Σκέψη -〝思考〟-
「妖精族......デザイナーベビー......?」
「そうか。君は記憶を失っていて、よく分からないんだったな。なら、この場所自体の説明から始めた方がいいだろう。ここは”妖精の丘”。君が目覚めたソルテリッジ海溝の隣。今日に至るまで隠蔽されてきた、全ての真実がある場所だ」
アドは何も仕草や表情が出ないものの、その言葉に微かな何かを抱いていた。その正体は誰にも分かるはずがない。
それをみて、ロズウェルはなぜか薄く笑った。
「そもそも、君が目覚めた時の状況を覚えているかい?」
「......私は海に浮いていて......漁師に回収されて......それでカラバイアを一人で一ヶ月程度旅をしていました」
「そう、その辺りから”おかしい”んだよ。だって、カラバイアの言語を君が知っている道理がないだろう? それに、君は海に浮くには重すぎる。つまり?」
「あなた方が......」
「違う。いや、海に浮いたあたりは僕たちだよ。魔法の力さ。凄いだろ。でも今話したいのは、君が何故カラバイア言語を扱えるのか、という問題さ。自分で答えを出してごらん?」
アドはしばらく俯いて考え始めた。が、やはり一向に答えが出てこない。だが、ロズウェルは教えてくれなさそうだ。なので、自分の言語の状況を一から整理してみることにした。気がついたら自身の言語機能にカラバイア語が追加されていて、しかもそれに設定された状態で自身は目覚めた。勿論言語機能は自身で設定できる。だが、その言語の正体が判明しない限りアドには正しく設定できない。カラバイア語は未知の言語だ。自分に設定できるはずもない。つまり......。
「知識がある他者の干渉......?」
「そうそう! その通り! やればできるじゃないか!」
ロズウェルは自分の子供が成功した時の親のようにはしゃいだ。そしてゴホン、と咳き込むと、冷静な表情になって、ジト目になった。そして続きを語り出す。
「......そう、知識を持つ他者の干渉だ。この他者の正体はまだ分かっていないんだが......僕はトゥニカの仕業じゃないかと思っている」
「トゥニカ......」
彼の脳裏にあの気味の悪い笑みを浮かべた男が映った。母神教のリーダーとして暗躍し、タウバッハでテロ......のようなものを起こすのに成功したが、その時にアドに殺された男......交渉と称した脅迫の時のことなど、未だ謎多き男......。
「この際だから、僕たちの目的についても説明しよう。僕たちの目的は根本はトゥニカと同じ、”母”の復活」
「......!」
「そう警戒しないでよ。彼らは極めて暴力的、強迫的な方法での母の復活を目指したけど、僕たちは違う。極めて穏便に、平和的に母を復活させたい」
「......故の、戦争ですか......?」
アドが尋ねると、ロズウェルはクツクツと笑い、”それは違うなぁ”と答えた。ロズウェルの笑顔が生理的嫌悪感を催すようなものであったらしく、隣のシエラが嫌そうな顔をしていた。
「なー! おれも話に混ぜてくれよー! オマエの話難しいんだよー!」
「そうだ、戦争の話には彼らも関わってくるんだった。君の事情は極めて難解、且つ困難だからね。色んなところを説明していかないと。シエラがデザイナーベビーという話だが......タイムスリップの話は、トゥニカから聞いたかな」
「少々ばかり......」
トゥニカから、サリヴァンはタイムスリップの研究をしていた、と聞いた。それがどのようなものかは、定期的に復元される動画ファイルの中で思い出すことができた。
デザイナーベビーに記憶や人格をコピーすることによって行われる、タイムスリップ。それがサリヴァンの研究していたタイムスリップらしい。
そこまで考えて、アドはふと目の前にいるのが同じデザイナーベビーであることに気が付いた。つまり......。
「シエラさんも、タイムスリップしてきた方で......?」
「いいや、違うね。妖精族はデザイナーベビーはデザイナーベビーでも、失敗作だ」
「......?」
アドは僅かに首を傾げた......それが言っている意味が分からない時の人がする仕草だと知っていたので......。そんなアドの様子を見て、ロズウェルは再びクツクツと笑って、続きを話した。
「コピーに失敗したんだよ。要するに、彼女たちは中身が空っぽの状態で生まれた、という訳だ。何も入っていない、そんな状態で誕生し、腐って死ぬはずだった。でも彼女たちは”何故か”マトモな状態で蘇ったという訳だ」
「......?」
「分からんか。マァそうだよなぁ......私自身訳分かんないもんナァ......」
ロズウェルは頭の後ろをぽりぽりと掻き、次に話すことを考え始めた。その仕草を見て、アドはふとあることを思い出し、ロズウェルに極めて冷静に尋ねた。
「そうだ、エスさん。エスさんは......?」
「ああ、元・ドクター・サリヴァンか......本当は彼女と君は一緒に居るべきではないんだがな......そうすると平和的な母の復活はほぼ不可能になってしまうからな......」
「......?」
アドが再び首を傾げた。それを見て、ロズウェルは悲しげに目を伏せると、「マァ......」と前置きをして、再び口を開くのだった。




