をしたヨハンを押さえつけながらヨハナは一礼をして去って行こうとした。


「待ってください。私達、あいつのせいで王都行きの馬車を逃しまして。なんかこの近くの町とかの情報教えてくれません?」

「ああ、良いですよ。その程度なら。お礼させてください」


 ヨハナはそう言うと、四つ折りにされた大きめの地図を渡してきた。

 どうやらこの国カラバイアの地形情報や町の情報が事細かに書かれている地図のようだ。


「……! ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ魔物を退治してくれてありがとうございました」


 そう言ってヨハナは去って行った。

 二人はそれを見送ると、地図に目を落とす。そこには各町の行き方や馬車の到達時間などが詳細に書かれている。馬車を失ったのは災難だったが、これを受け取ることが出来たのは大きい。

 今後下手に町の情報を聞こうとして問題になる可能性がぐっと減る。


 [分析開始……リザルト:マシンタイタンで王都へ侵入を推奨]

「それはだめですね。王都に入るには審査がいるんです」

「私が持っていない情報です」

「知ったのはついさっきでした。荷物確認用の魔石をヨハンさんもヨハナさんもつけていたので」


 0154はログを辿る。しかし、魔石に関する知識を持たない彼にはどれが荷物確認用の魔石なのかわからない。

 彼はエスに魔石のことを教えるよう要求してみるが、エスはただ苦笑いすると、隣町を指差した。


「……魔石のことはあまり話したくないです。ここから一番近いのは、このサーウエストってとこですね。ここが安全とは、言い切れない状況ですけど」


 エスが指した街は、ここから少し歩けば着くような距離の街だった。


 ◇


「おっしゃー! 安いよ、お買い得だよー! ついさっき仕入れたばっかのエレメレンの実! どうよ、この甘そうな匂い! 最高だろう?」

「おっちゃんそれいくら?」

「聞いて驚け、100ミナだ!」


 サーウエストの街は熱気に包まれていた。もっともこの国では珍しいことではない。これだけ広い領土を持ちながら、不平等なく皆がこうして明るく振舞っている。その事実が、ランベンノの実力を証明している。

 町の盛り上がりを眺めながら、0154は裏路地を塞ぐように待機していた。エスがベル型の魔導通信機を用いてボスと会話している。右手にベル。左手には青色の、形がリンゴに似ている果実......エレメレン。ちょっと齧ってある。


「……はい、予定より到着が遅れると思われます。申し訳ありません」

『……いい。あの王は俺に逆らえない、一ヶ月でも三年でも待ってくれるさ』


 エスとボスが通信を終えると、町の方へ歩き出した。

 しばらく歩くと、人だかりができている場所があった。どうやらこの町の掲示板らしく、冒険者と思われる出で立ちをした人が張り紙を見上げながら、時折それを剥がしては二本の剣が描かれた看板のある建物、冒険者ギルドへと持って行っているのが見える。

 この街には冒険者ギルド本部が存在する。サーウエストのギルドは本部を中心にいくつも設置されている。

 ギルドも混雑を避けようと広い場所に分けて依頼の掲示板を設置しているが、それでもこの人の多さだ。

 このままでは張り紙が見えない。小柄なエスは押しつぶされてしまう事だろう。エスが困り顔を浮かべていると、0154からシステムメッセージが流れた。


 [セカンドサイト起動。投影開始]


 0154の目から空中に掲示板が表示される。そこに注目が集まりだすと、エスは背伸びをして0154の頭を下へ向け、その場を立ち去った。裏路地へ入っていく。


「......目立つ行動はできるだけ控えてください」

「要求を承認しました」


 0154はそういうと、裏路地の端に先ほど投影した物と同じ映像を投影し出した。

 映像がまだ動いている。先程の場所に録画機器を設置してきたのだろうか。


「その……今言ってた”セカンドサイト”って何ですか?」

「私に備え付けられた透視・千里眼システムです」

「へぇ……」


 エスは瞬間的に0154の恐ろしさに気がついた。0154が一人いれば、闇取引をどれだけ隠そうと丸見えという事だ。この男が持つ能力の全てを解析されてしまっては、自分たちの常識やルール全てを覆さなければならない......。彼が味方として存在することに、エスは安堵した。

 そして、投影された映像を見て......突然0154に声をかけた。


「あ! ちょっと待ってください、今の人! が貼った張り紙!」

「これでしょうか」


 0154が拡大したのは、ギルド職員と思しき人物が貼った張り紙。そこには、三つの”I”と閉じた目の絵が描かれている。


「これ、暴動団体の奴らが掲げているマークです。”母神教”とかいう……」

 [分析開始……リザルト:新興宗教]


 システムメッセージが張り紙に書かれた情報を纏めていく。

 ”母の帰りを歓迎しよう”と大きく書かれ、その下に集合場所と集合日時が記載されていた。 

 詳しく見ていくと、”201年 剣の月の15にこの張り紙がある場所”と書かれている。


「もしかして、集合って今日!?」


 エスがいち早く気付く。0154はこの時代のカレンダーを搭載していないので理解に苦しんでいたが、取り敢えず今日が201年の剣の月の15という日付であることをログに残した。


「行きますよ、えーっと……0154って、なんか呼びにくいですね。本名なんていうんですか?......って、聞くのは野暮か」


 エスが言い終える前に、0154が口を開いた。


「人類防衛用アンドロイドヘテロジニアスセカンドサイト型0154番です」

「長っ。てかアンドロイドとかヘテロジニアスとか、どういう意味なんですか?」

「ログが破損している為不明です。申し訳ありません」


 感情の篭っていない瞳で謝る0154を見て、エスはやり辛そうに頭をぽりぽりと掻いた。


「いえお気になさらず。えーと......アンドロイド・ヘテロジニアス・セカンドサイト0154さん?」

「あなたがそう呼びたいのであればそれで構いません」

「こんな長い名前呼びたくないですよ。アンドロイド・H・セカンドサイト……アンドーさん、カラバイア風にアドーさん、とか」

「ではアドとお呼びください」


 0154がそう言った瞬間、彼の頭に何かが流れる。

 白いものがパチパチと弾ける感触。自分の中の忘れてはいけない誰かと、自分が引き合おうとしている。0154は壊れかけの感情で”怖い”を認識し、その場に蹲った。


 [不明なシグナルを検知 分析開始……100%]


 ◇


『ねえ、アド。この戦争が終わったら、何処に行きたい?』


 また破損しているログが閲覧可能になっていた。目の前にはスノーノイズと僅かなホワイトノイズに混じってこちらに微笑みかける少女がいる。ひどく懐かしい様な......そんな存在である、と自分は確信を抱いた。


『そう、だな……遊園地、というのがラボのデータベースにあった。そこに行きたい』

『遊園地、ね。よし! 私頑張っちゃうぞー!』

『行けたらな。その為にも、あれをどうにかしないと……』


 自分がそう言って空を見上げる。その瞬間の映像は、酷いノイズで何も感じ取れなかった。


『そう、だね。まあ今考えても損はないでしょ。遊園地、何に乗りたい?』

『……観覧車』

『え~地味~もっと博士が言ってたみたいな……』


 次第にノイズが酷くなっていき、ログの再生が停止された。


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