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Ἑκατόγχειρ〝ヘカトンケイル〟

[処置完了。再起動に成功]

『ウォオオオオォアアァ……』

「うわ、動いた!」


 ヘカトンケイルは呻き声とともに、エスの乗るマシンタイタンに向かって腕を振り下ろした。

 エスは咄嗟に回避し、魔法攻撃を仕掛けようとした……が、止めた。

 ヘカトンケイルの腕が、一人でにもげたから。


「はぁ……? 弱いの?」

『エスさん!』


 困惑していたエスに、アドがモニター越しに叫んだので、エスは訳も分からず出鱈目な方向に回避した。

 どうも回避できたようなのでそちらを見ると、ヘカトンケイルはビームを放っていた。アドのそれとよく似ている攻撃だ。

 アドがビームを放つと、ヘカトンケイルもまた撃ち返してきた。注意が自分の方に向いていることを理解したアドは、異形を引きつけるべく少しずつ後退したが、異形はその場から動く様子がない。

 これは好機とばかりに一方的に攻撃を仕掛けると、ヘカトンケイルはあえなく倒れた。


「......? なんだったんだあれ?」

『微弱な信号をキャッチ。エスさん、念の為退避してください』


 エスは困惑しつつ、アドの言うとおりにした。

 あんな大仰なあらわれ方をしておきながら、こんなに弱いデカブツ......エスにはそれに、何か意味があるとしか思えなかった。

 退避してからヘカトンケイルが倒れた場所を観察する。すると、そこから何か......人間の脊椎に似たものが伸びてきているのを発見した。

 それはマシンタイタンが浮遊している高さまで伸びると、パシャっという軽快な音と共に先端を開き、内部から何かを射出した。

 その後、ヘカトンケイルは伸びたそれをつまみ上げられるように、塔のような形へと変形した。


「......なんかある」

『エスさん?』


 エスはボソッと呟くと、おもむろにマシンタイタンをヘカトンケイルの死骸の方へ向かわせた。

 錆びついた金属の地面へ着陸し、コックピットが開くと、エスは先ほどの脊椎に似たそれの方へ向かった。まずは最も目立っていて怪しい部位の調査だ。

 あんなにも巨大に見えていたそれは、着陸してみると意外と近くにあったので、エスは小走りでそこへ向かった。

 少し遅れてアドが着陸し、すぐさまエスに追いついた。全く人間らしくない素早さだ。


「何をしようとしているのですか?」


 アドに話しかけられたエスが、回答しようとしたその瞬間。


「私がお答えしましょう。ええ、この私が」


 ニチャついた笑い声と、君の悪い、高い声......トゥニカの声がした。

 声の直後、脊椎のようなそれの後ろからトゥニカが現れた。白い花で作られた花冠、病的なまでに白い肌、そして白い貫頭衣、白くて、白い、白、白、白..............トゥニカは口を開いた。


「エスさんは私がお呼びしました。どのように? ......それはお教えできませんがね。このヘカトンケイルの正体と、私の目的ぐらいはお教えいたしましょう!」


 エスはすぐさま戦闘態勢に移ったが、魔力が集まっていかない。なぜか集中できない。アドはエスの前に立ち、彼女を守るように武器を展開した。


「何も、戦闘態勢をとらずとも。今しがた打ち出されたものとこれに興味があるのでしょう? アレはサプライズの一種なので、それはお教えできませんが、それ以外なら。このヘカトンケイルはいわば〝タイムマシン〟なのです。そして、私はこれを起動するため、母神教の活動すら一時的に停止させ、長い間作業し、遂に今日復元したのです......!」


 トゥニカはその濁った目を大きく開くと、突然絶叫した。


「今日で遂に揃ったァ! 偉大なる母の復活! 待ちに待った日が、もうすぐ訪れようとしているッッ! こんなに嬉しい気持ちになったのは、この世界に生まれて初めてのことだ!」

「母の、復活......それが起きると?」


 エスが尋ねた。


「ふふ、ふふふふふ......〝世界が滅びる〟のです......! ああ、何たる素晴らしいことか!」

「......クソ終末主義者が......」

「エスさん。あなたも、いつか滅ぼす側に回る日がきますよ......! 何と言っても、我々の行動は、人間の本質そのものに直結するものなのですから!」


 トゥニカはそう言い残すと、霞のように消えていった。その場には、トゥニカの絶叫の木霊だけが残った。


 ◇


 くらい。

 暗く閉ざされ、母神教のシンボルが掲げられた教会の中で、背中に閉じた目を描いたチャイルドたちは祈りを捧げていた。

 〝母の御言葉〟......第五節。


「信心絶やすことなかれ。さすれば、望みしことすべて手に入らん」


 彼らが信仰することに、理由などない。神たる母が存在し、彼女は世界を救済なさる存在ゆえ......だから、今日もこうして信じる心を見せれば、いつしかすべて救われるのだ。少なくとも、この空間ではそれは絶対の真実だ。

 そこで真実であることは、稀に現実でも真実となることがある。


 トゥニカは死んでない。

 トゥニカは死んでない。

 トゥニカは死んでない。

 だって、彼は神様()の使いで、ぼくらを救ってくれる存在を示してくれたお方だから。


 だから彼らはトゥニカを失っても今日この日まで生きてこれた......そして、その信心は次の瞬間にはより盤石なものとなる。

 どこからともなく、白い霞のようにトゥニカが現れたのだ。トゥニカはうわごとのように「奇跡」という単語を繰り返すチャイルドを、右手を少しあげただけで静まり返らせると、母神教のシンボルの前にたった。


「皆様......今日まで待ってくださったことを、感謝し、そして、謝罪致します。母の復活が盤石なものになるまで時間がかかってしまいました」

「......ということは.......」

「ええ、もちろん。これで母の復活の準備は整い、遂に我々は母の住む大地、世界開闢より私たちに備えられた国へ向かうのです!」

「おおぉ......!」


 チャイルドたちに歓喜の波は一斉に広がった。これで救われる。こんな、誰も救われない国から。


「そして、〝予言〟を」


 歓喜でざわついたチャイルドたちは、トゥニカの「予言」というワードを聞いて一瞬で静まり返った。

 トゥニカは咳払いをすると、その言葉の裏に隠れる荘厳さを目一杯に伝える声音で語った。


「〝近く、罪の国、愚の国にて火が起きる。母の子らは、これによる力を母に捧ぎたまえ。さすれば、母は目覚め、世界に散らばりし三つの穴と共鳴するだろう〟」

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