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Σχέδιον - ”計画” -

「四日後......」


 エスは仕事の日付を呟いて、自室で計画を練っている。かなり日付が押している。今から暗殺予定地に向かって、間に合うだろうか......。

 彼女は未だ五千万のボスからの依頼と、父母にまつわるスーダからの依頼のどちらを取るかを決めかねている。が、やることは変わらない。今まで通り、情報収集、計画、下見、調整、実行を繰り返すという枠組みに当てはめるだけだ。


(スーダめ……私も私だけど……)


 エスはこの状況を作り出した少年に心の中で毒づいた。今まで、話が一通り終わったあとに場所と日付を指定されて会っていたから、エスはスーダと連絡する術を有していない。スーダが連絡用の機器を持っていないとか、住所が決まっておらず手紙を送れないなど、その背景に対する考察はいくらでもできるが、それは考察なのであって、事実ではない。とにかく、連絡ができないというのはエスにとって避けるべき事態だった。それを疎かにしていたエスにも、もちろん非はあるし、彼女も理解しているが。

 対談の場所はディナバス王宮の中だという。今頃、露店も出ていることだろう。

 さて、ディナバスの様子はともかくとして、ディナバスや、妖精の王が到着する街に居る必要がないというのは、彼女も理解している。理由は簡単で、ディナバスで会談が行われるからといって、わざわざそこを狙う必要性はないからだ。これがテロなら話は別だが、エスの仕事は暗殺や警護である。後者の〝警護〟というのは、同じ世界の者から守れ、という警護だ。他は警備員が守ればいい。暗殺をするなら、主要な街を見ておく必要性はない。そこは警備も厳重で、暗殺するにしても、守るにしても、どちらにしても面倒だ。

 エスの知識では、カラバイアには港町と呼べる街がタウバッハ以外に三つある。タウバッハは現在復興作業中だから、余程のことがない限り、使われないだろう。他の三つのうち、妖精の丘から最も近いのは、タウバッハから二つほど街を挟んだ所にあるシークールス。他は妖精の丘の方と真逆のクリクッス、そして妖精の丘から行けないこともないが王都へ行くには遠すぎるイオタバ。ここから考えるなら、シークールスで間違いない。シークールスからディナバスへは通常であれば三日かかるが、王国の馬車で行けば一日とかからず着くだろう。道中のサーウエストを経由するだろうから、妖精の王は会談の二日前にはこの国へとやってくる。

 エスは長く考えに沈んだ後、情報収集と計画を完了し、少し面倒くさそうな顔をした。

 計画を練るに当たって、使い慣れない武器を使う方が成功率が上がることに気がついたのだ。


 ◇


「ヨハン。ディナバスとシークールスの状態は」


 自室の陽光に照らされるランベンノ=カラバイア二世が、眼前の金髪の少女に尋ねた。街を駆けては民を守る、その姿は絵画のモデルにされるほどに凛々しいと言われているような少女が王を慕っているというのは、彼女の周りを包む空気のみで伝わる。


「はっ。一通り調査した限りでは、完璧であります。十二分にもてなすことができるでしょう」

「よろしい。では、タウバッハの復興事業について報告せよ」

「ラスティンが調査した限りでは、一ヶ月以内には完全に回復するだろう、との、こと、です……」


 徐々に声音を弱めていくヨハンを見て、ラスティンは片眉を上げた。


「どうした? やはり問題があるのか?」


 ヨハンは縋り付くような意思を込めて、口を開いた。


「それが……ラスティンが手紙を一方的に寄越すばかりで、帰還しないのです……」


 やはりか、とランベンノは額に手を当てて椅子に腰掛けた。あの男はそういう男だ。予想外の事態であるかと問われれば、嘘になる。しかし、騎士でも序列二番のあの男が居ないとなると、妖精の王に突っつかれるかもしれない、とランベンノは悪い予想をした。しかし、もし居た時のことを考えると、やはり悪い予想へと思考は転がっていく。


