Τέρας - 〝怪物〟 -
徒歩で進み、街の外れに出る。異様な身なりで異常な強さの男がいると噂が伝わっていたのか、何人かの血気盛んな冒険者達が決闘を挑んできたが、その度に0154は断っていた。
外壁の外側、柵に囲まれ街の外でもっとも魔物に襲われる可能性が低いと思われる場所。
そこでは馬車が一台待機していた。
「この馬車はー! 予約制だよー! 先客がいるよー! 乗れないよー!」
馬車の運転手だろうか、やや小太りの中年男性が大声で叫んでいた。
恐らくボスが手配した馬車というのがこれだろう。
「すいませーん! 多分、その客です!」
エスが中年男性に駆け寄る。少し話した後、エスが手招きをして0154を馬車の荷台に座らせた。
そして馬車が発進する。道端の石を蹴り、二匹の馬がタイヤを転がしていく。
あからさまに客人向けに装飾された馬車の内装は、やや目に優しくないものであるらしく、エスは窓の外を見ていた。
「ちゃんと借金を返せますかね」
[分析開始:私の協力による任務の成功率……リザルト:99.8%]
「貴方って、なんか自信たっぷりですよね」
「私は万能無敵のロボットです。それより、なぜ彼女を王都に誘わなかったのですか?」
0154の言う彼女、とはあのとき荷物を運んでいた新入りのことだ。この一週間で何度も聞いた話。それを聞く度、0154はその事を疑問に思っていた。
何故そこまでその少女に肩入れするのか、と。
「私の責任だってことにして起きたかったんです。黒い噂とか出たら可哀想だから……」
[分析開始……失敗。感情プログラムの破損によるものと判断]
突然馬車に強い揺れが走る。そして男性の悲鳴が聞こえ、何事かと思い0154も窓から顔を出すと、馬車を引く二匹の馬の脊椎から何かが突き出ていた。
あの時の魔物と同じ現象。生まれるようにして現れた肉塊は、馬車を横に切り裂いた。
触手があるが、羽が生えていない。浮遊している。別種類の個体だろうか。
「! 逃げてください!」
[分析開始……リザルト:敵生体。戦闘に移行します]
エスが男性に忠告すると、男は腰を抜かしながら逃げていった。
0154が指先からレーザーを放つ。二体の魔物に命中した。
しかし、魔物は傷ついた箇所を粘液を散らして修復し、再び刃物のついた触手で二人に襲い掛かった。
[コードα効果を認めず。コードβへの移行を推奨]
「コードβ作動。22190154」
0154がコマンドを叫ぶと、ホログラムのようにして現れた一本の槍が実体化する。先端の槍の部分より下にはコードや回路が見えている。それを魔物の触手の一本に突き立て、相手の動きを封じた。
負けじとエスも自身の得意魔法である凍結魔法を使用し、魔物の動きを抑えようとする。
『グギィ、グゥう……』
魔物は苦しそうに呻くと、高熱を発して触手を振り回し始めた。
周りの木々がなぎ倒れ、草が燃える。しかし、もう絶命も時間の問題である。
そう思われたその時、魔物が逃げようとして腰を抜かした男性に目を付けた。
怪物がその男性の皮膚に穴を開け、そこに入り込んだ瞬間、男性の脊椎から進化した魔物が飛び出した。
黄色い卵のような核は中心から縦に開き、何やらぶつぶつと呟いている。
緑色の触手のような腕には刃物がつき、核を支える二本の足が新しく生えていた。
それだけで不気味だが、更に不気味さに拍車をかけているのはその大きさである。3メートルほどはあるだろう。
[分析開始……リザルト:”極めて危険な敵生体”]
人間が分析するまでもない事をシステムメッセージが伝える。
エスは凍結魔法が効かない事を悟ると、大地属性……つまり、土の形状を変え攻撃する魔法を試していた。
0154は槍での攻撃を試すが、うまく接近できず攻撃できていない。
[パターンβ効果を認めず。パターンγが有効である可能性……15%]
「パターンε作動。22190154」
0154がそう叫んだ。しかし、何も起きない。
エスはその場で待機し始める0154を見て疑問を抱きながらも、何かをするのだろうと考え自分の使える限りのの魔法で怪物を引きつける。
[カム・マシンタイタン]
システムメッセージが轟き、その場に巨人が現れた。
白いボディは、砂や泥で大分汚れている。その影響で化石のような見た目をした巨人は、胸部を開き0154を迎え入れる準備をした。
「マシンタイタン起動。システム……イエロー。強制実行」
一千年も放置されていたはずの機体である。いくつかの機能が停止してしまっているが、主要な部分は損傷がない為動かしても問題はないだろう。彼はそう判断した。
『ギィ! .......ロボ、ロボォ!』
「!!」
怪物がその名を口にした。確か博士はこれをそう呼んでいたと、破損していないログにある。
それを機にする素振りを出来るだけ隠し、0154は怪物へ襲いかかった。
怪物と同身長程度のマシンタイタンが触手を弾く。
マシンタイタンは怪物の核部分に的確に攻撃をし、確実に相手を追い詰めていた。
危機を察知したのか、怪物は突然自分の触手で足を切り落とすと、背中から翼を生やし大空へ舞い上がった。
[マシンタイタン:フライモード]
タイタンから音声が鳴ったかと思うと、脚が折り畳まれコックピットが変形し、ジェット機のような形状へと変形した。
地上のエスが目をキラキラさせながらその様子を見ている。
「……逃さない!」
0154がコックピットに備え付けられたモニターを操作し、飛行形態のマシンタイタンから何発ものミサイルが発射される。
ミサイルは怪物へ追いつくと、空中で派手な花火を上げた。
マシンタイタンが地上へ戻っていく。
「かぁーっこいいぃいぃぃー!」
「待っていてください。今メンテナンスしますから……」
目をキラキラさせるエスを静止させると、0154は手のモジュールをブラシに変形させタイタンを掃除し始めた。
化石のようなボディに純白の色が戻っていく。流石に完璧とまではいかず、わずかに黄ばんでしまっているが、その程度は些細な問題だろう。重要なのは内部だ。
[分析開始……リザルト:モーター内部等数カ所に汚れが見られます]
「……それだけ?」
[分析開始……リザルト:有識の他者にパーツを変えられた形跡があります]
他者。0154は以前自身のログを外部信号によって復元された時の事を思い出していた。
この文明が衰退した世界で、そのような事が可能な人物。そう多数いるとは考えられない。
やはり、博士という人物だろうか。
0154が思考を巡らせていると、何者かが近づいてくる音が聞こえた。
がしゃん、がしゃんと鎧が揺れる音が聞こえる。
その音が二人の前で立ち止まると、軍団の中央から誰かが出てきた。
「そこを動くな! 我が国カラバイアの王、ランベンノ二世の名において貴様らを捕縛する!」
そう、他と比べて明らかに年若い少女二人が声高々に宣言していた。