「しょうがない。妖精の王を守護する騎士は、ベイジャー、ヨハン、ヨハナの三人ということにしよう」

「左様でございますか!」


 ヨハンが目を輝かせて顔を上げた。その表情は陽光に照らされて一層輝いているように見える。ランベンノがゆったりと頷くと、ヨハンは胸に手を当てて一礼した。


「誉れ高きことです。王の期待に添えるよう、我が全力をふるわせて頂きます!」


 ◇


「完璧……」


 思わずエスの口から溢れたのは、そんな言葉だった。以前カイの店に行った時に買ってみたが、いざ実用化するとなると素晴らしさがよく分かる。少々エスの財布を痛めつけはしたが、それを差し引いても充分すぎる完成度だ。

 クロスボウ。今回使うのはそれだ。遠隔の武器というジャンルでは今最も人気といって間違いない。銃、というものを開発していると小耳に挟んだことがあるが、まだ実用化には程遠い。ロングボウという手もあるが、それは慣れるまでに時間がかかりすぎる。だから、クロスボウが選ばれたのは必然というものだ。

 何発か試し撃ちして、計算に必要な情報を見ていく。どれぐらいの速度で矢が飛ぶか? この威力で暗殺者、もしくは妖精の王の頭を吹き飛ばせるだろうか? 


「……よし」


 エスは何度もイメージトレーニングと計算を積んで、そう判断を下した。次に考えるのは守っている連中のことだ。妖精の王のこめかみをクロスボウで撃ち抜くタイミングは、やはり街中で、昼食中、もしくは深夜だ。それならば狙撃できるだろう。場所は既に決定している。途中で経由するサーウエストで実行だ。途中で経由して昼食をとるだけだから、ディナバスとシークールス以上の警戒は敷かれていないはずだ。後はサーウエストまで、最短距離で行く。馬車は時間がかかるから、ここからは単純に全力で疾走して向かう。何も食べずに、寝ずに走ればなんとか間に合う。残った半日で狙撃ポイントまで行く。幸いにして、サーウエストには一度行ったことがあるので、僅かだが土地勘がある。半日もあれば、現場で調整ができるだろう。


(プランAはこれで決定だな……)


 エスは心の中でそう呟く。暗殺者は一つの案を立てて終わりではない。大抵の場合、最初の計画は乱されるものだ。初めてそうした時も、そうだった。

 夕日がどれだけ傾こうと、街を駆けながら計画を練っていく。その度にプランAの問題が湧いて出てきては、それを潰して、別の計画を作っていく。走りながら。不安を拭うように、必死で。休む間も惜しんで。時間がない。日が完全に沈んでも、なお。期限が迫ってきても、なお。

 なんとかサーウエストまで到着し、肉体的な疲労と頭痛に苦しめられていたエスに、吉報が舞い込んでくる。ボスからの連絡だ。今日一日をかけて全力でサーウエストまでたどり着いたエスに、それは少しの不安を与えていたが、内容を聞いて彼女は飛び上がるほどに喜んだ。

 依頼キャンセルだ。これで、スーダとのダブルブッキングは解消された。ボスがその口ぶりの裏に匂わせるもう一人の暗殺者の存在は気がかりだが、直接の問題にはならない。計画はDまで考えた。大分少ないが、時間が時間だ、他の計画の調整に当てる方がいい。これ以上のプランは出てこないだろう。あとは本番に備えるだけだ……彼女はそう確信して、プランAの狙撃ポイント、冒険者ギルドの屋上で本番まで待機し始めた。


 ◇


「ボス、これで良かったんですか?」


 ボスは目の前の男の質問に、静かに頷きという形で答えた。

 理由を求める男に、ボスは短く告げる。


「計画を少し変更したのさ......妖精の王を殺さない必要がなくなったのでな」


 ボスは椅子に腰掛けながら、男にそうとだけ言って窓の向こうを見た。

 タウバッハ......カイの持ってくる情報はいつも、ボスの計画に予想外の事態を齎す。カイ曰く、タウバッハで〝遺跡〟が発見されたらしい。それだけであればわざわざ彼が行動を起こす必要もないのだが、それに加えて騎士と怪しげな男が調査を開始しているようだ。これは彼にとって、無視できない。遺跡はカイとの計画に大きく関わる一ピースだ。

 妖精の王には悪いが、死んでもらう。ボスは、自分のゴールに向かって、計画というピースを用いて最短距離で向かう......そこに、必要ないことをしている暇など、ないのだ。

 ボスは椅子から立ち上がり、眼前の男へと告げた。


「私は明日からタウバッハへと向かう。依頼はお前がとってくれ」

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